遺伝子操作された子ブタが臓器移植に希望をもたらす
死亡患者から提供された臓器によって、心臓、肝臓、腎臓などの臓器に障害を抱えている患者の命が救われています。しかし、健康な臓器を必要とする患者の数は膨大で、移植手術の順番待ちリストは長くなる一方です。適合する臓器の提供を待つ間に亡くなってしまうケースも珍しくありません。これまで、代替となる治療法を開発するためのさまざまな試みが行われてきましたが、遺伝子編集技術のおかげで、ようやく希望の光が見えてきました。
ブタの臓器はヒトの臓器と同じように機能し、大きさも似ています。しかし、ブタの臓器を人体に移植することは、多くの研究者にとって鬼門でした。そんな中、今回Science誌で発表された論文が、臓器提供を待つ患者たちに希望を与えています。バイオテクノロジー企業のeGenesisが率いたこの研究では、 CRISPR(クリスパー)遺伝子編集技術を用いて、子ブタDNAに潜む有害ウイルスを不活性化することに成功。この技術によって、ブタ一般に認められるブタ内在性レトロウイルス(PERV)の切り離しが可能になったのです。このウイルスフリーの遺伝子素材を、代理母となる雌ブタに移植して、世界初のPERVフリーのブタクローンを誕生させました。この子ブタたちが、異なる種の臓器や細胞を移植する「異種移植(xenotransplantation)」の実用化に向けた大きな一歩になることが期待されています。
遺伝子編集技術を用いた、免疫学的に人間により近いブタの開発は、すでに進行中です。ただし、ブタゲノムにはほかにも多数のウイルスが存在しています。人体への移植を実用化するために検討すべきリスクは、まだまだ残っていると言えるでしょう。
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