「中国語と英語の科学論文は、言語だけでなくスタイルもまったく違う」

「中国語と英語の科学論文は、言語だけでなくスタイルもまったく違う」

イ・ウェイ・タン(Yi-Wei Tang)博士は、現在ニューヨークでメモリアル・スローン・ケタリング癌センター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)の臨床微生物学部門主任と、ワイルコーネル大学医学部の病理学・臨床検査の教授を務めています。復旦大学上海医学院(Fudan University Shanghai School of Medicine)で医学を修め、バンダービルト大学で微生物学・免疫学の博士号を取得しました。かつてメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)で講師や臨床フェローとして勤務し、バンダービルト大学医学部で助教、准教授、教授を務めた経験もあります。微生物学的検査判断における先端的な新しい手順の開発と評価を目指し、医学や分子微生物学の橋渡し研究(トランスレーショナル・リサーチ)に携わってきました。

タン博士は、臨床及び分子微生物学分野におけるトップレベルの研究者です。その証として、Journal of Clinical Microbiology(JCM)の編集者、Journal of Molecular Diagnosticsの編集次長、American Academy of Microbiology(米国微生物学会アカデミー)フェロー、米国感染症学会フェローに選ばれています。タン博士の分子微生物学的診断における卓越した専門知識は広く認知されており、過去20年間、この分野の査読付き学術誌や書籍の監修を務めてきました。

JCMの編集者としての主な役割を教えて頂けますか?
JCMの編集者は、著者と査読者の間のコミュニケーションを作り出すという重要な役割を果たしていると思います。担当する原稿を受け取ると、まずは、論文審査のプロセスに乗せるだけの価値があるかどうかを判断します。別の編集者や上位の編集委員と相談した上で、編集者として掲載拒否と判断することもあります。審査を行う場合は、編集者である私が査読者を選んで割り当てます。査読後は、査読者からのコメントに基づいて私が判断を下します。

今日の医学誌編集者が直面している重要な課題は何でしょうか?また、JCMならではの問題はありますか?
JCMの著者は、主に臨床診断業務を行なっている臨床微生物学者だと認識しています。そのためこの学術誌に投稿する目的は、キャリアの向上または「趣味」であり、生活のためではありません。このような学術誌は、基礎系の学術誌に比べて、出版しなければならないというプレッシャーが低いはずで、実際、西欧や米国ではそのような傾向が見られます。一方、中国やインドなどの諸外国では、諸々の「刺激」政策のおかげで、研究者たちはSCI(Science Citation Index)に登録されてインパクトファクターを上げたいと躍起になっています。剽窃や不正のような深刻な問題を経験しただけでなく、私たちJCMの編集者は、臨床微生物学の門外漢が書いた質の低い投稿論文を受け取ったこともあります。

解決法の1つは、質の良い校正サービスを選ぶことでしょう。文章校正を行うだけでなく、研究成果を発表するのにふさわしい学術誌選びもサポートしてくれます。

健全な研究に基づいて科学を進歩させるにあたっての、JCの編集者の責任とは何でしょうか?
JCM編集者の目標は、研究が健全であり、データに不正がないことを万全にすることです。一方、JCM編集者は任意の仕事でもあります。私の場合は、生活の基盤を支えるフルタイムの病院の仕事があります。上記の目標を達成するためには、1つの原稿につき2、3名の査読者を選び、査読者の評価を前提として、各原稿に判断を下します。JCMには総合的な査読者データベースがありますが、とても優秀でやる気に満ちた微生物学者たちがいるおかげで助かっています。

出版後の論文撤回を避けるため、編集者が原稿の問題点を事前に発見することは可能ですか?
編集者が、査読の段階で剽窃やデータ不正の可能性に目を光らせておくことで、そのようなことは防げると思います。編集者は常に注意を払う必要があります。

編集者として、英語が母語でない著者に対して査読やコメントを補足するなど、多国籍の著者が貴誌にアクセスしやすくなる配慮を行なったケースはありますか?例を教えてください。
中国と米国の両方で研鑽を積んできた臨床微生物学者として分かったのは、中国語と英語の科学論文は、言語だけでなくスタイルもかなり違うということです。中国語の論文では結果に重点が置かれるため、序論(introduction)と対象(material)の部分は比較的短くなります。対照的に、英語の論文では仮説に基づいた手順に重点が置かれ、結果が確実に再現できるようになっています。中国では、科学者が中国語の論文を英語に翻訳して出版社に投稿することがよくあります。翻訳後、スタイルの修正も必要であることを念頭においておくことが重要でしょう。

英語が母語でない著者に対し、英訳原稿を再投稿する前に、英語を母語とする科学者に校正を依頼するよう助言したことは何度かあります。相談を受ければ、必ず質の良い校正サービスを勧めます。

高度に専門化された分野で、査読に協力してくれ、なおかつその研究にふさわしい査読者をみつけることはどれぐらい難しいのでしょうか?
素早く質の高い査読ができる人を見つけることは、常に難しい課題です。相手が基礎科学者なら、研究助成金の締め切り前で準備が忙しいときや、やっと取れた休暇中などに原稿を送りつけたくはありません。JCMの編集者の場合はとくにそうです。JCM編集委員のほぼ全員と、その都度選ばれる査読者たちには、臨床微生物学実験室の通常業務があり、論文の査読などの作業に充てられる時間は限られています。JCMは、編集委員を引き受けてくれる、熱意ある臨床微生物学者を常に探しています。

JCMに出版される論文に独特の特徴はありますか?
JCMは、優れた科学性を持った、臨床関連の論文を出版しています。JCMは、応用科学の学術誌として、臨床への応用に関心があります。このため、論文にまとめた新しい微生物学的技術が、臨床で満足できる成果が出る水準にまで達していないようなら、JCMよりも、Nature Methodや、Journal of Microbiology Methodのような、方法に重点を置く学術誌のほうが適しているかもしれません。

臨床と診断微生物学の専門家として、JCMに投稿された論文の中で、その後の進展に興奮したテーマはありますか?
過去何十年かの間に、診断微生物学分野の技術はたゆまぬ歩みを続け、驚異的な進歩を遂げました。現代臨床微生物学の実験室における診断能力は飛躍的に向上し、大きく拡張しました。JCMの編集者として、ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクス(代謝学)が臨床微生物学分野で広く応用されることを含め、パン・オーミクス技術の応用が増えてくると期待しています。基本方針(すぐれた科学性と臨床への関連性)を心に留め、「執筆ガイドライン」に記載された次のことを忘れないようにしてください:「全ゲノム配列やマイクロバイオームに注目した投稿論文のうち、JCMが出版を考慮するのは、研究の科学性が健全で、観察が時宜に適って新奇性があり、提示された情報が臨床微生物学の実践に関連している場合に限ります」

 

タン博士、ありがとうございました。

 インタビュー担当はAlagi Patelでした。

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