アジア初のオープンアクセスジャーナルScience Postprint創設者 竹澤慎一郎氏にインタビュー③
アジア初のオープンアクセスジャーナルScience Postprint (サイエンスポストプリント / SPP)をご存知でしょうか? こちらのSPPは日本だけはなくアジア全域から医学・ライフサイエンス分野の投稿を募集する総合科学のオープンアクセスジャーナルです。中国や日本の有志が集まり、2013年10月に設立されました。今注目が集まるSPPの創設者であり、GH株式会社代表を務める竹澤慎一郎氏にお話を聞きました。インタビューは3回にわかれています。
SPPの今後の抱負とは?
いかに研究者にオープンアクセスに目を向けてもらって、投稿してもらうかがカギとなってきますが、一方で、アカデミック業界では熾烈な競争が繰り広げられています。研究者は論文をたくさん書き、そして来年の予算を取る必要がありますが、現状のシステムでは、研究費の獲得の評価軸はインパクトファクターの高いジャーナルに論文を出版したかどうかにかかっています。そんな背景もあり、従来の方法からあえて新しい形態のオープンアクセスで論文出版に挑む研究者を増やしていくというのはかなりの時間とエネルギーが必要になってくるのではないでしょうか。
「必ずしもインパクトファクターが全てではないと思っています。今考えているのは、ハイインパクトジャーナル、ミドルクラスのインパクトファクタージャーナル、無名のジャーナルの論文改ざん率を出そうと思っています」と、「高インパクトファクターほど改ざん率が高いのではないか」という仮説のもとデータ分析を試みているという竹澤さん。こんなことができるのも、学術業界とのしがらみがない民間企業ならではのメリットがあるからと言えるでしょう。
「やはり、サイエンスとは積み上げ、巨人の肩に乗っているようなものだという表現もあるのですけど、積み上げの前提がおかしいとその上に乗っているものもあやふやなサイエンスになってしまいます。なので、どの論文が怪しいのか、しっかりと知った上で次の研究をしましょうということを提案したいです。やはりSPPって、学術論文なので、やっぱりきれいな論文を集めたいんですよ。改ざんとかのない論文を。そのために我々で徹底的に調べてねつ造を許さない会社だよというブランドメージを作っていきたい。これを知ってもらった上で、ピュアな論文を投稿してもらいたいと思います」と、研究不正を防ぐシステムも整えています。
現在、SPPにおける論文投稿数は約100を超え、出版された数が27(2014年8月現在)。査読後のアクセプト率が60%と他のオープンアクセス誌と同等レベル。
日本人の研究者からは現在、約10件投稿されており、5本ほどすでに出版済み。どういう研究者が投稿しているかというと、私たちの理念に共感していただけた方や、速やかに出版を希望する方や論文の出版量を重視する方だそう。「まだSPPが無名な雑誌なので、ここだったらなんでも通るだろうと思って、全然通らない論文を投稿してくる事例もありますね。まだ軽く見られているところはあります。ですから、しっかりと査読をして、ブランド価値を高めていく必要があるかなと」と話します。
「僕らは学術論文でイノベーションを起こせると思っているんですね。それを、いろんな形で新しい価値を創りだすことができると思っています」。また一般の人にもっとサイエンスに触れるきっかけになって欲しいとある仕組みも作りました。「研究者を後押しして欲しいと思っているので、そのために作った仕組みがドネーションです。アクセプトされた論文の著者に対して、寄付できるという仕組みを作りました」と、科学を一般の人たちに広めていく役割も忘れてはいない。
最後に今後の抱負を聞きました。「研究者にとっては、サイエンス政策とかって、二の次、三の次なんですよね。まずは、自分の研究が第一で、基本的に99%それなんですよ。だから、こういう環境づくりというのは、我々のような外部の人間がやる方がふさわしいと思っています。『実行あるのみ』が僕の考え方」と話す竹澤さん。
今後のSPPがどう変わっていくのか、そして、日本やアジアにどのようなインパクトを与えていくのか、今後に大きな期待がかかります。
(おわり)
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