科学の影響力評価:2014年度REF報告書の概要(英国)

科学の影響力評価:2014年度REF報告書の概要(英国)

研究は、科学の外の世界に対してどの程度の影響力があるのでしょうか? 科学の影響力を数値化することは可能でしょうか? 科学研究が始まって以来、研究者たちはこれらの根本的な問いへの答えを模索してきました。しかし、科学のグローバル化の進展により、科学に対する投資が、どのような影響をどの程度及ぼしているのかを評価する必要性が高まってきました。その結果として、多くの国の資金提供機関が、研究の質を評価し、社会にもたらし得る影響力について評価するという課題に取り組んできました。そのような取り組みの一例として、英国の高等教育に資金助成を行う機構が、大学の最新の研究を評価する取り組み、Research Excellence Framework (REF)というものがあります。

REFは、英国の高等教育機関が行なった研究の影響力を測り、資金提供団体が各大学に対して行う6年間の資金配分を決定する際の目安とするものです。各大学が提出する研究事例に基づき、REFの委員(研究者や産業界の専門家が含まれる)が、研究内容や、それによる影響力について分析します。研究による影響度の評価は様々な側面から行われます。また、研究を行なっている大学の信頼性についても評価します。最近出版されたREF報告書では、研究による社会的影響力の評価がまとめられ、事例のデータベースとなっています。このデータベースは、全事例の分析や自動テキストマイニングができる、検索可能なツールとなっています。また、関心のある人が英国国内や世界中からアクセスし、さらに詳しい分析を行うこともできます。研究成果として提出されたものの中には、世界的な影響力があった水質改善および水関連産業の業績や、ヘルスケアセンターのケアの質に関する研究プロジェクトなどが含まれています。


最新の報告書に関する情報

REFプロジェクトは大規模な取り組みで、提出された研究成果の審査には1年間かかりました。2014年度REF報告書に関する情報には、次の事実が含まれています。

  • プロジェクトに参加した高等教育機関は154機関。
  • 提出件数は1911件。その中に研究成果が191,150件、影響力のある事例研究が6,975件含まれていた。
  • 審査にあたったのは学術関係者898名、研究成果のユーザー259名から成る4つの主要委員会と36の小委員会。
  • 委員会は、「独創性、重要性、厳密性」という観点から研究成果の質を評価した。


報告書の主要な結果

REF報告書では、以前に行われた分析「Research Assessment Exercise(RAE)」と比較して、提出された研究成果の質が飛躍的に向上したと述べられています。また、以下の内容が報告されています

  • 世界屈指と評価された研究成果サブプロファイルの割合は、RAE 2008では14%だったが、REF 2014では22%に増加した。国際的に優秀と評価された割合は、37%から50%に上昇した。
  • 研究の収入源は多様で、英国研究会議協議会(UK Research Councils)からが38%、英国の政府組織からが19%、英国の慈善団体からが19%、英国企業からが6%、EU政府団体からが9%となっている。
  • 影響力のある事例研究の8割以上は、様々な分野における基礎研究であった。
  • 影響力のある事例研究は広範囲にわたっており、「影響力のあるテーマ」が60件以上特定された。
  • 優秀と評価された研究には、応用、基礎、臨床、戦略的研究などのあらゆる種類が含まれていた。また、研究様式も共同型、学際型、他分野横断型などあらゆる種類が含まれていた。
  • 影響力のある研究は幅広い分野から生まれており、研究が影響力を発揮する道筋として、3700以上の個別の経路が特定された。
  • 英国の高等教育機関(HEIs)で行われている研究は、世界各国に貢献している。

REF報告書は、研究の質が資金助成の方針にどのように影響するかを反映しており、研究の商業化(実用化)に関する糸口を与えるものです。報告書は、「英国の研究は、社会、経済、国内外の人々の生活の質に利益をもたらした」と結論付けられています。


REF報告書に対する専門家の見解

REF報告書は、英国で行われている研究の質と価値を詳細に解説したものですが、このプロジェクトの欠陥を指摘する専門家もいます。研究成果を整理して提出し、それを一年かけて分析するためには、膨大な時間とお金がかかりました。ランカスター大学で歴史学を研究するデレク・セイヤー(Derek Sayer)教授は、「6年に一度の学術界版バトル・ロワイヤルにかかった公的費用は、大学側でおよそ4700万ポンド、さらにHEFCE(英国高等教育財政審議会、Higher Education Funding Council for England)の事務運営費用で1200万ポンド。そのほとんどは税金で賄われた」と述べています。

また、研究成果の評価方法についても批判が出ています。セイヤー教授は、REFが国際的な評価基準を利用していないと指摘しています。また、審査員のほとんどは、英国の大学に所属する専門家でした。さらに、委員会によっては審査員が一人で評価を行なっていたところもあり、そうした状況で包括的な評価ができたかどうかは、疑問が残ります。ネイチャー誌の論説で指摘されていたように、影響力を発表する際に評価基準が示されていなかったのは、このような理由からであると思われます。

研究の質的・量的成果を判定するためには、より多くの人が合意できる方法をとることが必要です。また、専門家の中には、REFのようなやり方は、革新的な研究を阻む可能性があるという懸念を示す人もいます。提出物によって、大学が受け取る資金に直接影響が出るため、審査員が首を縦に振るようなものに仕立てようとする人も出てくるかもしれません。このような「取引」において、再定義を試みたり、新しい分野を打ち立てようとする研究が日の目を見ることはないでしょう。

とはいえ、REF報告書は、研究が社会や人々の生活の質に与えるグローバルな影響力を文書化することが可能だという証です。科学がどのように進歩しているのかを大局的に理解するために有効な一歩であり、科学の進歩の速さや方向性を導く役割を果たすものかもしれません。

 

 

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