野口ジュディー先生の科学英語コラム第1回:「英語をマスターするコツは『ジャンル』にある」

グローバル化が進む中、英語が不可欠だという職業や専門分野があります。どうやって英語をマスターすればいいのでしょうか?
答えのヒントはヨーロッパにあります。EU(欧州連合)には24の公用語があり、複数の言語を使いながら生活や仕事で協力し合っている人が多くいます。こうした背景から、EUは学習者の言語運用能力を客観的に評価するための指標としてCEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment, ヨーロッパ言語共通参照枠)を設けました。その中級の指標の一つに「自分の専門分野であれば、メールやファックス、ビジネス・レターなどのビジネス文書を、感情の度合いをある程度含め、用途に合った適切な文体で書くことができる」とあります。
ここで鍵となるのが「自分の専門分野で」と限定されていることです。必要となるのが「ジャンル」の概念です。
「専門分野」と聞くと、専門語彙について心配する人も多いでしょう。専門語彙の重要性は明らかですが、極端に言えば、自分の専門分野の単語がわかれば良いのです。cellという単語にはいくつもの意味がありますが、生命科学分野では「細胞」の意味で、電気電子工学分野では「電池」の意味で使い、その逆はまずないでしょう。専門語彙は一つの英単語とその日本語訳をペアで覚えれば良く、辞書にある多くの意味の中からあれかこれかと迷う必要はありません。
専門語彙を覚えた後が重要なのです。専門語彙をどういった表現でつなげば、また、専門語彙を含めた文章をどういった順序で示せば、伝えたいことが正確に、効果的に伝わるのか。英語が不可欠だという職業や専門分野で英語を使用するには、こうした文書全体に配慮する「ジャンル」の概念が必要です。
「ジャンル」は応用言語学の分野では、職業や専門分野などで繰り返し使用されるコミュニケーション・イベントのことです。各ジャンルには決まった流れと表現があります。例えば、英語のビジネス・メールというジャンルを理解すれば、文書の構造と慣用表現がわかり、上手に英語で書くことができるのです。また、国際学会で研究を紹介するための口頭発表やポスター発表もそれぞれの特徴のあるジャンルです。
ジュディー先生の本の紹介:ジャンルの概念を育てることを目指し、ビジネス・メールのほかに、安全規則、製品仕様書、実験の手順書、論文などのジャンルを扱ったテキストがあります。Essential Genres in SciTech English (Judy Noguchi and Masako Terui金星堂, 2010, ISBN978-4-7647-3904-8)。ジャンルの特徴を捉える問題を解きながら理解を深めていきますから、英語が得意でなくとも、効果的に学習できます。特に理工系分野の若い方にお勧めします。
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