「複合的な研究領域でオリジナリティある研究者を目指す」橋本龍一郎先生(首都大学東京)

「複合的な研究領域でオリジナリティある研究者を目指す」橋本龍一郎先生(首都大学東京)

現在の研究テーマについて教えてください。

大学では心理学を専攻しました。心理学があつかう人間の機能の中で一番関心があったのが言語です。当時、言語学を専攻しようか、心理学を専攻するか迷いました。当時スティーブン・ピンカーの「言語を生み出す本能」という本が流行り、その影響が強いです。この本を読んで、言語学や心理学と脳科学が結びつくことがわかり、自分の興味を追求する研究にはどの様な道を選ぶべきか考え、最終的に心理学を選びました。大学院は当時まだ珍しかった機能的MRIの装置があり、より踏み込んだ研究ができる環境に進みました。この様にして自分の道を選びましたが、現在は言語や社会・コミュニケーション機能に障害がある、統合失調症、自閉症の研究をしています。

より具体的には、言語や社会機能などを反映している脳活動を捉えて機能的MRIで測定し、定型人の方と、障害を持つ方を比べる研究をしています。大学院では健常者の言語についてのみ研究をしてきましたが、大学院を卒業するころ、健常者の研究だけでは飽き足らなくなり、臨床のデータを用いた研究をする事になり、研究分野の動向としても、その頃はちょうど私の様な基礎の研究者が臨床研究に乗り出し始めた時期でもありました。その後、自閉症の研究に進むことになりました。

現在はまた言語科学の教室に移りましたので、もっと言語とこれらの臨床研究をつなげる仕事をしていき、新たな発見をしていきたいと思います。

 

実際に患者様への診療に直接携わっているのですか?

診療はしませんが、実際患者さんの撮影をするので、コミュニケーションを取りながら、どのような人たちなのか、ということも私なりにわかってきました。私の研究はまだ基礎の段階で、結果と治療に直結していませんが、将来的には研究結果を治療に結び付けていきたいと思っています。

 

日本人として、英語面でご苦労されたことはありますか?

初めて海外の国際学会に参加したのは博士課程の1年生、25歳位の頃です。その時、かなり苦労した記憶があります。我々は英語の論文を日常的に読むので、読み書きはある程度できていましたが、実際に国際学会に行くと、読み書きだけではなく、聞き取りや、話す事も必要になり、初めは何を話しているのか聞き取れないという経験もしました。

博士課程を取得した後、アメリカに留学することになりました。しかし、直前になるまで留学できるかどうかわからない状況だった為、語学面やその他の準備をする時間が全くないまま渡米しました。1年目はコミュニケーションに関してかなり苦労しました。書く能力に関しては、留学する前から何本か論文を書いていたので、書けるのかなと思っていましたが、実際アメリカに行ってみると、やっぱり自分の英語はいかに偏っているのか、と感じました。当然ながら、同じフォーマルな文を書く時でも、Emailの書き方と論文の英語とは全く違うテクニックが必要です。Emailの書き方など、日本では誰も教えてくれません。

大学院では、研究室の先生が国際グラントを取り、米国の研究所と共同研究をしていました。卒業の時点では研究費がまだ1年分残っていた為、その1年という事で行きました。実際、現地での研究が始まると1年では物足りなく、英語も満足できるレベルに達していなかったため、就職活動を行い計6年間、米国に滞在し、研究を行うことにより、語学力も習得することができました。また、6年もアメリカにいると、今までの自分の英語がいかにおかしかったかという事に気付かされることが多かったです。

 

国際グラントの情報はどのようにして得ているのですか?

当時、国際グラントを取ったのは私の指導教官です。それほど数はないのですが、日本ではヒューマンフロンティアサイエンスプログラム (HFSP) というのがあります。これは日本発の国際グラントになるので、日本人の プリンシパル・インベスティゲーター (PI) が応募すると、比較的通りやすい国際グラントと聞いていますが、私は応募したことがないのでよくわかりません。

 

Editageをお使いいただいたご感想をお願いします。

非常に丁寧に色々なところを直していただいているサービスであると思います。特に文意として文法上問題がない場合でも、より、説得力のある文章にするにはどうしたらよいかという事もアドバイスしてくれる高級なサービスであると思います。たとえば、論文となると杓子定規に改まって、「It seems that S + V」という文章を日本人はかいてしまいがちですが、「この文脈では『S seems to V』のほうが良いのではないか?」というように直してくれます。そのようなところも直してくれるところが、このサービスのいいところですよね。

 

6年もアメリカでご研究されていると、かなり英語論文を書く技術は身についたのではないでしょうか?

逆に留学を通して、自分が成人まで日本人の純粋モノリンガルとして育った環境や、自分の語学の才能を考えて、絶対に完全な英語をマスターすることはできないと感じました。言語は大変深いものです。同じように書いていたつもりでその道の人に見てもらわないと、説得力のある文章にならないと思っています。重要な文書を用意する時は、引き締めるという意味で、いまでも英文校閲サービスを使うようにしています。

 

英語力を伸ばすために日頃気を付けていることは?

日本にいるとなかなか外国人とコミュニケーションをとる機会がないですので、少なくとも英語を読むように心がけています。専門の論文だけではなく、小説など、一般の読み物等、いろいろなタイプの文章を読んだ方がいいと思います。そうするとだんだんと文体も滑らかになります。

 

大学院生の皆さんは、どの様にして英語論文の書き方を学ばれているのですか?

昭和大学では、大学院生といってもMDを取得されたお医者さんです。医学部の大学院生は臨床の仕事があるため、他の学部のPh.D.と比べて一般的に英語論文の書き方を学ぶ時期が遅いです。一般的には大学で6年間過ごし、研修医をしてお医者さんになってから、研究をし始めます。他の分野の学生は20代前半で英語論文を書き始めますが、医学部の場合は20代後半か、それ以後になってからスタートすることが多いです。私の周りでは、自分の脳の可塑性に関して、皆さん、脳科学者なので気にされている方が多いです。

アメリカの移民を対象とした言語習得の研究で、年齢ごとに渡米した時期を調査し、英語のテストを行い、ネイティブレベルの英語を獲得するための年齢的な臨界期を探る研究があります。言語の音の知覚などに関しては、臨界期はとても早い時期にあることが分かっていますが、文法能力に関しては、10代で渡米した後はそれほどシャープな臨界期とよべる境界はないようです。ですので20歳でも30歳でも語学の習得に関しては、脳の成熟のような生物学的な要因よりも、レベルの違いはその人のモチベーションなどによる要因が大きいという事がわかっています。外国語として英語論文を書き始める年齢が多少遅くても、習得に関してはあまり関係がないという事です。

 

橋本先生の場合は、どのようにしてモチベーションを保たれているのですか?

年に1回は海外の学会に参加して、他の研究者たちとうまくコミュニケーションが取れるようにする、と思う事で、普段の生活でもモチベーション維持になります。今は、スカイプやメールがあり、日常的にコミュニケーションをとる機会が多くなってきています。しかし、実際に学会で多くの研究者と直接コミュニケーションを取ることにより、よりモチベーションを高く保つように心がけています。

 

今後の目標を教えてください。

私の研究は言語学、心理学という人文系の部分と、工学的な解析技術、医学的な要素である脳科学の分野が重なる合うかなり複合的な分野です。いわゆる昔の研究スタイルの様に自分の専門性をできるだけ狭めるのではなく、私はなるべく分野を広く持つことにより、オリジナリティーのある研究者を目指しています。特に脳機能イメージング、脳画像、医学、心理、言語科学のエリアを複合して研究しています。この分野の研究者は多いのですが、その中でもどこの要素を強く持つかという事で研究者の個性が変わってきますね。

 

最後に大学院生や若手研究者の方へのメッセージをお願いします。

普通の研究者を目指すという意味では、研究は昔と違っていて、複合領域の分野が増えています。常に知的なアンテナを張るようにして、1つの分野だけではなく、3つ4つくらいは自分の守備範囲ですと言えるような努力をして欲しいと思います。そして、できるだけ海外に1度は行って数年は修行をした方がいいと思います。

 

橋本龍一郎先生のプロフィール:現在、2013年から首都大学東京人文科学研究科言語科学教室/准教授。また、昭和大学医学部精神医学講座兼任講師、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)・脳情報通信総合研究所の客員研究員を兼任。東京大学大学院総合文化研究科/広域科学専攻/博士課程修了。米国ではメリーランド大学言語学科研究助手、ハーバード大学医学部精神科ポストドクトラルフェロー、カリフォルニア大学ディビス校 センター・フォー・マインド・アンド・ブレイン研究所 ポストドクトラルフェローとしての研究実績を持つ。好きな言葉は「中庸をもって旨とすべし」。

 

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