学術論文に磨きをかける実践的ヒント6選

学術論文に磨きをかける実践的ヒント6選

友人にメールを送るときは、文章の質よりも内容を重視するのではないでしょうか。同様に、世間話や友人とのおしゃべりの際に、アクセントや発音が問題になることはまずありません。しかし、研究プロポーザル、課題、研究論文を書くとなると、そうはいきません。綴り、文法、句読点、単語の使い方に間違いがないか、読者にマイナスの印象を与えないかと不安になったり、アイデアや情報を簡潔明瞭に伝えたいと願ったりするはずです。また、学会発表では、自分の声や服装、姿勢などに問題がないか気になるかもしれません。


論文の執筆は、気軽な書き物とは異なるものです。Oxford Learner’s Dictionary of Academic English1

では、学術ライティングを次のように定義しています:
 

  • 簡潔
  • 形式的
  • 明瞭
  • 非人格的
  • 暫定的
  • 綿密な構成物


論文執筆に磨きをかけたいと願うなら、これらの違いを頭に入れておきましょう。この記事では、上記の点について、例を交えながら解説します。


1. 無駄な言葉を省く:抽象名詞は動詞に置き換え、冗長な表現を避ける


優れた学術文書は、簡潔に書かれています。ジャーナル論文、短報/速報、ケースレポートといった文書には、文字数制限があるため、情報の繰り返しは避けなければならないのです。


繰り返し表現:以下のような繰り返し表現がよく見られます:

  • タイトルに含まれている情報を、アブストラクトで繰り返す。アブストラクトに背景情報を含める(アブストラクトに背景情報は不要)。たとえば、タイトルがA new method to control rats(ラットを制御するための新手法)」という論文で、アブストラクトの冒頭に「A new method of controlling rats was evaluated.(ラットを制御するための新たな手法について検討した)」と書くのは無意味です。また、この論文のアブストラクトに、ラットが運び込む病原菌による被害の度合いといった詳細情報を含める必要もありません。
  • イントロダクションで同じ情報を繰り返す。
  • 表で示されている情報を、本文内で言い換える/繰り返す。たとえば、上記論文に、5つの薬品におけるラットの死亡率に関するデータを示した表があるとして、本文で「薬品Aによる死亡率はX%BY%CZ%…」のように述べるのは、冗長と言えるでしょう。


動作動詞:文章の単語数を減らす簡単な方法は、「-tion」という表現を使わないことです。「We carried out an exploration(調査を行なった)」と言うのではなく、「We explored(調査した)」と言い換えることができます。また、「germination was 80%(発芽率は80%だった)」ではなく「80% of the seeds germinated(種の80%が発芽した)」、「the incubation temperature for the culture was 29 °C(培養温度は29°Cだった)」ではなく「the culture was incubated at 29 °C29°Cで培養した)」と言い換えることが可能です。学術ライティングについて広範な研究2を行なっているヘレン・ソード(Helen Sword)氏は、このような名詞を「ゾンビ名詞」と呼んでいます(ソード氏の動画はこちらでご覧頂けます)。


冗長表現1つの言葉で足りるところに、2つ以上の言葉を使う必要があるでしょうか?たとえば以下の例文は、それぞれ下線を引いた単語が不要なため、冗長な表現になっています:「most specimens were blue in colour(ほとんどの試験体が青だった)」、「roots penetrate into the soil to a depth of 5 metres(根は、深さ地下5メートルまで伸びた)」、「the differences were statistically significant at 1% level(差は1%の度合いで統計的に有意だった)」。また、「for example(たとえば)」、「including(~を含めて)」、「such as(~といった)」、「etc.(など)」を同一文章内で重複して使用しないようにしましょう。これらはすべて、リストが網羅的ではなく、一部を抜粋したものであることを示す言葉です。


2. 略語や口語表現を避ける


優れた学術文書は、改まった調子で書きます。したがって、「isn’t」、「can’t」、「’phone」といった省略表現は使用しません。これらを正式な形で書くと、「is not」、「cannot」、「telephone」となります。


口語表現を正しく使う(またはインフォーマルな表現を正しく使う)ことによって、英語に熟達していることをアピールできるかもしれません。しかし、研究論文は世界中の人々に向けて発信するものであることを忘れないようにしましょう。英語は、英米豪をはじめ、各国や地域によって異なる形で使われており、口語表現はローカルなものです。そのため、口語表現やインフォーマルな表現では、正しく理解してもらえない可能性があります。


3. 主張を的確に表す言い回しを使う


優れた学術英語は、優れた科学と同様、精密なものです。科学がほかの研究と区別されるのは、測定や集計による数値が重視されているためです。どの分野にも専門用語があり、それが各分野に特有のコンセプトや物理的対象、状況などの表現に役立っています。また、正しい用語を使用することで、対象物に精通していることを示すことができます。たとえばタイポグラファー(活版技術者)にとって、「font(フォント)」と「typeface(書体)」、「kerning(カーニング)」と「tracking(トラッキング)」は、別の意味を持つ言葉です。同様に、酪農家は「heifer若い雌牛)」と「cow(牛)」の違いを知っていますし、昆虫学者がクモを昆虫に分類するようなことはありません。


4. 客観的かつ淡々としたトーンで語る


優れた学術英語は非人称的に書かれていますが、それは決して大げさで退屈であるという意味ではありません。最近では一人称で書かれる論文も珍しくありませんが(むしろ、一人称を推奨するジャーナルもある)、依然として多くのジャーナルでは、受動態の使用が推奨されています(例:「we recorded the observations(観測結果を記録した)」ではなく、「the observations were recorded(観察結果が記録された)」、「many researchers believe(多くの研究者が~と信じている)」ではなく「It is widely believed(広く信じられている)」、「we surveyed(調査を行なった)」ではなく「a survey was undertaken(調査が行われた)」)。受動態が好まれる状況は、行動者よりも行動自体に焦点が当てられている場合です。つまり、「誰がやったか」よりも、「何をやったか」が重要である場合です。


非人称的な文章を書く際の明らかなミスと言えるのは、「interesting(面白い)」や「remarkable(素晴らしい)」などの形容詞を使うことです。あなたの研究結果が面白い/素晴らしいかどうかは、読者が決めることなのです。


5. 修飾語を控えめに使う


科学は真実を探求する学問ですが、普遍の真理がそうそう見つかるものではないことも科学者は知っています。新たな事実が明らかになると、それまで信じられていた真実は過去のものになってしまうことがあります。より高性能な顕微鏡、より高感度な機器、より高度な分析手法は、それ以前には知ることが不可能だった物質世界の新たな側面を明らかにします。これらの理由から、科学界で強調語が使われることはほとんどありません。このような言葉は、広告やマーケティングにおいては優れた宣伝文句となりますが、研究論文では歓迎されません。論文では通常、「to our knowledge(我々の知る限りでは~)」や「under laboratory conditions(実験室の条件下において~)」、「it is likely that(~である可能性が高い)」などの言い回しが使われます。


ただし、このような控えめな言葉(ある意味で「保険」と言える言葉)も、使いすぎは禁物です。修飾語は、1文中に1つあれば十分です。たとえば、「may」と「possible」、「indicate」、「suggest」の併用は避けましょう(避けるべき例:「It may be possible that(可能性があるかもしれない)」、「These observations may indicate that(これらの結果は~を示唆している可能性がある)」、「Such features probably suggest that(このような特徴は、おそらく~と考えられる)」)。過度に保険をかけると、文章の説得力が弱まってしまいます。


6. 読者が読みやすいように整理する


優れた学術文書は、論理的に構成されています。多くの分野で、ジャーナルはIMRaD形式3(イントロダクション、材料および方法、結果、考察)で論文を書くよう著者に求めています。ただし、この形式で書いたとしても、何らかの整理作業は必要です。たとえば、結果セクションで方法セクションの見出し順通りに結果を示せば、読者は、各実験の内容とその結果を照合しやすくなります。同様に、イントロダクションでは幅広い話題から始めて徐々に焦点を絞り、最後に具体的な研究目的や研究課題について述べるとよいでしょう4


ライティングは、体系的な訓練を積むことで習得できるスキルです5。論文執筆は作文の一種であり、慣例と規範があります。査読者は、それらに習熟することを著者に求めています。したがって、この要求を満たせば、好印象を与えることができるはずです。皆さんの成功を願っています!


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参考資料:

1. Oxford Learner’s Dictionary of Academic English. 2014. Oxford: Oxford University Press. <https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/academic/>

2. Sword H. 2012. Stylish Academic Writing. Cambridge, Massachusetts: Harvard University Press. 220 pp.

3. Rajagopalan J. 2014. Tips for writing the perfect IMRAD manuscript
<www.editage.com/insights/tips-for-writing-the-perfect-imrad-manuscript>

4. Joshi Y. 2018. 4 Step approach to writing the Introduction section of a research paper. <https://www.editage.com/insights/4-step-approach-to-writing-the-introduc...

5. Joshi Y. 2007. A systematic approach to improving writing skills. Current Science 92: 1343–1344 <https://www.currentscience.ac.in/Downloads/article_id_092_10_1343_1344_0...

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