ネイチャーのコンテンツ共有サービスの実情―アクセスフリーかアクセス制限か

ネイチャーのコンテンツ共有サービスの実情―アクセスフリーかアクセス制限か

ネイチャー・パブリッシング・グループ(Nature Publishing Group, NPG)の親会社であるマクミラン社(Macmillan)は2014年12月2日、新しいコンテンツ共有サービスの開始を発表しました。このサービスでは、ウェブサイト上の専用リンクを通じ、nature.comの購読者が、購読者登録をしていない友人・同僚・共同研究者らと論文を共有することができます。このリンクでは、Macmillanグループ傘下のDigital Science社が開発したReadCubeというプログラムを利用して、論文のリードオンリー(読み取り専用)版を閲覧することができるようになっています。

NPGによると、全世界で6000以上の大学や機関に所属する科学者や学生がこの便利な機能を利用でき、nature.comへの月間ユニーク(=延べではなく実質/正味の)訪問者数は1000万人の増加が見込まれています。非購読者が無料で、何千もの質の高い科学論文にアクセスすることができるようになるということです。ただしシェアされた論文をダウンロード、印刷、再シェアすることはできず、非商用の個人利用に限られます。またこの方法により、nature.comに掲載された論文の成果を報告する約100社のメディア企業やブログが、読者にオリジナル論文のフルテキストのリードオンリー版(読み取り専用版)へのリンクを提供できるようになります。共同研究の促進を目指す目的から、ReadCubeには、購読者が自分のコメントを同僚にシェアできるようにする注釈機能も導入されています。

これは一見、オープンアクセスへの移行を意識した動きのように見えます。NPGは、この試みを通じ、以前は購読者のみ閲覧可能であった論文に無料でアクセスできるようにすると説明しています。しかしながら、この試みに対する科学界の反応は様々です。NPGはアクセス可能なコンテンツを増やしたわけではなく、共有できる内容に制限を加えたと考える人が多数を占めています。この取り組みの開始前、非購読者の研究者が購読者である友人や同僚に論文記事のPDFコピーをもらい、メールでシェア(共有)してもらう、ということは日常的に行われていました。あるいは、非購読者がTwitterの#icanhazpdfなどのソーシャルメディアで論文のPDFコピーを求めると、ネイチャーの購読権を持つ人が、個人でコピーを送ることができました。多くの人は、今回のNPGの取り組みは、これらの「ダーク・ソーシャル(裏社会)」での共有と呼ばれるシェアリングを阻止することが狙いではないかとみています。Technopediaディクショナリーによると、ダーク・ソーシャル・シェアリングとは、「Web分析プログラムでは計測不可能な領域で起こるソーシャル・シェアリング」のことを指します。NPGやその他の出版社が、このような共有を奨励しないのはなぜでしょうか。それは、ダーク・ソーシャル・シェアリングでは、論文単位の指標(article level metrics)がきちんと測定できないためです。NPGは、インパクトファクター(IF)の高さを常に誇りとしてきました。インパクトファクターの重要性が下降している現在、一流出版社としての地位を維持するために、論文単位の評価指標やオルトメトリクス(altmetrics、代替指標)を重視するのは当然といえます。

またこの発表は、世界の資金提供機関がオープンアクセスの義務付けを発表した時期に行われました。ネイチャー各誌の50%近くはオープンアクセスですが、残りの40-50%は有料です。NPGは今でも、印刷可能なPDF版に6ヶ月の指し止め期間を設けています。つまりその間、各機関のリポジトリに論文を掲載することはできないということです。そうした中でこのようなコンテンツ・シェアリングを提供していれば、全面的にオープンアクセスとしなくても、論文への無料アクセスを提供していると主張できます。もうひとつ気がかりなのは、ReadCubeを通じてすぐに共有が可能になるということは、実はオープンアクセス本来の目的を抑止することになるかもしれないということです。皆何らかの方法で自分の論文記事にアクセスできると考え、著者がセルフアーカイブをしなくなるという可能性があるからです。この意味で、本当のオープンアクセスからは一歩後退していると言えるのではないでしょうか。

Digital Science社の社長、ティモ・ハネイ(Timo Hannay)氏は、NPGの取り組みの目的はアクセス制限ではなく、著者の功績を評価し、起こっていることを見えやすくすることにあるといいます。

NPGは著作権を盾に共有行為を止めようとしているのではない、と指摘するハネイ氏は、この取り組みについて次のように述べています。「これは共有を抑制する手段ではなく、より簡単かつ便利に共有できるようにする方法です。我々はこのような共有行為が、注目を集めてしかるべき著者や、研究者が何を読んでいるのかを知りたい研究機関や、出版社自身に分かるようにする方法を考えたのです」

しかしこの発表後、目立った変化はありません。学生や学者がこれらの論文記事にアクセスするには、所属機関がネイチャー各誌を購読していることが必要です。そうでなければ、知り合いの誰かにリンクやPDFをもらわなければなりません。PDFを共有したければ、そうすることは可能です。コンテンツ共有サービスは、科学に興味を持つ一般の人々にとって恩恵があるかもしれません。ニュース報道の元になっている研究論文を閲覧することができるからです。この取り組みは、NPGによる一年間の試験的プログラムです。学術コミュニティは、この取り組みがどのように展開していくか、成り行きを見守ることになります。データの再利用を制限するという目的を達成する第一歩となるのか、それとも一般の人々に研究論文を提供するというNPG側の誠実な取り組みということになるのか。時を経て明らかになるでしょう。

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