コロナ禍下のオンライン授業で学んだ9つのこと

コロナ禍下のオンライン授業で学んだ9つのこと

[注:この記事は、ダミアン・ラドクリフ(Damian Radcliffe

)氏が執筆してMediumに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。]



多くの教育従事者がそうであるように、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、私もオンライン授業への速やかな移行を迫られました。

多くの機関がそうであるように、所属先のオレゴン大学も、直ちにオンライン教育への移行に対応しなければなりませんでした。

過去にもオンラインコースの教材を作ったことはありますが、MOOC(大規模公開オンライン講座)用にいくつかの素材を用意することと、まだ私の講義の価値や質を測りかねている不安な学生たち向けに週3回×10週分を短期間で準備することは、まったく違います。

学生の多くがまだ私の講義を受けたことがないという点は、考慮すべき要素の1つでした。彼らは私のことを知らず、私も彼らのことを知らないのです。

でも、だからこそ、そこから学べることはたくさんあるはずです。実際、今も多くを学んでいます。

いずれにせよ、その後の経過では、嬉しい驚きがありました。そこで、早くも学期末を迎えようとしている今、一度立ち止まって今回の経験を振り返ってみようと考えたのです。

以上のことを踏まえて、私が今学期に学んだ9つのことを紹介します:
 

1) 現実世界のやり方を再現するだけでは不十分


これは、頭では理解していたことですが、本当の意味で実感したのは実際に学期が始まってからです。

Zoomを使っていると、体力を消耗します。ホストという立場で、瞬きもせずに画面を見つめ続け、発言のタイミングを見極め、よそ見もできず、無関心さや退屈な素振りを見せられない場合は、一層くたびれます。現実の世界なら、このような努力は必要ないでしょう。

教室で行う従来の講義のようなやり方も、うまくいきません。幸い、私は少人数を相手に教えることが多く、もともと「講義」らしい授業はしていませんでした。1学期の間に何度かすることはありますが、ほとんどはスライドや事例などを示しながらディスカッションを行うスタイルで授業をしていました。
 

ヒント:講義の合間にオンラインテストをしましょう。(510分ごとに質問をしましょう。)
 

2) ライブ授業には価値がある


私はほとんどの授業をライブで行なっています。1コマ(110分)を通してライブでやるわけではありませんが、6090分はオンラインで、残りは学生が個々のペースで学べるようにしています。

私以外にこのような形式で授業をしている教員はいないと言う学生もいるので、ライブ要素のある授業はあまり行われていないようです。

毎日が同じことの繰り返しだと感じやすい時期だからこそ、多くの学生がライブ授業をありがたく感じているようです。1週間の中で、この授業が唯一の固定スケジュールだと言う学生もいます。

とくに独り暮らしをしている学生にとっては、ルーティン作りに役立っているだけでなく、コミュニティのような存在にもなっているようです。
 

ヒント:ライブ授業は、1時間以内に収めましょう。それより長くなる場合は、教室での授業と同様に、さまざまなアクティビティを盛り込みましょう。
 

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画像:アリー・オズボーン(Ally Osbornn)さん提供。オレゴン大学の卒業生、イザベラ・ガルシア(Isabella Garcia)さんとの会話中。


3) あとで使えるように、授業はすべて記録しておく


デジタル・ディバイド(情報格差)は現実に起きています。そしてそれは今、(年齢に関係なく)すべての学生の教育体験に、かつてないほど大きな影響を与えています。

ブロードバンドネットワークの不足や、コーヒーショップや各種公共施設の閉鎖によって、無料Wi-Fiへのアクセスが難しくなっています。オンライン学習ができる環境は決して安価では手に入らないという事実は、すべての教育従事者が認識すべき課題です。

私の自宅のインターネット環境は、雨が降ると通信速度が低下します。これは、オレゴンの気候を考えると、きわめて不便です!

学生の中には、授業のある時間帯に仕事をしなければならない人もいます。今の状況では授業を優先するようにとは言えないので、別の時間に授業を受けられる環境を整えなければなりません。

メンタルヘルスの問題を抱える学生にとっては、オンラインでも定期的に授業を受けるのが難しい場合があります。したがって、現在の状況においては、柔軟に授業に出席できるような環境作りが欠かせません。


ヒント:Zoomでの授業を記録しておき、リアルタイムで参加できなかった学生が都合の良いときに見られるようにしておきましょう。授業の音声や動画を記録して、共有できるようにしましょう。音声データだけなら、低容量での共有が可能です。

 

4) 外部の力を借りる


オンライン教育への移行が発表されたとき、当然ながら、多くの学生は不安を感じていました。そこで春休み中に、各クラスに向けて、今後どのように授業をするのか、それが彼らの成長にどのように/なぜ役立つのかを説明したメッセージを送りました。

Professor of Practice(実務教授。研究よりも教育・指導に携わる教員)である私の主な役割は、学術界とメディア業界の溝を埋めることです。その主な手段となるのが、業界の専門家とコミュニケーションを取ることです。それは多くの場合、授業で行うディスカッションの活性化にもつながっています。

就職や独立の機会はなくなっていないこと、リモートでも良質な仕事ができること(そのやり方に関する議論も含めて)、そしてリモートワークがすでに一般的になりつつあることを学生に分かってもらう上で、今学期のセッションは、かつてないほど有益なものになりました。


ヒント:若い卒業生とのコミュニケーションは、非常に有益です。その経験は、現役の学生たちにより共鳴しやすいからです。ゲストスピーカーの多くは、過去に私の授業を受けているので、次の世代に力強い循環の輪を作り出すことができています。
 

Twitterより


5) オンラインに適したコミュニケーションもある


これまで対面で話し合っていた多くのトピックについて、CanvasDiscussions機能(Redditの掲示板のようなもの)を使って議論するようになりました。

特筆すべきは、テキストによる会話や学生たちの意見は、これまでの対面によるコミュニケーションよりも質が高かったということです。

学生の一部は、オンラインフォーラムを通じてテキストでアイデアを出すことを、明らかに心地よく感じています。そのため、今後もさまざまなケースでこの形のコミュニケーションを続けようと考えています。学生同士がお互いのことを知り合う学期始めなどは、とくに有益な手段となるでしょう。


ヒント:学生にとって、心を開き、反応し、意見を述べることは、決して容易なことではありません。これらのことをZoomで求めるのではなく、学生たちがそれぞれのペースで対応しやすいテキスト形式でやり取りするようにしましょう。
 

Grant Wood AEAのデジタルラーニングより


6) 「ブレイクアウトルーム」で交流を促す


私は教育者として、インストラクターでいることよりもメンターでいることに重きを置いています。これは、さまざまな人々と関わり、さまざまな経験を重ねる中でたどり着いた理念です。

私はディスカッションを授業の中心に据えていますが、ディスカッションを行うための信頼関係の構築は、オンライン上では困難です。そこで頼りになるのが、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能です。

ブレイクアウトルーム機能を使って、学生たちを少人数のグループに分けることで、プレッシャーが小さくなります。実際、この状態の方が、ほかの学生との関係をはるかに深めやすいようです。


ヒント:ブレイクアウトルームに入って、学生同士の会話を観察しましょう。必要に応じて会話に入ることもできますが、干渉しすぎないようにしましょう。
 

Flipped Classroom Tutorialsより


7. 時間管理が今までよりも難しい


この点については、今も苦労しています。オンライン教育のために費やしている時間に、生活を乗っ取られていると言っても過言ではないからです。

初めは、学内の教育管理システム(LMS)であるCanvasに、なぜ膨大な時間を費やしてしまっているのかが分かりませんでした。

そこで自分のタスクを記録して、時間に追われている理由を明らかにしようとしました。

  • ディスカッション用の掲示板に投稿されたすべてのコメントに返答すると、1人の学生へのコメントが50ワードでも、合計すると約1000ワードになります。さらに、クラスごとに24のディスカッションがあるので、合わせると毎週およそ600012000ワードになってしまいます。
  • 今学期は47人の学生を受け持っています。彼らの発言や質問に対応するには、1人当たり10分あれば十分なのですが、47人分となると、週当たり約8時間が必要になります(一人一人に成績をつける時間も必要です)。
  • 週の始めは、その週の授業や課題の準備に、1授業当たり90分を費やしています。今学期は3つの授業を担当しているので、合わせて4時間半が必要になります。

これは大変です!

以上のことを、1週間のうち、5回のライブ授業(各授業は6090分)、2日間のオフィス仕事、評価付けなどをこなした上でやらなければならないのです。これでは、時間がいくらあっても足りません!

もちろん、好きでやっている仕事ですし、それをリモートでできることには感謝しています。誤解のないように言っておくと、決して不満を述べたいわけではありません。

しかし、皮肉なことに、在宅で仕事をしているにも関わらず、以前よりも家族と過ごす時間が減っているのも事実です。

このような状況に置かれているのは、私だけではありません。ブルームバーグの報告によると、私たちは以前よりも1日当たり3時間も多く働いています。今は、仕事の負荷を増やすのではなく、よりスマートに働くべきなのです。


ヒント:抱えているタスクの中で、自動化できるものは限られています。明確な指示や納期の厳守は、これまで以上に重要になっています。しかし、学生に不利益をもたらすことなく、時間のかかる仕事を減らす方法もあるのかもしれません(以下を参照)。


8) フィードバックを提供するための新しい方法


これまでのやり方では時間がかかりすぎていたため、別の方法を考えることにしました。

しかし、このレベルでの交流(すべての発言に返答すること)は、学生たちの声に耳を傾けていることを示すためにも必要なことであり、けっして無駄な仕事ではありません。ただ、この方法では長続きしないのです。

まずは、学生からのすべてのコメントに返答することをやめました。代わりに、レポートが提出されたら、ディスカッション後にサマリーを用意して渡すことにしました。

次に、これをディスカッション用の動画にした上で、その動画を授業で使えるようにしました。

ところがまもなく、学生たちがそれを見ていないことが分かりました。学生たちは、週の最初の授業でそれを復習することを望んでいたのです。それならずっと簡単です!


ヒント:課題についても、(長文のレポートなど、どうしても必要なものを除いて)フィードバックを書くことをやめました。

代わりに、Zoomでの1115分のフィードバックセッションを設けることにしました。また、成績をつける必要のある課題については、(LMSに素早くアップロードできる)音声形式でフィードバックを届けるようにしました。このような、個人に焦点を当てた対応は、リモートで学生と対峙している状況において、とくに重要なことだと思います。

私たちのLMSであるCanvasには、動画によるフィードバック機能があります。しかし、アップロードに大きなタイムラグが発生すること、Canvasがフリーズしてしまうこと、データがすべて消えてしまうことがありました。45分の動画が消えてしまったら、本当にがっかりします。その点、音声のアップロードは非常に速く、今のところ不具合も起きていません!


9. 楽しむことを忘れないように!


私は教えることが大好きなので、リモートでも楽しむことができています。以前とは状況が異なるのは確かですが、今も、学生が有益なことを学び、ジャーナリストとして成長していると信じています。そして、私自身も教育者として成長しているのです。

現在のような状況では、生活の中にちょっとした「遊び心」が必要だと思います。受け持っているクラスの1つで、「帽子を被って授業に参加する日」を設けたところ、ほとんどの学生が面白がって参加してくれました(しかし、別のクラスでやった「黄色いものを身に付ける日」は、実際に黄色を着ていたのは私だけでした!)。

 


子どもだましと思うかもしれませんが、楽しみながら交流を深め、学生が学べる方法を模索しているのです。

音声だけで授業を行うクラスでは、飲んだり食べたりしている音を学生に録音してもらい、その音と、飲食したものの説明(具体的な名前は伏せる)を掲示板に投稿し、ほかの学生たちがそれを当てるというゲームをしました。「長すぎる文章は読まれない」今の時代に、ふさわしいゲームではないでしょうか。

このクラスではほかにも、全員がお気に入りのポッドキャストのエピソードを選び、ほかの学生に聞かせて批評してもらうということもやっています。学生は「宿題っぽくなくて楽しい」と言ってくれます。しかし、音声コンテンツを批評的に聞くことで、ストーリーテリングの筋力が鍛えられます。
 


別のクラスでは、学生たちの憧れであるCenter for Health Journalismが主催する、コロナウイルスに関するウェビナーに参加しました。

学生たちは、業界の専門家たちと一緒にリアルタイムで議論に耳を傾け、アシュリー・アルヴァラド(Ashley Alvarado)氏と南カリフォルニア・パプリックラジオのチームによる画期的な取り組みについて学ぶことができました。

新たな知識を取り入れるだけでなく、ウェビナー終了後30分以内に要約を書くことを課しました。ライブイベントの報告を書くことも、多くのジャーナリストがやっている仕事の1つなので、これはそれを真似て行なったものです。

この経験で、学生たちは、Engaged Journalism(現在、急速に広まっている重要分野)という概念を知ることができました。同時に、素早く報告する(ストーリーを書く)訓練をすることができました。

これらは、成長する上で重要なスキルおよび知識です。このようなオンラインイベントに参加することは、教室でシミュレーションをするよりも、はるかに実践的な経験になったのではないでしょうか。
 

もう少し自撮りがうまくなるといいのですが…


私のオンライン教育はまだ始まったばかりです。今も常に新たな手法を模索し、実践しながら修正し、何をどうすればベストなのかを考え続けています。

私は「ジェダイの騎士」のように心を操ることはできませんが、この体験談と教訓が、何かの役に立てば幸いです。

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