スマートな学術ライティングのための7つの秘訣

スマートな学術ライティングのための7つの秘訣

編集者注:本記事は、The Conversationに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。本記事は、オークランド大学アカデミック・ディベロップメント・センターのヘレン・ソード(Helen Sword准教授が執筆したものです。)


たとえば、幅広い読者層を持つ雑誌の編集者があなたの研究の噂を聞き付け、寄稿を依頼してきたとします。でもあなたは、査読付きジャーナルに投稿するための、堅苦しくて無味乾燥な論文の書き方しか知らないかもしれません。


長年の学術的訓練から抜け出して、人間味のある文章を書くにはどうすればいいのでしょうか?


これは、印刷媒体やオンラインメディアに初めて関わることになった多くの研究者が直面するジレンマです。この記事では、難解な文章を、誰にでも理解できる生き生きとした文章に生まれ変わらせるための7つの秘訣を紹介します。


まずはタイトルから


学術論文のタイトルは、一般的に抽象的かつ専門的で、興味を引きそうにないものがよくあります。たとえばのようなものです:


“Social-Organizational Characteristics of Work and Publication Productivity among Academic Scientists in Doctoral-Granting Departments”(博士号授与機関の学術研究者における業務および論文生産性の社会組織的特徴)


読んでみたいという気持ちを持ってもらうためには、タイトルを質問形式にする(”Why Are Some Scientists More Productive Than Others?” [なぜ一部の科学者は生産性が高いのか?])、刺激的なものにする(“Productivity Hurts” [生産性には痛みが伴う])、メタファーを取り入れる(”Productivity: Holy Grail or Poisoned Chalice?” [生産性:聖杯か毒杯か?])、印象的なフレーズを使う(”The Productivity Paradox [生産性のパラドックス])といった方法が考えられます。


また、できるだけシンプルで具体的な言葉を選びましょう。


“Snakes on a Plane”(飛行機の上の蛇たち)なら興味を引きそうですが、”Aggressive Serpentine Behaviour in a Restrictive Aviation Environment”(制約のある航空環境における積極的な蛇行挙動)では興味をかき立てそうにありません。


本文の冒頭は印象的に


“Scientific work takes place in organisations that may either facilitate or inhibit performance and within a larger, social community of science that may limit, constrain, or stimulate the development of ideas and actions.”(科学の業績は、パフォーマンスを促進/阻害する可能性のある組織や、アイデアや行動の発展を制限/抑制/刺激する可能性のある、より大きな社会的コミュニティの中で生まれる。)


このような文章では読み手を退屈させてしまいます。タイトルに続く本文冒頭には、疑問や引用や逸話のほか、鮮やかなシーンや驚くべき事実の説明などを取り入れましょう。

すでに始まっているストーリーの真っただ中に、読者を放り込みましょう。


物語を語る


私たちが好む物語には、等身大の人間が登場します。自分自身を、研究の挑戦や発見の物語の主人公にしてみましょう。


あるいは、注目すべき別の人間を探しましょう(例:新たな治療法で救われるがん患者、観念的な障壁に立ち向かって乗り越える学生、戦争の恐怖を伝えるための最高の美的形式を見出そうと努力した芸術家など)。


訓練を積めば、カモメ、赤血球、定理、文章といった人間以外のキャラクターに光を当てながら、人間が主人公の場合と同じくらい魅力的な物語を作れるようになるでしょう。


人間らしく書く


著者も読者も、人間であるということを忘れないでください。

人称代名詞”I”を使うか否かに関わらず、威厳を保ちつつも対話的な文章を心掛けて、自信や信頼を感じさせましょう。


自分で、あるいは友人を相手に、いくつかの段落を音読してみてください。ロボットが書いたような文章になっていませんか?等身大の人間が話しているように聞こえていますか?


具体的に書く


研究者の多くは、抽象的言語の中を行き来しています。一方、読者が抽象的概念をもっとも良く理解できるのは、それらが物質世界に根差しているときです。


マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの「I Have a Dream(私には夢がある)」というスピーチには、この原則が鮮やかに示されています。


“I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at the table of brotherhood.”(私には夢がある。それは、いつの日かジョージアの赤い丘で、かつて奴隷だった者の子供たちと、かつて奴隷所有者だった者の子供たちが、兄弟として同じテーブルを囲むという夢である。)


キング牧師はこのスピーチの中に、色彩(ジョージアの赤い丘)と人物(かつて奴隷だった者の子供たちと、かつて奴隷所有者だった者の子供たち)を盛り込み、人物に行動(同じテーブルを囲む)を与えています。


この文章中に、抽象的な名詞は皆無です。キング牧師が私たちに示したのは、空虚な理想などではなく、場所であり行動であり、食事を共にするという行為でした。


動詞に変化をつける


動詞は、文章を動かすバッテリーのようなものです。平板でありきたりな動詞を使えば、平板でありきたりな散文になってしまいます:


“The focus of archaeological research on technology as an adaptation has, according to some, removed technologies from the historical circumstances in which they came into existence.”(一部の人は、適応としての技術に関する考古学研究へのフォーカスによって、技術が誕生した歴史的背景から技術が取り除かれたと考えている。)


一方、能動的な動詞は、文章に力強さや活気を与えます:


“Insects suck, chew, parasitize, bore, store, and even cultivate their foods to a highly sophisticated degree of specialization.”(昆虫は、高度に洗練された専門的レベルにまで、自分たちの食料を吸引、咀嚼、寄生、運搬、備蓄、さらには栽培までする。)


動詞がもっとも力を発揮するのは、名詞の直後に使われる場合と、動作主と動作が明確に特定できる場合です。具体的に理解するために、上の2つの例文の主語と動詞の核を比較してみましょう:「フォーカスが… 取り除いた」では何の話なのか分かりませんが、一方、「昆虫は、吸引、咀嚼、寄生、運搬、備蓄、栽培する」では、これだけで飢えた昆虫の群れが映像として浮かび上がってきます。


細部にこだわる


締まりのない、気の抜けた散文を書くのはたやすいですが、明瞭で生き生きとした散文を書くのは簡単なことではありません。スマートな学術ライターは、輝きを放つまで文章を磨き上げ、研ぎ澄まします。


取り散らかった文章(例:”From an analysis of the resulting data it can be seen that …”[得られたデータを分析したところ…が分かった])を容赦なくふるい落とし、言葉の選択、文章の構成、文章の流れに細心の注意を払います。つまり、苦労して文章を練り上げることによって、その文章を読む読者が苦労しなくていいようにしているのです。


以上の「秘訣」は、秘訣とは言えないかもしれません。これらはすべて、優れた書き物やオーラルコミュニケーションのための基本原則だからです。これらの原則を枕の下に敷いて、夢の中でも使いこなせるようにしましょう。


分野が何であれ、オーディエンスが誰であれ、これらの基本原則は、あなたの講義に活気を与え、助成金申請書を洗練させ、より大きな研究成果を生み出してくれることでしょう。

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