ミラージャーナルは、オープンアクセス出版の新たな道となるか?

ミラージャーナルは、オープンアクセス出版の新たな道となるか?

学術出版界で着々とオープンアクセス(OA)化が進む中、OA化により多くの選択肢を用意するために、ジャーナルや出版社は新たな取り組みを行なっています。この流れで最近登場したのが、ミラージャーナルというコンセプトです。エルゼビアが始めたこの新たな出版モデルについて、学術界では議論が巻き起こっています。


ミラージャーナルとは


ミラージャーナルとは、その名の通り、既存ジャーナル(親ジャーナル)の鏡像的な存在です。ミラージャーナルは、親ジャーナルと同じ出版元から出版され、編集委員会、査読プロセス、採択基準も同じです。著者は、親ジャーナルと共通のウェブサイトから論文を投稿し、親ジャーナルで出版するか、ミラージャーナルで出版するかを、アクセプト後に選ぶことができます。これは、どのフォーマットで出版するかの選択が、査読や編集上の判断に影響しないようにするための措置です。エルゼビアは現在、40誌のOAミラージャーナルを運営しています


ミラージャーナルは、親ジャーナルと同じタイトルを持ち、末尾に「X」を付けることで区別しています(例:Journal of Water Research X)。ISSNと引用数指標は、親ジャーナルとは別扱いとなります。エルゼビア物理科学ジャーナル部門シニアバイスプレジデントのピーター・ハリソン(Peter Harrison氏によると、MEDLINEPubMed CentralScopusでは、親ジャーナルがすでに収載されている場合、そのミラージャーナルも収載されます。両者の主な違いは、そのビジネスモデルにあります。従来型の購読モデルやハイブリッドモデルを採用している親ジャーナルに対し、ミラージャーナルは、完全OAモデルを採用しています。


ミラージャーナルの必要性


ミラージャーナルは、ハイブリッドジャーナルに向けられた批判への対応策として登場しました。ハイブリッドジャーナルとは、著者が出版費用を負担することで一部の論文をOA化した、購読ベースのジャーナルです。このモデルが最初に導入されたのは約10年前で、当初は将来の完全OA化を前提としていましたが、現時点で期待通りの結果は出ていません。ハイブリッドジャーナルの数は増加しているものの(2009年の2000誌から、2016年には1万誌に増加)、ハイブリッドジャーナルに占めるOA論文の割合は低いままです(4.310%程度)。したがって、ハイブリッドジャーナルのほとんどのコンテンツは、依然としてペイウォール(有料の壁)に阻まれており、図書館は高額な購読料を支払い続けているのが現状です。


2018年、高騰する購読料に困窮している図書館を支援する動きとして、「プランS」構想が始動しました。プランSでは、公的資金を使って行われた研究の論文の、完全OA化を義務付けています。しかし、完全OAではないハイブリッドジャーナルは、プランSに適合しませんでした。そこで新たな出版モデルとして登場したのが、ミラージャーナルでした。


デイビッド・マシューズ(David Mattews)氏は、Inside HigherEd誌で公開した記事「Warning on Mirror Journals(ミラージャーナルへの警告)」で、「一部の出版社は、ミラージャーナルを、プランSを順守しながら、著者に従来とほぼ変わらないジャーナルに論文を投稿させ続ける手段と見なしている」と指摘しています。一方、最近リリースされたプランSの推進に関するガイダンスは、ミラージャーナルも、プランSに適合していないとしています。その話題に移る前に、このモデルが出版社や著者にどのようなメリットをもたらすのかを見ていきましょう。


出版社にとってのメリット


OA出版に移行する助成団体が増え続ける中、出版社も、最終的にはOAに移行せざるを得ないことを認識し始めています。しかし、新たにOA誌と編集委員会を起ち上げ、一からウェブサイトやプロセスを作り上げるには、相当なコストが必要になります。一方、ミラージャーナルは、OA誌で十分な利益が得られるようになるまでの間、購読誌が安定的な利益を供給し続けてくれるので、完全OA化に徐々に移行するための現実的な方法になります。最終的にミラージャーナルと親ジャーナルを統合することで、OAへの移行を完了させることができます。


ハイブリッドジャーナルに比べ、ミラージャーナルは、より透明性の高いジャーナルであると言えます。ハイブリッドジャーナルに多くの批判が集まったのは、このモデルに、ジャーナルによる「二重取り」の余地、すなわち図書館からの購読料だけでなく、著者からの論文掲載料(APC)も受け取れる余地が残っていたからです。一方、ミラージャーナルでは、コンテンツとビジネスモデルが完全に分離されているため、二重取りは問題になりにくいとされています。米土木学会(ACSE)のマネージングディレクター兼パブリッシャーのアンジェラ・コクラン(Angela Cochran)氏は、The Scholarly Kitchenのトピックに関する優れた分析の中で、「ハイブリッドジャーナルとミラージャーナルのビジネスモデルは、異なります。一方を購読専門、もう一方をOA専門にすれば、二重取りの懸念はより解消しやすくなるでしょう」と述べています。


著者にとってのメリット


ミラージャーナルは、投稿先の選択肢を増やすという意味で、より多くの学術的自由をもたらします。しかし、学術界は依然としてジャーナルの名声を重視する傾向にあるので、研究者たちが、分野の人々に認知されているジャーナルで論文を出版したいと考えるのは当然のことでしょう。残念ながら、ほとんどの分野において、高名なジャーナルの多くは購読ベースです。助成団体によるOAの義務付けは、著者のジャーナル選びを制限しており、多くの場合、希望するジャーナルでの出版は許可されません。したがって、コクラン氏が「ミラージャーナルは少なくとも、プランSを順守しつつ、オリジナルジャーナルの評判を利用することができる」と述べているように、ミラージャーナルは、この問題にソリューションを与えるものなのです。


ミラージャーナルの課題


最近発表されたプランS改訂版では、「移行契約」(ジャーナルが2024年までに完全OAに移行するという契約)を結んだミラージャーナルに限って出版を認めることが明示されています。この契約は公開する必要があり、2021年までに締結する必要があります。


ミラージャーナルについて、もう1点著者が知っておかなければならないのは、そのほとんどに、インパクトファクターがないということです。したがって、所属機関がインパクトファクターを重視している場合、(良くも悪くも、いまだに多くの機関がそうですが、)ミラージャーナルはあまり良い選択肢にはならないでしょう。


ミラージャーナルは以上のような課題を抱えているため、その将来は不透明です。プランSの指針に反しているのなら、利用の広がりは望めないでしょう。ミラージャーナルは今のところ、従来の購読誌が完全OA誌に移行するための、経済的に実行可能な暫定的ルートであると言えるでしょう。切望される論文の完全OA化の実現に、果たしてミラージャーナルが貢献できるかどうか、またどの程度貢献できるのか、今後の展開が注目されます。


参考資料:


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