「プランS」の要点

「プランS」の要点

「プランSPlan S)」をご存知ですか?プランSはここ最近、学術界のホットな話題となっています。そのため、すでにご存じの方も多いかと思いますが、知らないという方には、この記事がうってつけです。この記事では、プランSの基本情報とともに、世界の研究と研究者にとってのプランSの意味合いについて説明します。


出版論文へのアクセシビリティの問題


科学技術の発展にとって、最新の研究へのアクセシビリティはきわめて重要です。しかし、有料ジャーナルの購読料の支払いに苦労する機関が、ここ数年、世界で増加の一途をたどっています。たとえば、この1年では、ドイツ台湾スウェーデンの研究者たちが、エルゼビアなどの大手出版社による購読型ジャーナルへのアクセス権を失いました。ドイツやスウェーデンなどの研究機関、大学、図書館は、購読型ジャーナルへのアクセシビリティの改善を目指し、機関と出版社間の契約の見直し交渉を行うコンソーシアムを起ち上げています。しかしながら、これらの交渉の多くは、失敗に終わっているのが現状です。


「プランS」の始動


コンソーシアムがこのような取り組みを続ける中、欧州の一部の助成団体が、最新の研究に世界中からアクセスできるようにするための方法に関心を寄せ始めていたことにより、オープンアクセス出版への移行の流れが本格化しました。20189月、欧州の11の国立助成機関が結集してcOAlition Sを起ち上げ、プランSを始動しました。この構想を支援している団体には、研究助成団体だけでなく、ウェルカム・トラストやビル&メリンダ・ゲイツ財団など、世界中の慈善団体が名を連ねています。


プランSの提案


プランSは、参加機関から資金提供を受けているすべての研究者に対し、202011日から、出版された論文を即時オープンアクセスにすることを義務付けています。これは、論文による収益化を避け、所定のオープンアクセスプラットフォームもしくはジャーナルで論文を公開するよう求めるものです。カリフォルニア大学の遺伝学者でPLOSの共同創設者、マイケル・アイゼン(Michael Eisen)氏は、「資金提供者がようやくオープンアクセスのマウンドに上がり、システム移行のために必要な措置を講じ始めました。これは、オープンアクセスの促進に向けた大きな一歩です」と述べています。


プランSの指針


プランSは、cOAlition Sが定めた10の指針で構成されています。以下はその指針の概要です:

  • オープンライセンス著者は、オープンライセンスであるCC BYのライセンスの下で論文を出版しなければならない。さらに、著者は完全かつ無制限に自著論文の著作権を保有する。
  • オープンアクセス環境質の高いオープンアクセスジャーナルやプラットフォームが存在しない場合、オープンアクセス環境を構築・支援するのに必要なサポート・インセンティブは、資金提供者が提供する。
  • 出版費用欧州全域におけるオープンアクセスの出版費用は、標準化され制限が設けられる。また、オープンアクセス出版費用は、研究者ではなく助成団体または大学が負担する。
  • 透明性透明性を確保するため、助成団体は、大学、研究組織、図書館に対し、自らの戦略や方針に沿うよう求めなければならない。最大限の透明性を維持するため、資金提供者と研究機関の双方が努力しなければならない。
  • アーカイブとリポジトリオープンアーカイブやオープンリポジトリは、長期的なアーカイビングに有用であり、編集上のイノベーションに役立つため、その利用と重要性を認識する。
  • コンプライアンス「ハイブリッド」出版モデルは、プランSの指針に合致しているとは言えないため、コンプライアンスの確保は資金提供者が責任を負う。
  • ただし、ジャーナルや出版社との合意を得た機関に所属する研究者は、論文出版後に直ちに論文を公共のリポジトリで公開した場合に限り、購読型ジャーナルでの出版が認められる。


プランSに対する学術出版界の反応


この数年間で急速に市民権を得始めているオープンアクセスですが、プランSの発表は、学術界や学術出版界のさまざまな利害関係者の間で大きな話題となり、熱い議論を巻き起こしています。


1900名以上の研究者がオンラインの公開書簡に署名し、プランSの支持を表明しています。書簡では有料(pay-to-access)モデルについて、「不公平で、研究の進歩を妨げ、成果物の恩恵を一般社会に十分に提供できない」ものと述べられています。プランSを支持する理由としては、この構想によって「研究の達成度だけでなく、研究コミュニティや一般社会への価値が最大化できる」ためだと書かれています。また、予算の不足によって出版論文へのアクセスが限られているインドをはじめとする国々の研究者たちは、この構想を強く支持しています。


プランSを支持する科学コミュニティがある一方で、この構想に反対している人々もいます。一部の研究者は、「学術的自由の侵害」や「ネガティブな影響」などの懸念を公開書簡という形で表明しています。


大手出版社の多くも、プランSが掲げるオープンアクセスへの移行のタイムラインのタイトさなど、さまざまな理由を挙げて、構想への懸念を表明しています。シュプリンガー・ネイチャーや 米化学振興協会(AAAS)をはじめとする出版社は、ハイブリッドジャーナルの排除に対して異を唱えています


これらの出版社は、基本的にはオープンアクセスへの支持を表明しているものの、論文を出版後直ちにオープンアクセスで公開することによって、自分たちの収益に損害が生じるのではないかと危惧しています。シュプリンガー・ネイチャー出版部門長のスティーブン・インチクーム(Steve Inchcoombe)氏は、「出版社は収益を上げなければなりません。提供するコンテンツへの対価を要求できないとすれば、出版社はすべてを無料で行わなければならないのでしょうか。それは無理でしょう」と述べています。国際科学工学医学出版社協会STMも、プランSがハイブリッドジャーナルに対してより寛容なアプローチを採る必要性を指摘しています。


プランSへの反響の多様さと大きさを受け、cOAlition Sは、プランの導入に対するフィードバックを求めました。これに応じ、複数の研究者、出版社、学術団体、図書館、助成団体、その他利害関係者が意見を表明しました。それによると、学術コミュニティがプランSとその目的を支持していることが示された一方で、共通の懸念として、人文科学・社会科学分野の研究者へのネガティブな影響や、独立出版社や小規模出版社のビジネスへの影響、プラン導入までのタイトなタイムラインなどが挙げられました。


プランSの導入


プランSは、主に欧州における構想ではありますが、世界中の研究者から関心を集めています。この構想は、現在主流となっている出版モデルからオープンアクセスモデルに舵を切るための大胆な措置と言えるでしょう。学術界は、研究にオープンアクセスを取り入れることの必要性を強く支持しているものの、この構想に対してはさまざまな反応が寄せられています。プランS導入に対する議論が加速することが予想される今後数ヶ月は、学術界にとって重要な時期となりそうです。


プランSについてどう思いますか?プランSは、研究者にどのような影響を及ぼすと思いますか?意見をシェアして、議論を活性化させましょう!


参考資料:

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