質問: 自分の研究を初めて発表する研究者だけに功績を与えるべきか?

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回答:

「掲載か、さもなければ死か」という文化からわかりますように、科学の世界では非常に熾烈な競争が行われています。この世界では、研究成果あるいは理論を最初に報告した研究者、あるいは研究グループだけが認められる、というのは事実です。他の研究者がそれとは別に、同時に同じ結論に達したとしても、最初の研究を発表した者が完全なる名誉を与えられるのです。これは、「早い者勝ちの原則(rule of priority)」と言われ、科学が始まった時から続いています。発見を自分の功績にすることをめぐる論争のうち、記録に残る最も古いものは、アイザック・ニュートンとゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツの論争です。17世紀のこと、2人は微積分学を最初に発見したのは自分であると主張しました。以来、研究者が自分たちの発見の功績をめぐって争う事態がいくつか起こっています。

 

早い者勝ちの原則は、発見したことを最初に発表した研究者が、功績、助成金、名誉、出世の機会のすべてを手に入れるという、勝者総取り制にもとづいています。勝者総取り制は、十分な補助金がなく、報奨の配分も不十分であったことに由来しているのかもしれません。さらに、 このシステムが、リサーチ・プログラムに投資された能力と労力を測る唯一の方法だととらえる人もいます。早い者勝ちの原則が使われているもう一つの重要な理由は、他の研究者が倫理に反し、現在発表されている研究知見を反復したり、自分の研究だと主張したりする可能性があることです。

 

たいていの研究者はこの競争を肯定的に受けとめ、一生懸命研究し、迅速に結論にたどり着くよう心がけるきっかけになっています。ひいては、これが人類全体の利益につながるのです。けれども、こうした競争が科学の飛躍的な進歩につながる一方で、同時に研究者の間の不健全な争いをもたらし、そのうえ科学の発展を害することもあります。このことは、非倫理的な出版行為、不正が行われた出版物、論文撤回を伴う数多くの事例に見ることができます。こうした事件の一例が自閉症と麻疹ワクチンの関連を論じたランセットによる1998年論文(Lancet article that linked autism to the measles)で、この論文は、著者が重大な不正行為の罪を犯していたため後に撤回されました。功績の最大限の独占を主張するため、秘密主義、他者のデータの盗用、偏った行動におちいる研究者もいます。したがって、科学者に報奨を与え確実に科学を進歩させる手段として、早い者勝ちの原則が最善かどうかを考えるのは意味のあることでしょう。

 

科学というものは極端な競争世界で機能しており、メリットもデメリットも公平に与えられています。早い者勝ちの原則に代わるものとして、補助金がこれまでより多く配分されたり、研究者にとって手に入る職がもっと多くなることが挙げられるでしょう。加えて、ある発見に向かって研究しているすべての研究者が補償され、大きく貢献した人にはより多くの報酬が与えられるというシステムが始まる可能性があります。早い者勝ちの原則に批判的であったとしても、科学は乏しい資源にもとづいて機能しているのであり、したがってこうした原則が、研究においてレベルの高い努力、高い水準、貴重な研究結果を促し維持する一つの手段であるという事実を、考慮しなければなりません。

 

資料:

http://en.wikipedia.org/wiki/Scientific_priority 

http://andromeda.rutgers.edu/gradnwk/RCR%20Downloads/Competition.pdf

http://iai.asm.org/content/80/3/891.full

http://www.strevens.org/research/scistru/Prioritas.pdf 


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