研究で社会を変えるために:政策立案者と積極的にかかわろう

研究で社会を変えるために:政策立案者と積極的にかかわろう

知識を広げて世界を変えることを目指す意欲的な研究者たちが日夜研究に取り組み、新たな発見をジャーナル論文やプレプリントで次々に発表しています。しかし、社会を形作る政策を決定する上できわめて重要かもしれない研究結果が得られても、その影響力を十分に理解している研究者はわずかです。

 

政策立案者に積極的に働きかけることによって、研究の影響度が高まり、キャリア形成においてもさまざまなメリットが得られます。この記事では、政策立案者と関わりを持つべき理由と、実際に影響力を及ぼすための方法をまとめました。

 

政策決定における研究者の重要性

 

政策立案者は、詳細な分析と深い理解が求められる複雑な問題に対処しなければなりません。一方、研究者がエビデンスに基づいて示す見解は、意見の形成に影響を与え、政策決定に必要な情報を提供します。つまり研究者は、政策立案者が諸問題の解決に取り組むための専門知識を提供しているのです。

 

研究者は、エビデンスに基づく研究結果を提供するだけでなく、これまで認知されていなかった問題や傾向を明らかにすることもできます1。さらに、政策の成果を評価してその有効性を判断し2、最新の提案を示すこともできます。

 

研究者は実効力を持った発言者であり、その提言が政治家や非政府組織に尊重されることも多いことから、世界に好ましい影響をもたらす貴重な能力を持っていると言えるでしょう。

 

研究を知ってもらうためのヒント

 

研究成果による社会への影響を最大化するためには、まずはその研究について知ってもらうことが必要です。それは簡単なことではありませんが、研究の視認性を高めるためのヒントをいくつか紹介します。

 

1. 政策との関連性を強調する

 

政策立案者が今まさに取り組んでいる問題や、今後政策上の問題になる可能性が高い課題があなたの研究テーマである場合は、政策的含意を踏まえて、リサーチクエスチョンと研究結果の意味付けを行なってみてください3

 

2. 平易な言葉を使う

 

政策立案者は多忙なため、一つのトピックについてじっくり調べる余裕がありません。また、政策上のトピックについては素人です。つまり、多くの政治家がエネルギー政策について決定を下していますが、その中に工学、地球科学、再生可能発電に関する正式な訓練を受けた人はほとんどいないということです。専門用語を避けた平易な言葉を使うことで、すれ違いを防ぎつつ、理解を深めてもらうことができます。

 

3. 政策立案者と直接関わる

 

あなたの研究に関連する問題に取り組んでいる政策立案者には、遠慮なく連絡しましょう。選出された議員の連絡先はすべて公開されています。政策関連の会議や会合に出席して政策論議に参加することは、政策立案者との関係を築く絶好の機会です。

 

4. さまざまなチャネルで研究を発信する

 

ジャーナルが研究発表の主要な場であることは確かですが、発表の場をジャーナルだけに頼っていてはいけません。研究内容を分かりやすくまとめた論説やポリシーブリーフ(政策提言)4を作成することも検討してみましょう。Twitterなどの一般向けプラットフォームや ResearchGate5などの専門家向けポータルも、業績を多くの人に向けて発信するための効果的なツールです。

 

5. 他の研究者や組織と協力する

 

コラボレーションは、伝えたいメッセージを増幅して研究活動の信頼性を高めるのみならず、力強く団結したメッセージをまとめ上げるための機会になります。政策課題を共有するシンクタンクや権利擁護団体などの組織と連携することも検討してみましょう。

 

6. タイミングを計る

 

研究発表のタイミングを、重要な政策論議やイベントに合わせるのは難しいでしょう。しかし、あなたの研究が政策に直接的な影響を与えそうな場合は、前述したような方法を使って重要な時期にメッセージを発信することで、注目を集めやすくなります。たとえば、環境汚染物質の専門家なら、化学廃棄物の処理規制に関する公開討論を機に論説記事を発表すれば、議論を適切に導くことにつながるでしょう。

 

7. 忍耐強さを持つ

 

研究に注目してもらうには、時間と労力がかかります。粘り強く伝え続け、すぐに反応が来なくてもあきらめないでください。多くの場合、政策決定は時間のかかるプロセスであり、研究成果が影響を持ち始めるまでには時間がかかるものです。

 

政策に多大な影響を与えた研究者たち

 

海洋生物学者のレイチェル・カーソン氏は、政策立案者に衝撃を与え、この世界に大きな影響を与えた人物です。海洋生物学で実績を残した後の著書『われらをめぐる海』7は、ポピュラーサイエンスの代表的作品となって同氏の名声を高め、数々の受賞にもつながりました。これに続いて出版されたのは、農薬の使用が自然に及ぼす悪影響を記録した、詩的な魅力を持つ 『沈黙の春』(1962年)8です。この作品では、当時米国で広く使用されていたDDTの有害な影響に焦点が当てられました。業界からは強い反発がありましたが、世論はDDTの使用に反対し、その結果、DDTは今日まで禁止が続けられています9。『沈黙の春』は、現代の環境運動の基本的なテキストとなっています。

 

アンソニー・ファウチ氏もお馴染みの名前です。国立アレルギー感染症研究所の免疫学者として早い段階から政策立案者と幅広く関わりを持ち、1984年に同所の所長に就任しました。それ以来、豚インフルエンザやエボラウイルス病をはじめとする多くの病にリーダーとして対応してきました。HIVとCOVID-19のパンデミックのピーク時には、もっとも話題にのぼった研究者かもしれません。批判も受けてきましたが、50年を超えて公共部門での政策に大きく関わってきた経歴で信頼を得ています10

 

アビジット・バナジー、エスター・デュフロ、マイケル・クレマーの3氏は、貧困を緩和するためのランダム化比較試験の手法で2019年にノーベル経済学賞を共同受賞しました。社会問題を解決するためにデータを重視した方法論を採用したことに加え、書籍『貧乏人の経済学』の出版や、数百万回の視聴を記録したTED Talks11での 登壇など、さまざまなメディアを通じて研究の認知度を高め、興味深い議論を展開してきました。

 

最後に、ロバート・ウィンストン氏は英国でもっとも有名な不妊専門医です。研究員および医師として活動する中で不妊治療のための新たな外科技術を開拓するほか、生殖、発育、不妊治療の生命倫理に焦点を当てた『Child of Our Time』12など、数多くの優れたBBCドキュメンタリーを発表してきました。英国で広く尊敬を集める同氏は、貴族院の一代貴族でもあります。つまり、科学への貢献によって自らが政策立案者になったのです。

 

まとめ

 

政策立案者と関わることで、研究の可視性と影響度を高め、政策決定を支え、将来の研究資金の獲得につなげることができます。政策者コミュニティと上手に連携するためのスキルを伸ばして、研究者としての可能性を最大限に引き出しましょう。

 

関連資料

1. Section 10. Conducting Research to Influence Policy. https://ctb.ku.edu/en/table-of-contents/advocacy/advocacy-research/influence-policy/main

2. Holford, A. Four key methods for evaluating policy impact. 30 September 2021. https://www.iser.essex.ac.uk/blog/2021/09/30/four-key-methods-for-evaluating-policy-impact

3. Newson, R., Rychetnik, L., King, L. et al. The how and why of producing policy relevant research: perspectives of Australian childhood obesity prevention researchers and policy makers. Health Res Policy Sys 19, 33 (2021). https://doi.org/10.1186/s12961-021-00687-0

4. How to write a policy brief. IDRC. https://www.idrc.ca/en/funding/resources-idrc-grantees/how-write-policy-brief

5. https://www.researchgate.net/

6. Smith, K., Fernie, S., & Pilcher, N. (2021). Aligning the times: Exploring the convergence of researchers, policy makers and research evidence in higher education policy making. Research in Education, 110(1), 38–57. https://doi.org/10.1177/0034523720920677

7. Carson, R. The Sea Around Us. Oxford University Press (1991). https://www.rachelcarson.org/SeaAroundUs.aspx

8. Carson, R. Silent Spring. Houghton Mifflin Company; Anniversary edition (2002). https://www.rachelcarson.org/SilentSpring.aspx

9. Dichlorodiphenyltrichloroethane (DDT) Factsheet. Centers for Disease Control and Prevention. https://www.cdc.gov/biomonitoring/DDT_FactSheet.html

10. Constantino, AK. Dr. Fauci’s influence reaches beyond Covid, across five decades of research: ‘He always spoke to science, committed to what was right’ (2022). https://www.cnbc.com/2022/08/23/dr-anthony-fauci-legacy-from-lab-work-hiv-aids-to-covid-pandemic.html

11. Duflo, E. Social experiments to fight poverty. TED2010. https://www.ted.com/talks/esther_duflo_social_experiments_to_fight_poverty

12. Child of Our Time. BBC. https://www.bbc.co.uk/programmes/b0072bk8

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