eLifeが学術出版の変革を目指す新たな出版モデルを発表

eLifeが学術出版の変革を目指す新たな出版モデルを発表

ジャーナルeLifeは、来年から出版モデルを変更します1。査読を経て論文の却下または受理を決めるプロセスは廃止し、今後はレビュー済みの全論文を「レビュー済みプレプリント(Reviewed Preprints)」としてeLifeのウェブサイトで公開し、同時にeLifeの編集評価と公開レビューが示されます。公開後、著者はレビューに回答することができ、論文を修正して再投稿するか、そのまま最終公開版(Version of Record)とするかを決めることができます。

 

今回の変更は、昨年採用した方法(すでにプレプリントとして出版された論文を独占的にレビューし、査読者には、著者にとって有益な公開レビューをコメントとともに準備するよう依頼。2)を発展させたものです。eLifeは、この新たなモデルが学術出版の標準になることを望んでいます。

 

eLifeはこの新モデルを通じて、プレプリントをいち早く公開するという最近の傾向をさらに発展させ、従来の査読プロセスを変えることを目指しています3。eLifeのエグゼクティブディレクターDamian Pattinson氏は、「重要なのは、どこで出版したかによる評価から、何を出版したかの評価に移行することです3」と述べています。

 

新モデルの概要

 

新モデルは、おおむね次の5つのステップで構成されています1

  • 投稿: eLifeの編集者が、レビューにまわす投稿論文を選別する。
  • レビュー: 選別された論文を専門家がレビューし、公開レビューとフィードバックを著者に提供する。このタイミングで著者から掲載料を徴収する。
  • 出版: レビューを受けた論文は、eLifeによる評価および公開レビューとともに、レビュー済みプレプリント(Reviewed Preprints)としてジャーナルのウェブサイトで公開される。公開された論文は引用可能。
  • 修正: 公開後、著者は修正版を投稿するかどうかを決定する。修正した場合、論文は再度のレビューを経て公開される。
  • 最終版: プロセスの任意の時点で、著者は公開した論文を最終公開版(Version of Record)とすることを宣言できる。ジャーナルの要件を完了した後、論文はPubMedに送られて登録される。

 

学術出版における意義深い変化

 

査読プロセスは、科学研究の根幹を支えています。毎年200万本超の論文が、経験豊富な科学者の査読を、無報酬かつ最小限の承認で受けています2。これらの査読の結果は、論文著者以外に共有されることはほとんどありません。eLifeは、これらの査読の価値が無駄になっていると考えています。今回のモデル変更によって、査読情報(研究を改善するための提案)が、たった一度の受理もしくは却下の判定にのみ使用されている現状から、ほかの研究者にも役立つ状況に変わることが期待されます。

 

しかし、さらに重要なポイントは、eLifeがこの変更を、発表内容ではなく発表の場が重視されている状況への不満の高まりに対する措置と考えていることです。現状、出版ジャーナル名は研究者を評価するための尺度となっており、在職期間や昇進を左右する際の拠り所となっています。eLifeは、研究の質や重要度を測るゲートキーパー/審査員としての役割を個々のジャーナルが担う現システムは、非効率的であるとともに、プレプリントで研究にいち早く容易にアクセスできるよう出版プロセスをオープンにするという昨今の動向に逆行していると考えています。

 

あるインタビューでeLifeのエグゼクティブディレクターは、「直接的に評価を行なってレビューを公表するモデルは、より公平で、より迅速で、より公正な出版形態ではないでしょうか3」と述べています。

 

学術界の受け止め

 

Twitterに投稿されたコメントからは、eLifeによる今回の変更に対する学術界の反応がさまざまであることが伺えます。

 

コメントの中には、新モデルが査読者の仕事の価値を下げることにより、質の低い論文が見逃され、文献として登録されることを許してしまうのではという懸念を示すものもあります。また、結果的にeLifeへの論文投稿が減るのではないかという意見もありました。その他の否定的なコメントで多かったのは、投稿論文をレビューに回すかどうかを決める編集判断におけるバイアスの可能性に関するものでした。

 

今回のモデル変更による影響や結果はまだ分かりませんが、eLifeが新たな試みに着手し、改善の必要性がかねてから叫ばれていた出版業界を変えるための行動を起こしたことを、研究者や専門家の多くが称賛していることは確かです。

 

参考資料

  1. eLife. eLife’s new model: Changing the way you share your research. 2022. https://elifesciences.org/inside-elife/54d63486/elife-s-new-model-changing-the-way-you-share-your-research
  2. eLife. Scientific publishing: Peer review without gatekeeping. 2022. https://elifesciences.org/articles/83889
  3. Akst, J. Q&A: Why eLife Is doing away with rejections. The Scientist. 2022. https://www.the-scientist.com/news-opinion/q-a-why-elife-is-doing-away-with-rejections-70667

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