「現在の日本の臨床研究や医療体制に危機感」芝崎太先生(東京都医学総合研究所)

「現在の日本の臨床研究や医療体制に危機感」芝崎太先生(東京都医学総合研究所)

ご経歴を教えてください。

私が日本で研究を始めた時の最初の研究テーマは細胞内の情報伝達についてです。簡潔に説明すると、分子を介しながら、ある一点の細胞の膜の表面の刺激が核まで伝わるという、シグナル伝達の研究をしていました。また当時は、遺伝子の配列を解析する非常に大きな仕事もしていましたが、イギリスの方で先に成果が上げられてしまいました。それが、かなりのショックで、研究分野を大きく変えて、アメリカへ留学しました。

大学卒業当初は臨床医になるつもりだったので、研修医として国立国際医療研究センターに5年間勤務しました。その後は、がん研究センターでさらに研修する予定でしたが、東京都老人医学総合研究所(現、(地独)東京都健康長寿医療センター)に3ヶ月ほどお世話になりました。その際、研究の楽しさを知ることができました。学生の頃は基礎研究者を嫌っていたにもかかわらず(笑)、研究が面白いことに気付いてしまったのです。その背景には5年間勤務医として従事している間、呼吸器の担当でしたので、肺がんや喘息の患者様を診療していました。しかし、当時せいぜい治るのは肺炎と風邪くらいで、あとは症状が良くなるだけで、根本的に治すことができなかったのです。

このような状況で5年間診療を続けていると、「病気って本当に治らないんだな」という印象がとても強くなりました。今はかなりの病気が解明されつつありますが、当時はそういう印象を受け、根本的に治療をするには、基礎研究が大事であると感じ、だんだんと興味を持ちました。  そしてアメリカへの留学を決意しました。アメリカではハーバード大学で分野の違う分子生物学を専攻し、ゼロからのスタートでした。アメリカの研究施設は、研究設備や研究所内での役割分担などの環境が整っており、モチベーションの高い集団の研究者たちが、とても効率的に研究に没頭していました。

 

アメリカで苦労されたことは? 

アメリカに行くまでは英語ができると思っていたのですが、現地ではとても苦労しましたね。最初に困ったのが、アメリカに行く途中のサンフランシスコ空港内にあるマクドナルドで注文ができかったということです。言い訳になりますが、家族ととももに移動していたので、注文内容が複雑だったこともあります。いずれにしろ話してみても通じなく、リスニングも十分にできませんでした。アメリカに到着後一番困った場面は、銀行で口座を開設する時でした。Saving AccountとChecking Accountの違いが銀行員の方の説明で十分に理解できないまま「yes please!」と言ったら、お金が全部Saving Accountに入ってしまって、お金を引き出せなくなってしまいました(笑)。まともにリスニングができるようになるまでに1年、話したことが相手に通じるまでに2年かかりましたね。研究は読み書きができるので、あまり困ることはありませんでした。このような状態でしたから、生活面や研究報告、試薬の注文も含めあらゆる面でアメリカでのはじめの2年間の生活は苦労しましたね。トータルで4年半滞在しましたが、最初の2年苦労した分、3年目以降は比較的英語が通じるようになると非常に過ごし易かったですね。

 

英語でのコミュニケーションのスキルアップはどのようにされましたか?

ただひたすら話して、会話を聞き、良い単語やフレーズはまねしていくことでしょうか?渡米前に英会話教室に通ったのですが、全く役に立ちませんでした(笑)。実践が一番です。ある程度会話が理解できるようになると、応用が自然とできるようになるのです。そうなると加速度的に上達すると思います。しかし、ある一定までくると伸びが止まるというのは、自分が比較的満足してしまうので、そこから先はハードルが高くなってしまいます。特にプレゼンテーションの英語はかなり大変です。アメリカに滞在していた当時は、ちょうど息子が幼稚園に入った頃でした。幼稚園では全く日本人がいない環境で、息子も勿論全く英語がわからなかったのですが、半年もたたないうちに「パパの発音がおかしいんだけど」と言われました(笑)。子供のように相手の言ったことをおうむ返しに話しながら、どんどん覚えていく、結局それが一番の英語上達の秘訣なのですね。そうすると発音もそのまま自然に覚える事ができます。これを小さい頃にトレーニングするとかなりのスピードで身につくものなんですね。

 

プレゼンの英語に関してはどのように学ばれましたか?

最初に英語で原稿を書いて、しっかり覚えていくのですが、壇上に立つと、頭が真っ白ですよ(笑)。いくら覚えても時々忘れることがありますよ。しゃべることの要点をスライドに書いておく、それで乗り切っています。でもそうすると、質問に答えられないんですよね。特に10分でまとめて話すとなると大変です。やっぱりきっちり原稿を書いて、頭に入れておかないとダメですね。だからアドリブがきくくらいじゃないと、プレゼンは難しいと思います。

 

プレゼンのスキルをアップするために若手研究者にどの様に指導されていますか?

私の現在のラボでは、もちろん英語のプレゼンというのは少ないですが、学生に対しての指導はかなり厳しくやっています。プレゼンのスライドの配色から文字の配置、大きさまで全部指導しています。「原色は使わないで、中間色を使いなさい」とか、「動画を使いすぎない」とか。学生は特にリハーサルできっちり指導しています。やっぱりプレゼンで一度失敗すると、あとあと尾を引きますね。あまり大きな失敗をしないようにしてやらないと。

 

話は変りますが、エディテージのサービスについてはいかがでしょうか?

非常にまじめにやっていただいているので、返ってくる内容も比較的満足がいくものが多いです。あとは、統計的なレビュー、修正をしていただけるぐらいのレベルがあると、みなさん有難いのではないかと思います。そんなに高度なレベルでなくてもかまいませんのでチェックしていただきたいです。統計的な処理は慣れないと、非常に難しいですよね。問題は、手で計算するわけじゃないので、どの方式を使ったらいいのかというところだけです。「ここではこの方式を使ってください。」等のコメントがあると非常にありがたいです。

 

日本の臨床研究についてはどうお考えでしょうか?

臨床研究のレベルがかなり落ちているっていうのは、今、みなさんが言われていることです。欧米以外の地域と比べても負けているかもしれません。小さな論文でもどんどん書くような体制が必要かもしれません。臨床医として一人前になることが優先されすぎて、論文は後回しになってしまいます。でも私は臨床研究であれ、基礎研究であれ研究志向がない医者というのは、将来がないと思います。できるだけ患者さんを良くしようと思って研究するわけですから、そういうマインドのない方はその時点で止まっているのではないかと思います。臨床医が基礎研究をするというのは非常に大きな負担ですが、臨床研究はできるはずですよね。今、そのレベルが落ちていて、日本以外のアジア諸国にも負けているというのが現状です。

 

臨床試験ができないと生じるネガティブな面は?

新しい発見や技術・方法が生まれないという事と、収益があがらないという事です。新しい発見が生まれれば製薬会社からお金が入り、大学や病院が潤います。潤うと設備投資ができ、患者さんに還元できる。新薬に関わるので、色々なレベルの高い医療技術が必要になるわけですよ。このような事ができるということは、そもそも良い環境があるということですよね。できないっていうのはその逆です。

医学系の大学というのはそもそも、医療+教育ですから、教育をおろそかにしていると大学の体をなしていないですよね。我々がちょうど大学を卒業して勤務した頃は、レジデント制が始まった時期でした。みなさん、モチベーションが高い研修医やレジデントが多かったです。今、病院のランクもだいたい決まっていて、東京のトップ3の研修病院に入るのは大変です。ランクの高い研修病院に入れると、レベルの高い病院に勤務でき、大学に帰ってもそれなりに評価を受けます。 

 

医療業界や病院が直面している問題とは?

地方大学は多くの関連した病院を抱えています。たとえば岡山大学ですと、中国・四国全域に関連病院があります。そうすると、医局が面倒をみることになります。医局の医者が足りないという問題はありますが、関連病院の面倒を教授が見るので、昔は絶大な権力を持っていました。

研修制度が入ってくると、人が大学に残らなくなり、関連病院に医者を送ることができないのです。そうすると関連が低くなって、離れていく。もう一つは、若いモチベーションのある医師が地方での勤務を好まないので、当然レベルが下がってしまいます。大学病院にすら残らない人が多いので、大学の病院のレベルも下がっていく。現状では地方に若い人がいなくなるから、地方病院に人材を送れない。そうすると地方は疲弊し、大学はコントロールが取れなくなってしまうので教授の権威も落ちてしまいます。当然、医者は都会に集中します。田舎にいくと、ますますおじいちゃんおばあちゃんばかりで、医者がいないという現実だけが残ります。私も田舎出身で、高知の足摺岬のあたりで生まれました。小さな町で過疎化が進んでおり、今は高齢者ばかり。それより深刻なのは人影が見えないほど人口が減っていると言うことです。

最後に、もう一つの大きな問題は、男女ともに、辛い、忙しい科は避ける傾向にあります。婦人科、小児科、外科は選ばずに、やはり耳鼻科、眼科を選ぶんですよ。科によってそれほどお給料は変らないので、それだったら比較的忙しくない科に医者が集中するのが自然です。

 

若手の研究者に対して、アドバイスはありますか?

研究者というのは、ばくち、ギャンブルのようなものです。アメリカ滞在中に言われましたが、頭がいいだけでも、頑張っただけでもだめ。運を引き入れる力がないとダメだという事です。ノーベル賞を受賞した山中伸弥先生のように、偉業を成し遂げるためには、人ができないような研究をしなければならないのだと思います。夢を追っかけていると頑張れますよね。有名な方が言われていることは真実だと思います。競争は今でも激しいですが、昔はもっと激烈でした。徒弟制度が強く、上からきっちり怒られながら研究をしていたものでした。最近は怒れないんです。下手に怒るとパワハラで訴えられたりしますから、キツイことが言えないので、なかなか言いたいことが言えないっていうのはあります。

 

夢を持つことが大切だとおっしゃっいましたが、一方で「どうやって夢を持てばいいのか」と反論する若い研究者の方もいらっしゃると思います。 

彼らを見ていると、夢がないわけではないんです。小さな夢、大きな夢といろいろありますが、「ノーベル賞を受賞したい」とか、「どこかの島を買いたい」、「金持ちになりたい」などではなく、「いい家庭が持てればいい」とか、「暮らしていける給料があればいい」とか、最近はだんだんと夢が小さくなってきている気がします。

「百八つの煩悩」というのがありますよね。その煩悩でも一番プリミティブな煩悩を持っている人の方が、モチベーションが高いのです。「家庭を持って幸せになりたい」っていうのは、百八つの内でもかなり下のほうだという気がします。「地位を得たい」、「学長になりたい」とか、何か、大きな夢であると力が湧いてきて頑張れると思います。ですから最近の若い人は夢が小さい気がします。 私はベンチャーにも関わっているので、ある程度、ビジネスの世界も表面的な感触としてわかるのですが、厳しさはどこも同じだと思います。会社の場合は業績をあげなければいけないし、研究者の場合は論文を書かなくてはいけない。それをいかに短時間で効率良くやるか。ただ一つ違うのは、研究の場合は非常に長い時間がかかるということです。それにタイミングも大事ですね。幸運の女神が来たときは微笑みを返すタイミングが必要です。それがないと、結局うまくいかず悪循環に陥ります。そうするとモチベーションが下がる。以前はとてつもなく大きなテーマを考えてどかんとやってやろうって思ったのですが、たいがいの人はそれで挫折するので一歩一歩が大切ですね。小さな研究から上へあげていくことが大切ですね。

 

先生の夢は何でしょうか?

研究者っていうのは、やっぱりノーベル賞が夢ですね(笑)。遅すぎるかもしれませんがまだ一つの目標ですね。私の場合は医学部出身なので、診断法や治療薬の開発で最終的には患者さんを治す事も大きな夢です。

 

芝崎太先生のプロフィール:現在、(公財)東京都医学総合研究所 ゲノム医科学分野・分野長分子医療プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める。岡山大学医学部卒業後、国立国際医療研究センターの研修医を経験。その後、内科専門医、医学博士を経て、ハーバード大学医学部細胞生物学部門にポスドクとして留学し、同大学にて講師を経験。現職のほか、東京理科大学大学院・理工学研究科の客員教授や、Conference for BioSignal and Medicine(CBSM)の事務局長、東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合の理事も兼任。平成23年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)、東京都スピリッツ賞を受賞。設立ベンチャーが平成21年「東京都ベンチャー大賞」を受賞。
 

 

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