若手研究者への助成金支給が科学を変える?

若手研究者への助成金支給が科学を変える?

「過去15年、独創的なアイデアを追求するのに必要なリソースが若い研究者に与えられなかったために、いったいどれだけのブレークスルーが失われたか、我々にはわからない」
アンディー・ハリス(共和党メリーランド州上院議員・医師)の言葉。Young, Brilliant, and Underfundedより

イノベーションこそが学術研究の中核です。しかしながら、学術研究を巡る難題の一つに、若手研究者への偏見があり、それが科学的イノベーションや進歩に悪い影響を与えています。若手研究者は助成金を得るために必死です。なぜなら、助成金の可否を決定する委員会(助成金委員会)は、すでに一定の評価を得た研究者を大事にするからです。こうした傾向は、研究者が助成金を受け始める年齢が次第に高くなっていることからも明らかです。研究者がアメリカ国立衛生研究所(NIH)から初めて大規模な助成金を受けたときの平均年齢は、1980年には38歳だったのに、2013年には45歳以上となりました。さらに、若手研究者が勝ち取った助成金が全体に占める割合は、1980年に5.6%だったのに対して、2012年にはわずか1.2%へとしぼんでしまっています。結果として、多くの若い知性が研究を手離し、別の職業を選ぶという道を追求せざるをえなくなっています。  

 

このことが科学にもたらした損失の程度は、先日発表された研究 ”Age And The Trying Out Of New Ideas”

からも測定可能です。 経済学者のM.パッカレン(M. Packalen)とJ. バタチャリア(J. Bhattacharya)は、過去70年間に発表された生物医学分野の論文2,000万本以上を分析し、若手研究者が年長の研究者よりも刺激的かつ革新的なテーマを研究する可能性がかなり高いこと、また、年長の研究者は若手研究者を指導するときに、その時点でトレンドとなっている領域の論文を発表する傾向が強いことを明らかにしました。若手研究者が科学に与えうる貢献を考えると、彼らが研究者としてのキャリアを開始するときに直面する困難に対処する必要があります。       

 

共和党のメリーランド州上院議員アンディー・ハリスは、ニューヨークタイムズ紙に掲載した論説“Young, Brilliant, and Underfunded”で、若手研究者の状況を浮き彫りにしました。彼によると、生物医学研究への投資として国立衛生研究所が国から受け取る補助金300億ドルのうち、ほとんどが各専門分野ですでに高い評価を得ている研究者に流れており、時には、過去に目覚しい業績を上げたものの現在はそれほど研究をしていない研究者が資金を受け取っていることもあるとしています。指摘されている重要な事実は、たとえば次の通りです。

  • ほとんどのノーベル賞受賞者は、受賞の理由となった発見を40歳になる前にしていた。それはつまり、もっとも劇的で創造力に富む研究ができるのは、非常に若い頃だということを意味する。
  • 65歳以上の研究者に分配される国の研究費の割合は、35歳未満の研究者に分配される割合より大きい。
  • 助成金全体の増加は、こうした傾向に拍車をかけている。

若手研究者に革新的なアイデアを探求する機会を与えるためには、キャリアの早い段階で彼らを資金的に支援する必要があるとハリス氏は訴えます。 

 

40歳未満の研究者に与えられるフィールズ賞 のように、優秀な若手研究者を認知して賞を与える試みがある一方で、ほとんどの国が、若手研究者への助成金再分配とキャリア上の支援という難問に直面しています。年長の研究者は自分たちの地位にしがみついており、若手研究者がキャリアのはしごを昇っていくことを難しくさせています。先ごろ国立衛生研究所は、年長の研究者が自分の助成金を若手に受け渡すのを奨励するため、名誉助成金(emeritus grants)を年長の研究者に提供することで問題の解決に一歩を踏み出しましたが、これに対する学術界の反応は様々です。 

 

助成金委員会は、しっかりした研究業績を持つ研究者に助成金を与える責任があると感じています。けれども、若手研究者が学術研究に与えうる影響力を考えれば、助成金委員会も焦点を研究者から研究そのものへとシフトさせる必要があるのではないでしょうか。ハリス氏は論説の終わりに次のように述べ、学術研究の中核を若く保つ必要性を強調しています。 「キャリアの最盛期に価値ある研究を行っているすぐれた研究者を支援することで、納税者のお金はより有意義に使われるようになり、また、科学が全体として我々に恩恵を与え続けることになるのだ」。

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