「研究では、自分が心からやりたいことを追求すべきです」

「研究では、自分が心からやりたいことを追求すべきです」

本インタビューでは、若手研究者の視点をお届けします。テナント氏は博士課程の大学院生として研究を行い、論文出版や学会への出席に加え、世界中を旅して研究者を対象としたオープンな研究・科学政策についての啓蒙活動を行なっています。また、活発なブログ投稿や査読のほか、その他の活動―例えばこのインタビューへの対応―も行なっています。テナント氏は、専攻の変更も厭わず、子供の頃から大好きだった古生物学の研究に飛び込みました。その過程で、科学コミュニケーションと政策に関するあらゆることへの関心、とくにオープンサイエンスへの情熱を自覚しました。テナント氏は、ネットワーキングの真の潜在力を現実化し、それを利用して学術研究の重要事項に関する対話に積極的に参加しようとする研究者で、厳しい研究スケジュールを管理しながら、さまざまな活動に取り組んでいます。今回は、研究やその他の分野で興味を持っていることについてお話を伺いました。とくに、本格的な研究活動とその他の活動の両立についてお聞きしました。科学や学術出版の重要な進展について、より多くの人々が知るべきだという強い思いが、テナント氏の仕事への原動力になっているようです。


全3回のインタビューの第1回目では、研究者としての経験に基づいて、学際研究の重要性についてお話し頂きました。科学コミュニケーションと政策に興味を持つようになった経緯と、査読者としての経験についてもお聞きしました。


若手研究者という立場についてお聞かせください。学術研究という道の途上で、なぜ専攻分野を変更することにしたのですか?

大学に入ったときの専攻は、惑星地質学でした。でも2年目の途中でフィル・マニング(Prof. Phil Manning)教授に出会って、科学のダークサイドである恐竜に魅せられ、教授の授業を取るために専攻を主流の地質学に変更しました。その後、古生物学で博士号を取得する道を選びましたが、現代の古生物学研究は生物科学にも関係しているため、地質学の知識だけでは不十分だということが分かりました。そこで、2つめの修士号を生命科学で取得するという、二股とも言える変更を行いました。これで、岩石の知識と併せて、古生物学に進む完璧な基礎を築くことができたというわけです!

研究者が専攻分野を変更することは、どれぐらい難しい(あるいは簡単な)ことだと思いますか?

良い質問ですね。難易度は、変更したい理由や、2つの分野がどれぐらい関連し合っているか、そしてどのような機会が開かれているかによって変わってくると思います。決まったルールなどないのですから、研究では、自分が心からやりたいことを追求すべきだと思います。やりたいことをする最高の機会を将来つかむために、今何をする必要があるのかを突き止めることが一番難しいと思います。そのためには、ときには大きな変更が必要です。また、精神面の問題も大きいと思います。自分の人生をガラッと変える可能性や、未知の分野に踏み出すことにオープンな気持ちでいなければなりません。これをワクワクすることだと思う人もいれば、怖いと感じる人もいるでしょう。変化を受け入れ、適応し、そこから飛躍してみよう、というのが私のアドバイスです。

研究中に分野を変更したり、複数分野を専攻したりする、学際的な研究者がますます増えています。今日の学術研究における学際性には、どのような役割があると思いますか?

研究は、学際性のあるところでこそ繁栄します。自分の知識の範囲を拡げる上で、他人と協力することほど重要なことはありません。例えば、現代の古生物学には、化学、分子生物学、地質学、動物学、環境学、そして粒子物理学さえ関わってきますので、大変複合的です。これは、個人の決定の問題ではなくなってきていると思います。学際性は個人的な好みの問題ではないということです。つまり、研究コミュニティとして集合的に関わっている分野について、その発展のために必要なことを認識する必要があるということだと思います。研究分野を狭めると、他分野の発見から学ぶ機会が失われ、進歩が滞ってしまいます。

科学コミュニケーションと政策に興味を持つようになった理由と時期について教えてください。

2つ目の修士号取得後、自分に合った研究の機会がやってくるのを待っていて、数ヶ月間無職だったことがあります。この「休憩期間」に、ブログなどのソーシャルメディアを使い始め、それらに関するスキルを磨きました。幸運にも、ロンドン地質学会で科学政策の仕事をすることになり、大変面白い経験をさせてもらいました。この仕事を通して、研究とコミュニケーションと政策の関連性が重要だということを確信するに至り、大学にいるだけでは得られなかった、研究の価値に関するまったく新しい視点を得ることができたので、非常に有意義でした。とくに、研究が社会のより広い部分、つまり「科学のための科学」という枠組みを超えたところとどう関係するのかを学びました。この仕事を終えた2日後に博士課程が始まりましたが、この仕事を経験する前と後では、研究への視点がまったく違ったものになりました。

地質学会で働いていた時に上司だったニック・ビルハム(Nic Bilham)氏(地質学会政策・コミュニケーション部門のディレクター)には、とても感謝しています。科学政策や、広範囲にわたって効果的なコミュニケーションをすることの価値、そして現代的な研究環境における学会の重要な役割について教わりました。地質学会で過ごした期間に学んだスキルをその後も伸ばす努力してきましたが、それは研究者として成長する上で非常に有益でした。このような経験ができたことに、大変感謝しています。他の人にもこのようなスキルを伸ばすことを勧めたいと思います。

現在、中心となる研究に加えてさまざま活動に携わっておられます―論文出版、ブログ執筆、学術出版関係者との交流、学会参加、講演会等々―これらの活動のための時間を、どのように確保しているのですか?

正直、本当に馬鹿みたいに大変で、私生活に影響が出ることも多いです。移動が必要なときや、時差を考慮して仕事をしなければならないときはとくにそうです。でも、自分の仕事は重要だという強い思いがあるので、多くの時間を充てることは苦ではありません。例えば、科学コミュニケーションや研究へのアクセスを容易にすることは重要だと思っているので、ブログの執筆やフリーランスの立場での執筆には時間を割いています。また、知識へのアクセスが平等であることも重要だと思っているので、オープンアクセスについての仕事にも多くの時間を費やします。執筆スキルが上達するにつれ、ブログなどにかける時間は短縮されますが、とにかく時間のある時にはブログを書かなければ、という状態です。とにかく、やるべきことがあれば、それをやろうとしています。ときには混沌とした状態になることもありますが、毎日同じことばかりでうんざりすることはない、とも言えます。何かを重要だと確信したら、できる限りそれに時間を費やして没頭するのは、価値あることだと思います。

テナントさんはPublonsの査読者でもあります。その経験についてお聞かせ頂けますか?

Publons自体は査読プラットフォームではなく、査読活動を公に(または非公開で)記録しておくスペースです。査読は非常に重要なものなのに、その功績を認めてもらおうとしない研究者がいることは、奇妙に思えます。Publonsは、そのような考え方を変えていく素晴らしい解決法だと思います。オープンであることは、それ自体が目的なのではなく、単なる手段です。査読では、オープンであることで説明責任への透明性が増し、信頼が得られ、他の人がそれを再利用してその上に研究を築いていくことが可能となります。多くの人が、査読は研究者としての義務だと考えています。おそらくそうなのでしょうが、それなら、それが功績としてきちんと認められてもよいはずです。


私が初めて行なった査読は、すぐにPublonsに掲載されました。残念なことに多くのジャーナルは、研究者による査読の利用について、ジャーナルに権限があると考えていたり、あるいは査読は特権的もしくは内部のプロセスだとみなしていたりします。ですから、現在は実験的な取り組みも数多く行われていますが、実際の査読そのものを掲載できないことは多々あります。これはなんとも奇妙に思えます。秘密裏にして公表しないという排他的なプロセスが、どうして客観的だといえるでしょうか。「査読」の基準にはふさわしくないものだと思います。


博士課程在学中に査読を5回経験しました。私のレベルの研究者にとって、それが比較的多いのか少ないのかはわかりませんが、この程度であれば、私の「スケジュール」に査読が影響することはほとんどありません。査読はすべて可能な限り綿密に行なったつもりですが、1週間以上かかったことはありません。すべての査読はPublonsに掲載されており、しっかり人目に触れるようになっています。


現段階で、これによってどのような影響があったかをコメントすることはできません。Publonsの概念である、科学コミュニティに査読という「サービス」で貢献したことを公に記録するという考え方は好ましいと思います。Publonsに掲載したということは、私が査読内容を見られることを恐れていないという証でもあります。他人に見られたくないことを書いているのなら、そのようなものは書くべきではないのです。Publonsの利用によって良い影響があるのかどうかはまだ分かりません。科学の世界ではまだ「新人」ですからね。Publonsで経験したことは、全体的にとてもポジティブでしたが、出版社によっては、厳しい方針を採用しているためにPublonsを利用できない場合もあります。

Open Glossaryについて教えてください。

オープンリサーチ用語集(Open Research Glossary)はOpenConから生まれました。ロンドンでのOpenConの関連イベントで、オープンデータの重要性について、ロス・マウンス(Ross Mounce)氏と共同講演をしました。その後に行ったパブで、ある人から、講演の話に出てきた専門用語はなじみのないものが多く、内容を理解するのが難しかったと言われました。つまり、私たちは「オープンの世界」の周りに言葉の壁を作っていた、ということが分かったのです。そして、その場ですぐに、オープンリサーチに関する「専門用語リスト」を書き出し始めました。オープンリサーチの中枢に関わるものから、政策に関するもの、ライセンシングや原理についての単語まで、多岐に渡りました。これをGoogle Docにリソースとしてまとめたのです。こうすれば、誰もが参加したり参照したりできる、コミュニティによって定義された用語リストができ上がります。その後、十分に包括的なリソースになったところで、Right to Research Coalitionの好意により、用語集をホストしてもらえることになりました。まだこちらから参加することができます。新しいコンテンツが十分に増えたら、第2版を作成する予定です。

 

テナントさん、ありがとうございました!

次回は、科学出版に関する重要なテーマについてお話を伺います。


テナント氏へのインタビュー記事

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