査読への信頼は損なわれたのか:著者・査読者・編集者それぞれの信頼

査読への信頼は損なわれたのか:著者・査読者・編集者それぞれの信頼

学術出版における主な利害関係者である研究者、ジャーナル編集者、査読者にとって、「信頼」はベースとなる要素です。「信頼」は、この三者のやり取りにおけるさまざまな接点で見られます。まさにその接点で、信頼が損なわれる可能性もあります。この記事では、三者の視点に注目しながら、査読の信頼性に疑問が生じる要因を掘り下げます。


著者から見た信頼


研究者は、編集者が、原稿の改善を後押ししてくれる最高の査読者を選ぶはずだと信じています。また、査読者が守秘義務を守り、公正な判断の下で建設的なフィードバックを提供してくれることを信じています。一方、出版を目指す途上で、善意の研究者が時に道を踏み外すことがあります。学術研究が世界的に増加していることは確かな事実であり、「出版するか滅びるか」という文化は疑問視されているものの、研究者の成功は主として出版点数と掲載誌のステータスに基づいて評価されるということが続いています。

このような状況は、不健全な競争につながります。研究者がひっきりなしに論文を書き、一早い出版を競い合えば、出版物の質に影響が出ます。中には、他論文からの盗用、研究結果の細分化(サラミ論文)、査読の操作などの不正行為による非倫理的な出版に手を染めてしまう研究者もいます。その結果、編集者と査読者による研究者への信頼が損なわれてしまうことになります。


ジャーナル編集者から見た信頼


ジャーナル編集者は、投稿と出版のプロセス全体を通じ、出版と倫理におけるベストプラクティスに著者が従うことを信じています。同時に、査読者が質の高いフィードバックを提供することを信じています。

しかし、編集者もまた、その立場ならではの課題に直面しています。膨大な数の投稿論文によって、編集者には大きな負荷がかかります。国際STM出版社協会の報告書によると、2018年には300万本以上の論文が出版されました。原稿の数があまりに多いと、査読に回す原稿の質の高さを保証することが難しくなります。一方で、多忙な査読者は、質の低い原稿を受け取れば、編集者に対する信頼を低下させるでしょう。さらに、査読依頼は断られることが珍しくないため、編集者にとって査読者の依頼自体が困難な仕事です。原稿の処理が遅れれば、ジャーナルの編集プロセスに対する研究者の信頼が損なわれることになります。


査読者から見た信頼


査読者は、論文著者が研究を倫理的に提示していること、編集者がインパクトの高い論文を選んでいることを期待しています。査読者は、新たな研究成果を評価するために、多忙なスケジュールを割いて査読にあたっているのです。

査読者はオーバーワーク気味のことが多いため、依頼を断ることもあります。しかし、場合によっては査読依頼を引き受け、査読経験がなく適切な訓練も受けていない若手に任せてしまうこともあります。これは結果的に、出版論文の質と、著者や編集者による査読への信頼に影響を与えることになります。

考察すべきもう1つの側面は、査読システムの中心にいる査読者に対する視点です。大多数の研究者が査読に信頼を置き、出版論文の水準を向上させるための役割を信じている状況があるなら、原稿を評価する査読者の努力を認める必要があります。多くの査読者は、自分が査読した原稿がリジェクトされて別のジャーナルに投稿され、また新たな専門家が査読にあたることに、報われなさを感じています。この状況は、最初の査読者の努力を無にし、次の査読者に努力を繰り返させることにつながっています。


査読を強固なものにする


確かに、査読には欠陥がないわけではありません。「査読は機能していない」という言葉に出くわすことも多いと思います。それでも、Sense about Scienceによる査読に関する調査2019では、さまざまな立場や分野の回答者3000名のうちの90%が、査読によって論文の質が向上したと答えています。したがって、制度の欠陥を認めた上で、障壁となっている事柄について、利害関係者間での対話を進めることが重要でしょう。

現在、査読の大半は見えないところで行われています。また、査読者の資質についての基準は不明確です。さらに、ほとんどの査読モデルでは、査読者のコメントは非公開です。これでは、読者も著者も、査読の質について何も分からないままです。査読プロセスの透明性を高める取り組みが行われているのは心強いことですが、査読者になるための訓練や資格については、さらなる対話が必要だと思われます。

ジャーナルは、査読者候補を増やすことにも目を向ける必要があるでしょう。査読経験のない研究者も参加できるオープンな共同査読を奨励することで、キャリアの浅い研究者も査読の機会を得られ、査読について学ぶことができます。それが、膨大な量の論文の査読にあたる一部の研究者の負担を軽減することにもつながります。

研究の中心的存在である研究者は、倫理的な出版慣行に従い、査読を受ける準備が整った原稿を投稿することで、その大きな役割を果たすことができます。査読を受ける準備が整った原稿とは、ミスがなく、すべての倫理指針に従っており、いかなる出版基準にも違反していない原稿のことです。倫理宣言や言語上の問題といった側面に配慮がなされていることが確信できれば、編集者は、科学の質の評価に集中することができます。

査読は、研究者、査読者、編集者が共に支えるシステムです。もっとも重要なのは、互いの信頼こそがシステムを動かし続けているということです。公開査読、査読者の貢献を公に認める仕組み、カスケード査読の受容などにより、査読の信頼性と透明性を高めようとする試みがなされています。問題点と対応策に関するよりオープンで透明な対話を続けることで、査読をより効果的なものにすることができるでしょう。


参考資料:

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