出版社は査読の包摂性をどう確保しているのか:Hindawi社マネージャーに訊く

出版社は査読の包摂性をどう確保しているのか:Hindawi社マネージャーに訊く

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出版社の現状を知り、査読の包摂性をどのように促進できるかを知るために、Hindawi (ヒンダウィ)社のリサーチ・エンゲージメント・マネージャー、Charlie Kelner氏にインタビューを行いました。彼女は、査読者が気持ちよく査読を行えるよう気を配り、査読プロセスに関わるすべての人が恩恵を得られる方法を模索しています。

 

 


出版社から見て、学術出版における包摂性と多様性に関する主な課題は何だと思いますか?

学術出版の多様性を拡大する際にネックとなるのは、私たちが、性別、地域、所属、キャリア状況といった点で、自分と同じような立場や境遇にある人に手を差し伸べがちだということです。たとえば、編集長が自分と同じ地域の編集者にしか接触しなければ、編集委員会を多様化することは難しくなります。

Hindawiでは包摂性に対するこのような閉鎖性を強く意識しており、編集者を採用する際は取締役会ができるだけ多様性を持つよう配慮しています。これにはドミノ効果があり、多様性のある理事会は、より多様な著者とのつながりをもたらし、公開される論文もより包摂性を持つようになります。

この問題に関連してくるのが、「代弁(representation)」です。受け入れられていると感じながらコミュニティでの対話に参加するためには、各自が尊重されていると感じられることが大切です。一例として、当社で最近紹介した記事「Women making science more open科学をよりオープンにする女性たち)」を読んでみてください。誰かがすでに取り組みを始めていると知れば、自分もこのまま進んで行こうと決意しやすくなります。私たちは出版社として、このことを意識していなければなりません。


おっしゃるとおり、多様性と代弁に伴う問題を認識し、問題を軽減するための行動を取ることが重要だと思います。前の質問と関連しますが、編集者たちが多様なバックグラウンドを持つ査読者たちと意識的に関わるようにするために、出版社には何ができますか?査読者を多様化すれば、編集者が査読を依頼するときの課題を軽減できると思いますか?

繰り返しになりますが、学術出版界における問題の1つに、同じような背景を持つ人と活動することを選びやすいということがあります。これは学術出版界だけの問題ではなく、多くの業界で問題になっていることです。しかし、編集者がさまざまな査読者を見つけるためのより良い方法を出版社として示すことができれば、査読者の多様化が進みます。Hindawiでは、これをさらに促すために、新しい査読者データベースの作成に取り組んでいます。

また、出版社が多様な査読者候補に連絡を取り、その人たちと編集者をつないでジャーナルの査読プロセスに参加できるようにすることも重要です。Hindawiでは、若手研究者を幅広くサポートすることに力を入れたいと考えています。そのための1つの方法が、査読を始めようとしている人に、プロセス全体を通じてトレーニングとサポートを提供することです。

多様な査読者がいれば、査読者を見つけるための編集者の苦労も軽減することができます。多様性が高まれば、査読者の数が増えるので、編集者の選択肢も増えます。それは結果的に、査読時間や、出版までの期間の短縮につながるでしょう。

査読プロセスが似たようなアイデアの増幅器にならないよう注意する必要もあります。査読者が多様化することで、投稿論文により鋭い問いと考察がもたらされれば、科学の発展に貢献するでしょう。


論文の発信と利用のしやすさは、学術出版の包摂性を促す上で重要な役割を果たします。論文を利用しやすくする際の主な障害は何だと思いますか?

まずは、オープンかどうかという点ではないでしょうか?Hindawiの良いところは、論文にアクセスしやすくするための重要なステップは、論文をオープンにすることだと認識していることです。私たちは、ゴールドオープンアクセスのジャーナルポートフォリオを誇りに思っています。ペイウォールは、科学者へのアクセスを閉ざしてしまいます。これは包摂性を推進する妨げになり、科学の進歩にも役立ちません。私たちは、低中所得国の著者に無料や割引料金で論文を提供するResearch4Lifeに参加していますが、それにより、論文を入手する資金のない研究者にとって、オープンアクセスが現実的かつ確実な手段になっています。

従来なら無難しかった論文出版がオープンアクセスジャーナルで可能となり、その結果、研究の可視性が高まります。閉鎖的な学術インフラは、研究へのアクセスを妨げるものです。そうした考え方から、私たちはInitiative for Open AbstractsI4OA)の創設に参加しました。科学は、オープンであればこそもっとも効果的に機能するのです。

研究のアクセシビリティに対するもう1つの制約は、外部の人に疎外感を感じさせやすいという点です。専門用語の使用やエコーチェンバー的な思考は、新たな読者層や研究者のアクセスをシャットアウトしてしまう可能性があります。私たちは、一般用語を使いたがらない人との会話で立ち往生してしまうことがありますが、それは非常に不親切な態度です。私たちは、エディテージとのパートナーシップなどを通じて著者サービスを提供し、科学コミュニケーションの包括的指針を作成して、研究者がより広い科学コミュニティに研究を伝えられるよう支援しています。

また、変化を恐れて立ち止まってしまうことも問題です。世界中で情報共有の仕方が変わっていく中で、私たち学術出版社も変わらなければなりません。ここ数年で、私たちはまったく新しい働き方にも、新たな知識共有の仕方にも順応できることが分かりました。 私たちは皆、こうした変化を積極的に目指す必要があります。オンライン会議やウェビナーに対応している出版社は、他の方法では難しかったコミュニティに、研究を届けることができています。

同じ理由から、Hindawiのジャーナル開発チームは、研究者がコンテンツを見つけてアクセスする方法を常時モニターし、それらのチャネルを通じて論文を共有し、著者、編集者、査読者、読者にも同様のアクションを促しています。たった1つのツイートで、これまでにないほど迅速かつ簡単に研究を広めることができるようになっています。情報共有におけるこのような変化を無視することは、アクセシビリティの妨げにしかなりません。


Hindawiは最近、著者が論文公開後に氏名を変更することができる新しいポリシーを導入しました。文書、正誤表、他の著者への通知は不要とのことです。これは包摂性の拡大に向けた大きな一歩です。この勢いを維持するために、他にどのような取り組みを予定していますか?

ありがとうございます。このポリシー変更には自信を持っており、今後も学術研究界の多様性を促す取り組みを進めて行きたいと考えています。学術エコシステムの多様性と包摂性を推し進めるにはまだまだ長い道のりがありそうですが、いつでもどこでも可能な限りその歩みを支援して行きたいと思います。つい最近、編集者の役割を見直しました。契約上の合意事項に共同責任を反映し、編集委員会が多様性、公平性、包摂性を十分に満たせるようにしました。前進し続けるためには、利害関係者の積極的な参加を促すことが不可欠です。そして、これらは最初のステップにすぎません。


Charlieさん、ありがとうございました!

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