看護研究における剽窃に打ち勝つには

看護研究における剽窃に打ち勝つには

[本記事はウォルターズ・クルワー(Wolters-Kluwer)社の著者向けニュースレター、Author Resource Reviewに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。

著者:リンダ・S・スミス氏(Linda S. SmithPhDMSRNCLNCData Design, Inc.研究部門バイスプレジデント、オザーク大学看護学非常勤教員、Nursing2018編集委員)]


看護学の博士課程に在籍するルークは、ワクチンの誤解に関する概念解析をまとめて、学位論文に使うことにしました。この概念解析は、看護学の査読付きジャーナルで、論文として出版されました。


博士課程修了後、ルークは、ある研究の論文を看護学ジャーナルに投稿することにしました。この論文を仕上げるにあたって、以前に出版した概念解析の情報を含める必要があることは認識していましたが、自己剽窃を避けるための倫理的および法的なプロセスについてはよく分かりませんでした。彼は、「自分の研究を再利用するのに許可が必要なのだろうか?」と疑問に思います。


この疑問の答えは、「はい」です。本記事では、論文出版や研究にまつわる剽窃や自己剽窃について取り上げ、これが看護分野で問題になっている理由を考えます。


論文剽窃


剽窃とは、他者の知的財産を、出典を示さずに無許可で使用することです1。剽窃は、他者の成果物に対する不誠実かつ非倫理的な表現行為であり、誤解を招く恐れのある行為です。


論文剽窃とは、編集者や読者に、「著者独自の論文である」と誤解させることです。論文剽窃には、文章の剽窃のほか、自己剽窃、「サラミ法」(データの分割)、不適切/不誠実なオーサーシップが含まれます。文書の種類(研究報告、ジャーナル論文、助成金申請書、期末レポート等)にかかわらず、剽窃は、読者と著者の間の信頼関係を損なうものです。他者(または自分の過去の成果物)の言葉やアイデアが使われている場合、読者は、倫理的な著者ならその旨を示すだろうと想定しています2


しかし、残念なことに、研究や論文に関わる剽窃の問題は深刻化しています。Fangらは米研究公正局などの報告書をもとに、PubMedデータベースの調査を行い、1977年以降に撤回された論文2,047件を特定しました。調査の結果、これらの論文の撤回理由の14.2%が二重出版で、9.8%が剽窃であったことが明らかになりました3


看護分野における懸念


看護における意思決定、教育、実践、将来的な研究の指針となるのは、エビデンスベースの慣行です。これを進めていくためには、看護学について発表されるエビデンスが確かなものでなければなりません。剽窃は、看護の未来を弱体化させ、研究予算を縮小させることにつながります。なぜなら、新たな研究プロジェクトは先行研究という土台の上に成り立つものであり、研究予算は研究者の公正性によって決まるものだからです1,2


何より重要なのは、患者は、信頼できるエビデンスに基づいた看護師のケアを必要としているということです。ケアの質は、エビデンスの質にかかっているのです4


論文剽窃の種類


自己剽窃:剽窃とは、他者のアイデアや言葉を不適切な方法で不正に使用することですが、自己の成果物を不適切に使用する行為も剽窃に含まれることを知っている人は少ないかもしれません。自分が過去に発表した情報を、編集者に無断で再利用/再使用した場合、自己剽窃とみなされます5。オープンアクセス出版など、著者が著作権を保持するケースもわずかながら存在しますが、たいていの場合、出版物の所有権や著作権は、出版プロセスの一部として出版社が持つことになります。


自己剽窃とは、同じデータやプロジェクトを複数回参照することで、科学的有効性を歪めるものです6。たとえば、看護学の研究者が、100人の被験者データを使って治療の効果を評価した論文を発表したとします。別の論文でこの情報を再利用すると、その研究結果が不当に誇張される可能性があるのです6


一流誌での論文出版は競争が激しく、出版機会は限られています2。自己剽窃は、読者が得る貴重な情報と、ほかの著者の出版機会を奪うことになるのです。編集スタッフや査読者は、新規性どころかオリジナルですらない論文に、無駄な時間とリソースを費やすことになります2。残念ながら、タイトルや著者名やアブストラクトが異なっていると、剽窃や自己剽窃を覆い隠すことができてしまい、特定の研究結果の再現性を検証した論文に見せかけることができてしまうのです7


また、逆のことも起こります。有害な結果が複数回出版されることで、患者のためになるはずの看護介入が、大きな障害とみなされてしまう可能性があるのです。


サラミ法:研究論文におけるデータの分割は、「サラミ法(salami slicing)」と呼ばれることがあります。料理人がサラミを薄くスライスして量を多く見せるように、研究を小分けにして発表することで出版や報告の件数を増やそうとする研究者がいます。これは、研究結果をより細かいカテゴリーに分割するという手法です。


データの分割は、同じテーマが過度に細分化されたものを読むことになる読者を混乱させます8。一連の研究を1つの論文としてまとめた状態がベストである場合、サラミ法はその結果を歪め、科学コミュニティの混乱を招きます。たとえば、マルチフェーズの研究の結果を、1つの論文ではなくフェーズごとの論文に分けた場合、読者は重要な知見を見落とす可能性があり、一連の研究の包括的な視点を得ることもできません8


ゲスト・オーサリング:これは、論文に必須の貢献をしたわけではないのに、立場上優遇されて著者として名前が掲載されるというものです。多くの出版社・組織・学会では、オーサーシップに関する詳細な規定が設けられているはずです。たとえば、米心理学会の会員は、自分が行なった研究か、著しい貢献を果たした研究にのみ責任を負うよう定めています。すなわち、学部長や所長といった組織の要職にあるからといって、自動的に著者の資格が与えられるわけではありません9


著者名は、貢献度順に記載されるべきでしょう。オーサーシップを得るということは、研究および、その研究に基づく論文に対するレビューと承認に責任を負うということです1,2,7,10


この種の医学研究およびオーサーシップの剽窃には、ゴーストライティングやゴースト・オーサーシップも含まれます。ゴースト・オーサーシップとは、著者として論文に掲載されるべき人の名前が掲載されていないことを言います。これは、著者が金銭を払って自分名義で他人に論文を書いてもらう場合や、無名だからという理由で名前を外されるような場合が考えられます。ゲスト・オーサリングやゴースト・オーサーシップは、著者への信頼性を歪めて示すものであるため、科学と読者への裏切り行為であると言えるでしょう10


この複雑な問題を解決するには


出版社や著者は、さまざまな方法で剽窃と闘っています。明確で見つけやすい方針や手順、剽窃検知ソフト、良好な協力関係などは、きわめて重要な要素です。


出版規範委員会(COPE)によると、ジャーナルは著者に対して剽窃の定義を示す必要があります。この定義は、剽窃という違反行為に関するジャーナルの方針や手順に則ったものでなければなりません。COPEは、編集者が剽窃を疑った場合のための、アルゴリズムの開発も行なっています11


方針や手順には、報告のガイドラインや著者への対応に関する具体的で明確な基準が定められていなければなりません1。組織は、論文著者全員から、貢献度・利益相反の可能性・二重投稿などに関する署名入りのステートメントを求めるべきでしょう。出版社の多くは、関連のある出版物のコピーを提出するよう著者に求めています1


剽窃に打ち勝つには、テクノロジーも役立ちます。出版社/著者/学術機関は、オンラインの剽窃検知ソフトやサービスを利用することができます12。これらのサービスで、ほとんどの(テキスト)剽窃、自己剽窃、サラミ出版を検出することが可能です。公開されているすべての文書は、クロスチェックを行うことで、類似性や重複性を評価することができます4。今後論文を書く予定のある研究者は、これらのツールの活用方法だけでなく、剽窃が見つかった場合の対応についても知っておく必要があるでしょう。


剽窃を削減または排除するためのもう1つの有効な方法は、コミュニケーションの促進です。「When in doubt, check it out(疑わしきは調べる)」という標語は、すべての著者が参考にすべきでしょう。たとえば、著作権について疑問を持ったルーク(自分の成果物をいつ、なぜ、どのように承認するか?)は、編集者に相談するべきでしょう。相談は、良好な関係を築けているほどしやすくなるものです7。研究を2論文に分ける必要があるなら、著者は、編集者と相談した上で投稿を行う必要があります7。編集者や査読者は、その研究および続報の出版が看護科学界に資するかどうかを検討した上で、判断を下すでしょう。


この関係性においては、課題や懸念や問題などを包み隠さずすべて開示することが重要です。編集者や出版社は、著作権侵害のリスクを常に警戒しています。著作権侵害は、相当量の先行論文や著作物が(出典が示されているかどうかにかかわらず)、無許可で使用されている場合に発生します2,13。この違反への罰則は広範囲に及び、社会的制裁や訴訟に発展するケースもあります。


また、実際の利益相反やその可能性をすべて開示して透明性を確保することも、きわめて重要です。利益相反は、必ずしも論文の出版資格を奪うものではありません。むしろ、その可能性を開示しないことの方が大きな問題となります。


たとえば、ルークの論文で大きな利益を得られるワクチン開発会社がルークを雇用している場合、ルークは論文投稿時にこの情報を申告しなければなりません。そして論文がアクセプトされたら、この情報を読者に明示して出版しなければなりません。


最後に、研究の公正性と論文の信頼性を確保するためのもっとも重要な方法は、看護師への事前教育を徹底することでしょう。看護学生たちに、学期ごとに倫理規定に署名させ、剽窃をしないことを誓わせるのです1。論文出版に関するあらゆる学習段階にいる看護学生が、倫理的な執筆プロセスについて理解し、それを実践する必要があります。教員や先輩が倫理的な研究や出版を実践して手本を示すことで、倫理教育を促進することができるでしょう1


倫理の勝利


ルークは、看護ジャーナルの編集者に簡単な質問状を送り、論文の概要と、過去に自分が出版した概念解析の論文について伝えました。出版社からはポジティブな反応があり、過去の出版論文を倫理的に再利用するためのアドバイスが書かれていました。ルークは、その論文の出版元から取得した再利用許可書を添付して、新たな論文を投稿しました。


10ヶ月後、2度の査読を経て、論文は無事にアクセプトされました。正式なアクセプト後、ジャーナル編集者からルークに、情報を包み隠さず開示したことへの感謝と、過去の論文の扱いに関する情報を伝えるメールが届きました。


今回の件からルークが学んだように、看護科学に貢献することは看護職の進歩につながり、ひいてはその進歩が患者に還元されます。こうした成功を収めるためには、倫理的な研究とオーサーシップに対する奨励と支援が不可欠でしょう。


参考資料

1. Fierz K, Gennaro S, Dierickx K, Van Achterberg T, Morin KH, De Geest S. Scientific misconduct: also an issue in nursing science? J Nurs Scholarsh. 2014;46(4):271-280.

2. Roig M. Avoiding plagiarism, self-plagiarism, and other questionable writing practices: a guide to ethical writing. Office of Research Integrity. 2013. http://ori.hhs.gov/avoiding-plagiarism-self-plagiarism-andother-questionable-writing-practices-guide-ethicalwriting.

3. Fang FC, Steen RG, Casadevall A. Misconduct accounts for the majority of retracted scientific publications. Proc Natl Acad Sci USA. 2012;109(42):17028-17033.

4. Buckwalter JA, Tolo VT, O’Keefe RJ. How do you know it is true? Integrity in research and publications: AOA critical issues. J Bone Joint Surg Am. 2015;97(1):e2.

5. Degeeter M, Harris K, Kehr H, et al. Pharmacy students’ ability to identify plagiarism after an educational intervention. Am J Pharm Educ. 2014;78(2):33.

6. Saver C. Self-plagiarism. Nurse Author Ed. 2014;24(3):1-3.

7. Baggs JG. Issues and rules for authors concerning authorship versus acknowledgements, dual publication, self-plagiarism, and salami publishing. Res Nurs Health. 2008;31(4):295-297.

8. Egry EY, Barbosa DA, Cabral IE. The many sides of research integrity: for integrity in nursing! Rev Bras Enferm. 2015;68(3):327-329, 375-377, 381-383.

9. American Psychological Association. Ethical principles of psychologists and code of conduct: including 2010 amendments. Standard 8: research and publication. 2010. https://www.apa.org/ethics/code/.

10. Almassi B. Medical ghostwriting and informed consent. Bioethics. 2014;28(9):491-499.

11. Committee on Publication Ethics. What to do if you suspect plagiarism (b) suspected plagiarism in a published manuscript. 2011. https://publicationethics.org/files/plagiarism%20B.pdf.

12. Pierson C. Emerging and recurring themes in writing for publication. Nurse Author Ed. 2012;22(1):1.

13. American Journal of Nursing. The plagiarism policy of the American Journal of Nursing. Am J Nurs. 2007;107(7):78-79.

Reprinted from Nursing2016: December 2016, Vol. 46, No. 12, p. 19-21.

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