インタビュー記事:出版倫理セミナー講師のリズ・ウェージャー先生

インタビュー記事:出版倫理セミナー講師のリズ・ウェージャー先生

研究者の倫理をめぐる昨今の日本学術界の意識の高まりを受け、今回英文校正エディテージでは、イギリスよりエリザベス・ウェージャー氏を緊急招聘し、出版倫理に関するセミナーを開催することを決定しました。
ウェージャー氏は、出版倫理の啓発を目的としたジャーナル編集者や学会、出版社からなる非営利団体COPE(出版倫理委員会)の議長を務めるなど、この問題について世界的に知られる専門家です。
2014年7月25日(金)、26日(土)のセミナーを目前に控えるリズ先生に出版倫理についてお話を聞きました。

 

最近、日本の学術界では、出版倫理への関心が高まってきています。これは世界的なトレンドなのでしょうか?

そうですね。研究や出版における倫理については、世界的に関心が高まっており、メディアで取り上げられることも多くなってきています。カナダやオーストラリア、ベルギーといった国では、研究倫理を促進する機関を立ち上げたり、そうした機関の権限を強化したりしています。ジャーナル編集者や出版社も、投稿倫理について、ますます留意するようになっており、COPE(出版倫理委員会)のような団体への加入者も増え続けています。出版倫理に対する関心が高まっていることは、たとえば、撤回された論文が増えていることにも表れています。しかしながら、このことは、不正行為の数が増えているということを必ずしも意味するわけではありません。むしろ、ジャーナル側の不正行為の探知能力が上がっているということかも知れません。

 

「出版か、死か」という言葉に表される熾烈な競争が、研究者をして非倫理的行為に走らせるという議論があります。生産的で、かつ倫理的な研究者であるということは、両立可能なことなのでしょうか?

 

もちろんです! 研究者には大きなプレッシャーがかかっており、また、成功するためには継続的な努力が必要とされますが(これはどの分野でもいえることですが)、生産的でかつ倫理的な研究者であることは可能です。確かに「出版か、死か」の文化が不正行為を生み出し、また、事実、そうした非倫理的行為を誘発しているのかもしれませんが、データの剽窃や改ざんといった非倫理的行為は何世紀にも渡って行われてきているのであって、決して真新しい現象ではないということも事実です。

 

知らず知らずに不正行為を犯しているということもあるのでしょうか? また、もしそうなら、研究者はどうやってこうしたことを回避できるのでしょうか?

 

不注意による誤りと不正行為の間に「グレーゾーン」があることは、その通りでしょう。たとえば、誤った統計手法を用いたために、信頼できない結果が導き出されるといったことはあり得ることです。しかしながら、重大な不正行為を知らず知らずに犯すといったことはあり得ません。紙面を賑わすような著名な事例の中には、画像処理が問題となったものもありましたが、ほとんどのジャーナルは、どのような調整が認められるのかの明確なガイドラインを示しています。

最終的に論文が撤回されるような事例では、違う実験からの画像の使い回しや、不正確なラベルの表示、あるいは偶然には起きえない画像の一部複写など、粗野な画像処理が原因となっています。不正行為をどう定義するかは確かに難しいことですが、ジャーナルや出版社などは、不正行為にも軽微なものから重大なものまで様々なものがあることを認識しており、ケースバイケースで対応しています。たとえば、まだキャリアの浅い研究者がある文献を引用せず、センテンスを2つほどパラフレーズしなかったとしましょう。これは確かに問題ですが、他の論文を章ごと剽窃したり、あるいは別の研究者の論文をそっくりそのまま拝借して自分の名前で別のジャーナルに投稿するような研究者に比べれば、その重大性は遥かに軽微と言えるでしょう。

 

誰を著者にするかというオーサーシップの問題やどれくらいの分量を「コピー」したら剽窃とされるのかといったことに悩む研究者もいるかもしれません。時として、明確なルールやガイドラインが存在しない倫理上の問題もあるのではないでしょうか。
今回のセミナーでは、こうした疑問にも答えて頂けますか?

 

おっしゃるように、剽窃を厳密に定義することは難しい問題です。しかしながら、こうした疑問に答える多くのガイドラインが存在しますし、そうした情報は研究者にとって大変、役に立つものでしょう。
今回のセミナーでは、こうしたガイドラインについても説明します。同様に、オーサーシップに関しても明確なガイドラインが存在します。たとえば2013年に改訂されたICMJE (International Committee of Medical Journal Editors)のガイドラインですね。今回のセミナーではこうしたことについても詳細に触れる予定です。

 

 

講師のプロフィール:リズ・ウェージャー(Liz Wager)

今回、講師を務めるリズ・ウェージャー氏は、フリーランスのメディカル・ライター兼学術誌の編集者です。これまでに多くのグローバル企業や機関において要職を務め、現在も出版分野で世界的に活躍しています。

ウェージャー氏はオックスフォード大学で動物学の博士号を取得した後、ブラックウェル・サイエンティフィック・パブリッシング社(Blackwell Scientific Publishing)にて医学書の編集に携わり、その後、ヤンセン・シラグ社(Jassen-Cilag)やグラクソ・ウェルカム社(Glaxo-Welcome)などの製薬会社でメディカル・ライターとして活躍しました。

2001年、自身の会社サイドビュー社(Sideview)を立ち上げ独立。現在は世界中の研究者、医師、ジャーナル編集者等を対象に、科学コミュニケーションや出版倫理について教育プログラムを提供しています。また、科学編集者評議会(Council of Science Editors)など、多くの国際会議で講演を行っています。
出版倫理の専門家として現在、BMJ(British Medical Journal)及び世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors/WAME)の倫理委員を務めています。また、出版倫理の啓発を目的としたジャーナル編集者や学会、出版社からなる非営利団体である出版倫理委員会(Committee on Publication Ethics/COPE)の議長を2009年から三年間務めました。

また、出版倫理や論文執筆に関する著書を数冊上梓しています。
『Getting Research Published: an A to Z of publication strategy』
『Good Publication Practice for Pharmaceutical Companies』
『The European Medical Writers Association guidelines on the role of medical writers』
『The Blackwell Best Practice guideline on Publication Ethics』

 

 

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