論文執筆における剽窃の原因とその影響

論文執筆における剽窃の原因とその影響

数十年前から学問は過当競争の時代となり、最先端分野では短期間で質の高い研究成果の発表が求められています。補助金などの研究資金やより良いポジションは、競争によってのみ獲得することができるため、他者よりも早い研究成果の発表は非常に重要な役割を担っています。質の高い研究を行うには十分な時間が必要な一方で、短期間に研究成果を発表しなければいけないという全く逆の行動が求められます。研究者は限られた時間と不慣れな英語のせいで、研究不正に拍車が掛かり、意図せずに剽窃行為を行ってしまうことがあります。
 

剽窃の定義は、Merriam-Websterのオンライン辞書によると(1)出典を認めずに(他人の作品を)使用すること、(2)文芸的窃盗、(3)既存の出典から派生したアイデアや製品をオリジナルとして提示することとされています。

 

研究活動における不正行為には、捏造、改ざん、盗用、研究費の不正使用など様々なものがあります。剽窃は、意図的に自ら起こすもののみならず、発表された論文の内容を適切に言い換えたり引用したりする意識あるいは能力の欠如、引用符の誤用・間違った引用によって発生しています。


他の研究者の論文の盗用のみならず、自身の著作も他の研究者と同じ引用ルールに則って引用しなければ、自己盗用・自己剽窃となり、著作権侵害の対象となります。盗用は研究不正行為とみなされ、これまでに築き上げた個人の信頼や評判を失墜させてしまいます。研究不正行為の結末は、ジャーナルによる論文撤回・研究費返納・所属組織からの処分・医師免許剥奪(もし医師であるなら)・刑事処分と言った問題に発展する可能性があります。具体的な事例としては、日本学術振興会により、大分大学医学部産婦人科講座・高井教行元講師の架空の実験結果の捏造事例(不正箇所が94箇所)、山梨大学大学院・北村正敬元教授の不正行為に対する認識不足が招いたデータ捏造・改ざん事例(画像操作及び縦横比の改ざん、捏造)、福岡教育大学教育学部の榊原浩晃教授の盗用事例(海外の論文盗用及び大学院生の卒業論文からの盗用)、その他が「研究不正と認定された事例」として事例及びお知らせとしてまとめられて報告されています1)

 

剽窃は、次のような負の影響をもたらします。

 

  • 個人的コスト:懲戒処分等機関内での人事処分や学位取消が行われます。出版された論文の信頼性が失われると、被引用率の低下や雑誌への採択率にも影響します。
  • 経済的コスト:補助金の返還命令・競争的資金への申請及び参加資格が制限されてしまいます。
  • 社会的コスト:医療や公共インフラが拠り所とする論文の根拠の消失により、新たなシステム構築など社会全体に影響を与えてしまいます。


このように、盗用などの研究不正行為は、個人的・経済的・社会的コストに加え、所属機関のブランドを損なうことにもなりかねません。

 

研究成果を発表する学術誌は、その信頼性や評判を維持するために様々な対策を講じています。重複出版や剽窃を防ぐために、剽窃検知プログラムを使って、投稿された論文が剽窃されていないか監視しているのです。剽窃検知プログラムは、社内データベースやWebリソースと照合し、類似率が一定の閾値を超えた場合に警告を発しています。剽窃防止のためのその他の対策としては、盗作と認定された著者の投稿を3年間禁止したり、所属機関のメールアドレスを持たない査読者からの推薦を受け付けないなどの対策を実施することで偽の査読を防いでいます。ジャーナルや査読者が直面する課題としては、自己剽窃、非英語圏のパッチワーク剽窃、著作権のある図や表の使用といった問題があります。剽窃検知プログラムの導入メリットとしては、編集者や査読者の時間的負担を減らすことが挙げられます。どうしても時間的な余裕がない場合は、投稿前ピアレビューや論文剽窃チェック機能を含む投稿フルサポートサービス2)を使うことで意図せぬ剽窃・盗用の心配を取り除くことができます。

AAAS(全米科学振興協会)が発行するScienceのニュース3)では、北斎の浮世絵を挿絵として用いて暗に日本における剽窃が横行している印象を与えています。同ニュースの中では、研究不正の顕著な日本人の事例を紹介し、V:Enigmaの項で文献監視サイトRetraction Watch’sが作成した撤回論文が多い研究者上位10名を挙げています。我々は、何のために研究をしているのか、研究者として何を目指しているのか、もう一度考え直す必要があります。科学研究費補助金は国民の税金で賄われており、研究者はその資金を適切に執行する責任を負っています。研究は、社会から信頼され、科学の進歩を通して社会に貢献すべきものでなければなりません。私たち研究者が倫理観を高め、論文の発表が科学の進歩に寄与するという使命感を持って研究を推進することが、今後の日本の研究の発展にとって最も大切なことです。

 


参考資料

1) 日本学術振興会からのお知らせ『科学研究費補助金に係る研究活動の不正について』(別添 研究機関で行った調査結果(概要))日本学術振興会 https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_160331/data/2_6.pdf 

(参照2022-04-23)

https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_160331/data/2_1.pdf 

(参照2022-04-23)

https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_160331/data/2_8.pdf 

(参照2022-04-23)

2) Editage投稿フルサポートプラン https://www.editage.jp/info/publication-support/enhancement-publication.html

3) news(Researcher at the center of an epic fraud remains an enigma to those who exposed him) Science https://www.science.org/content/article/researcher-center-epic-fraud-remains-enigma-those-who-exposed-him (参照2022-04-14)

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