「人の感性に訴える品質の研究で製品をより魅力あるものに」棟近雅彦先生(早稲田大学)

「人の感性に訴える品質の研究で製品をより魅力あるものに」棟近雅彦先生(早稲田大学)

先生のご専門は品質マネジメントということですが、具体的にはどのような研究をされているのでしょうか?

研究室の入口に掲げられた木製の看板。教え子の学生さんが揮毫されたそうです。品質が良いというのはお客さんの要求を満たすということですよね。ただ、お客さんの要求といってもたくさんあって、不良品を出さないということももちろん、品質マネジメントの重要な要素ではありますが、それだけでお客さんの満足を得るというのは難しい。より魅力的な製品であるためには、それ以上の要求を満たさなければなりません。その際、お客さんの様々な要求のうち、簡単に数値化できるものとそうでないものがあります。たとえば車の場合、燃費についてはリッター何キロというかたちで品質が数値化できますが、乗り心地がいい車という要求を数値化するのはなかなか難しいですよね。

 

また、かっこいい携帯電話がほしいと言われても、何がかっこいいのかを測る基準がありません。こうした、人間のイメージやフィーリングで評価されてしまう品質、計測器で測れない、人間の感性で測られる品質のことを「感性品質」と呼んでいて、私はこの「感性品質」の研究をしています。乗り心地がいい車、かっこいい携帯電話、そうしたものを作ろうと思っても、設計者はまず、寸法や材質、色を決めなければなりません。かっこいいというのと寸法を何センチにする、あるいは乗り心地を良くするということとスプリングの固さをどうするというのは、簡単には関係がわからない。かっこいいとか乗り心地がいいという人間のフィーリングや感性をどうやって製品に結び付けていくか、その方法について研究をしています。

 

イメージやフィーリングというのは非常に主観的なものだと思うのですが、研究される際、そうした主観的な要素をどう評価されているのでしょうか?

人間がイメージで評価しているものですから、人間の頭の中を探るしかありません。脳波で測れればいいのですが、それもなかなか難しい。ですので、私たちの研究グループはオーソドックスに利用者に聞いています。いわゆるアンケート調査を実施して、品質について訊くわけです。その評価結果と、製品の物理特性や工学的特性がどのような関係にあるのかを統計学的に分析しています。もちろん、主観的に評価されているものですから、燃費とか馬力などの数値で測れる特性より、ものすごくばらつきが大きいし、個人差も出てきます。そうしたばらつきや個人差はグルーピングをするなり、セグメント化するなりしてさらに分析しています。このような分析を通じて、どういう商品を作っていけばいいのかを研究しています。

 

製品の品質を研究されるということで、企業と共同研究をするということもあるのですか?

そうですね。こちらは商品作りとか設計とか、いわゆる固有技術を持っていませんので、その部分は企業の方と協力しながらやっています。結果について分析して、「この点は効果があったので、このようにした方がいいですよ」というアドバイスはしていますが、具体的なものを作るというところは、企業の方にお願いしています。

 

ビール缶のフタを飲みやすく、注ぎやすくするために、飲み口を大きくしたという事例が研究室のウェブサイトに載っていました。

はい、あれはアサヒビールさんと共同で研究開発しました。

 

他にはどういった事例がありますか?

最近多いのはパッケージや包装ですね。「高級感」や「かわいい」、「本格的」というイメージを与える包装とはどのようなものであるかを把握する研究です。昔よくやったのは、スポーツ用品ですね。ゴルフクラブとか、テニスラケットの打球感、打ち心地ですね、そうした研究をしました。今、進行中なのは、プリンターなどのOA機器のボタンの押し心地、それと、最近はやりのスマートフォンのタッチパネルの操作性です。スムーズにいくものもあれば、そうでないのもあります。そういう操作感について、研究しています。

 

社会が発展し、機能性や安全性といった面で各企業の製品に差がなくなってくると、そうした個人の感性にあった製品がヒットするのでしょうか?

そうですね。スマートフォンなんかも、基本的な通信機能には差がないのかも知れませんが、たとえばアイフォーンが売れているのは、フリックした時にスムーズにいくとか、ピンチインやピンチアウトの感じが良くて、うまく操作できるからなのかも知れません。

 

先生は大学で化学を勉強されたと伺っているのですが?

確かに学科は応用化学の一つである反応化学だったのですが、そこにたまたま卒論で配属になった時に、日本の品質管理の創始者と言われている石川馨先生が講座を持っていらしたのですね。私が卒論に入った時は石川先生の弟子の先生に代わられたのですが、たまたまその研究室が品質管理をやっていて、私は4年生のときから、専門は品質管理ということで、化学とは離れてしまいました。一応、学部の3年までは実験ばっかりやっていたのですが、すっかり忘れてしまいました(笑)。その研究室に行くのは実験が嫌いな人でしたね(笑)。「実験ない!」「計算機やってればいい!」と思って、そこに惹かれました。その頃は日本初のパソコンができた、できないという時代で、なんとなくコンピューターに憧れて、それでその研究室に入りました。

 

先生は品質マネジメントの国際規格であるISO9000シリーズの規格策定にも関わられているということですが。

「桃李満天下」果実が園いっぱいに実るように、研究室を巣立った学生が社会にあまねく活躍する、そうした思いを込めて、中国からの留学生が先生に寄贈された書だそうです。TC176という専門委員会の日本代表を務めています。

 

日本企業の品質管理は世界的にみて高いと私は勝手に思っているのですが・・・。

私が研究を始めたのが1982~83年頃で、その頃、すでに日本は品質が世界一だったのです。日本で発展してきたいわゆるトータルクオリティコントロール(TQC)、トータルクオリティマネジメント(TQM)が全盛期で、外国のホテルにはどこに行っても日本のテレビがあるという時代でしたね。アメリカには車を輸出し過ぎるものだから、叩かれてもいましたよね。その頃から日本の製品品質は良かったのですが、バブルが崩壊してから、日本企業は経営が厳しくなって、コストダウンに走ったと思います。いかにお金をかけずにものを作るかという考え方ですね。その結果、日本企業の製品品質は一時、落ちてしまいました。他の国も良くなってきて、たとえばテレビやスマートフォンなんかは今、完璧に韓国にやられていますよね。すべてにおいて日本が世界一というわけにはいかないですね。ただ、もちろん、日本のレベルは高いです。

 

ISOの規格策定などで海外の方とコミュニケーションを取られる際に、留意されていることはありますか?

ISOの規格作りはボランティアで行っています。そこでドラフトを仕上げるとか、コメントをつけるとか、ユーザー調査のアンケート分析など、規格作りのための仕事が発生します。ボランティアなので、正直、忙しくなると、「やりたくないなぁ」と思うこともありますが、それでも責任を持って役目を果たすことが大切だと思います。人によっては、あるいは国によっては、おざなりのところもあるようですが、それではだめですよね。他の世界でもそうだと思いますが、いい加減な仕事をしてしまうと信頼を失ってしまいます。逆に、きちんと役目を果たして相手の信頼を得られていれば、多少、言葉に問題があってもなんとかなりますね。

 

研究室のウェブサイトに掲載されている先生の数々の名言を読みまして、学生の指導にも熱いハートであたられていると、これまた勝手に思いました。

あの名言集は私の名言が面白いのではなくて、私の言ったことに対する学生のコメントが面白いんですよ(笑)。最近の私としては、忙しくて時間がなくて、何に重点を置くか聞かれたら、自分がたいそうなアウトプットを出すというより、まずは人材を育成したいと思っています。一生懸命な学生に対しては、こっちも一生懸命に応えたいです。教員としては、あんまり叱らないですね。叱ると疲れるし(笑)。周りの人はもっと叱った方がいいと思っているかもしれませんが、できれば自分で気づいてほしいですね。

 

国際的な舞台で発表する際に、英語を書く時に苦労されていることはありますか?

エディテージさんに英語を見てもらっていますが、まぁ自分が書いているのも、そこそこ通じるかなとは思うんですよ。現実に国際会議でもなんとか通じているわけですから。ところが論文を書いて、校正してもらって、原稿が戻ってきた時に、良い言い回しとかで直されていると、書いてある意味は同じなのに、やっぱり「かっこいいなぁ」と思うんです。私は海外在住の経験もないので、ネイティブのように書くことはできません。良い言い回しをたくさん覚えたいとは思うんですけど、なかなかできないんで・・・(笑)。そういう意味で、エディテージさんに校正をしてもらって助かっています。

 

品質管理をご専門にされている先生から見て、エディテージの品質はいかがでしょうか?

非常に丁寧に見ていただいて、いいんじゃないかなと思います。だからこそ、何度も使っているわけでして。時々送られてくる英語論文執筆の際のTipsもちゃんと見ていますし、大変、勉強になります。

 

最後に研究活動における今後の抱負をお聞かせください。

先ほど新商品開発の話をしましたが、新しいものをどんどん創造していくという「攻めの品質」も重要ですが、たとえば不良品を出さないといった「守りの品質」にも力を入れていきたいです。また、今は医療の方も研究をしていまして、病院におけるマネジメントシステムを作っていきたいです。医療は人命にかかわるものですから、医療事故を起こさないための病院におけるマネジメントシステムを構築して、それを世の中に広めていきたいというのが当面の目標です。あとは人材育成ですね。博士を育てる。量産したいと思っております。

 

棟近 雅彦先生プロフィール:東京都出身。東京大学工学部反応化学科卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。現在、早稲田大学理工学術院 創造理工学研究科 経営デザイン専攻 教授を務める。趣味は球技全般。

 

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