ジャーナル出版の舞台裏:査読者の選び方

ジャーナル出版の舞台裏:査読者の選び方

本シリーズ第1回では、編集者(Associate Editor, AE)の仕事の概要についてお話ししました。また、編集者に論文を割り当てる方法や、査読に回すかどうかを決めるために論文をどう評価するのかについても述べました。今回は、編集者が論文原稿を査読に回す決定をした後の流れについてご紹介します。この段階での私(編集者)の仕事は、査読候補者を選ぶこと、査読依頼のメールを送ること、依頼が断られた場合に備えて予備の査読候補者を選んでおくこと、そして必要な数の査読者に依頼を受け入れてもらえるまで、この過程を繰り返すことです。


査読者を選ぶ

論文原稿の概要がわかり、査読に回すことが決まったら、次は何人かの査読者候補を選んで依頼することになります。論文を読んで理解したことを元に、その分野や関連分野で活躍している研究者について考えを巡らせます。過去に読んだ論文、目にした発表・プレゼンテーション、人との会話などを思い返し、そのテーマに合った適任者を選び出します。完全にぴったりという人がいなくても大丈夫です。例えば、技術の応用方法は珍しかったとしても、似たような技術を使用したことのありそうな査読者候補はいるはずだからです。

また、論文の中から査読者候補が浮かび上がってくることもあります。過去の研究で、特に多く引用されているものはないか? 過去の論文で発表された方法との比較を行なっているか? そういったことがあれば、それらの論文の著者に査読を依頼することができます。(ただし今回の論文の著者らと重複しないという条件を満たした上で)。検討を進めながら、さらに調査することもあります。論文中に、インターネットで検索できるようなキーワードや課題は含まれていたか?といった点に注意しながら、同じジャーナルに掲載された論文で似たテーマを扱ったものがないかを見ます。そのような著者なら、このジャーナルにお返しとして査読をする義理があると考えるからです。

しばらくあれこれ考えると、たいていは6人程度の査読者候補のリストができます。これらの人々についてさらに調査を行い、査読を依頼するのにふさわしい立場であるかどうかを確認します。依頼を送る前に、その人たちのウェブサイトがあれば確認し、論文のタイトルと領域、その分野で研究・論文発表を行なった年、現在の役職名と研究・仕事の領域等に目を通します。


査読者を選ぶときに、専門的な知識と見識以外に考慮するのは次のような点です。


他に深く関与している仕事があるか?

私は、大きな研究グループのリーダーや学部長など、研究の起ち上げに関わっている人は避けるようにしています。そのような人々は、査読にあたるには多忙すぎるからです。博士課程に在籍している大学院生は、査読者としてうってつけです。自分の研究分野に詳しく、他に期限の迫っている仕事はほとんどないはずだからです。しかし、個人的な推薦などがないと、その分野で適任といえる、査読者にふさわしい学生かどうかを判断するのは難しいこともあります。ですから査読の多くは、多忙すぎない、あるいは多忙だという自覚のない教員や研究者に割り当てられることになります。

ジャーナルを問わず、編集長や編集者への依頼は避けることにしています。自分たちのジャーナルへの投稿論文を処理するだけで大変なのが普通だからです。特に、同じジャーナルの編集者には依頼しません。


まだその分野で研究を続けているか?

編集者が大きく落胆するのは、非常に関連性の高いテーマで研究していた人を見つけたものの、その人の最新論文が20年近く前に発表されたものだとわかったときです。これは普通、その人が研究職を辞して転職したか、引退した、あるいはその分野の研究をやめてしまったということを意味します。私は、ある論文の査読者にぴったりの人を見つけたと思ったら、もう存命でなかったという経験が何度かあります。さて、査読者の調査分析に従って候補を3、4人に絞り、依頼のメールを送り始めます。ジャーナルによっては、必要な作業が書かれた依頼状のテンプレートが用意されていることもあります。私はこの依頼状に手を加えて、なぜ査読者になってほしいのかが伝わりやすいようにします。例えば、「あなたはこの論文のテーマに関する専門知識を持っていると思う」ということを説明します。このように個人に合わせたメッセージにすることで、査読依頼を受け入れてもらえる確率を上げようというわけです。依頼状では、再投稿の論文なのか依頼論文なのかを書いたり、学会発表で使った論文がベースとなっている、といったことについて書いたりすることもあります。

依頼状に投稿論文を添付することもあります。自分が査読を依頼されたときに論文にざっと目を通すことができれば、どれぐらい自分の分野と関連性が高そうか、どれぐらい時間を取られそうかなどを見定めることができて助かると思うからです。状況に応じ、他の査読者にもこのような機会を提供したいと思っています。ただ、技術的な内容が理解しにくいような長い論文は、敬遠されないように、あえて送らないこともあります。


査読依頼を断られたら

査読依頼をしても、断られることは避けられません。経験上、回答のおよそ半分は辞退です。理由は様々ですが、それがもっともであるかどうかは場合によりけりです。例えば、多忙である、そのテーマの専門家だという自覚がない、論文に興味を持てない、たまたまやる気がしない、などの理由が挙げられます。断られても気にしません(その査読者が適任だという確信があった場合は別です)が、不快感を持つことがあるとしたら、次のような場合です。

返信が遅い:査読依頼への返信に時間はかからないはずです。普通に働いていれば、2、3日で返信が可能なはずです。出張中や他のことで手一杯の状態でも、1週間程度で返信してほしいと思います。何週間も返信がなかった挙句に断わられると(それも、返信の催促を入れてようやく)、参ってしまいます。長い間返信がなく、その後依頼が受け入れられても、要注意です。なぜなら、査読そのものも同様に遅れる可能性があるからです。

他に査読候補者がいない:一番嬉しい返信は、素早く断りを入れながらも、他の査読者候補を提案してくれているものです。これは、その候補者が、依頼について検討し、自分は引き受けられそうにないと判断し、協力できそうな人を挙げられるほど考えてくれた、ということだからです。このような対応は、編集者が投稿論文の分野に明るくないときは、特にありがたいものです。自分が査読を引き受けられない場合は、本当にそのテーマについて無知でなければ、私も他の候補者を提案します。そのテーマの専門家に断られた場合には、他の査読者候補を提案してもらえないか、こちらから尋ねることもよくあります。ですから、査読依頼を断る場合は、他の候補者を挙げてもらえればと思います。


査読者を補充する

査読依頼が断られたら、さらに他の査読者に依頼をしなければなりません。バックアップの査読者をあらかじめ選んでいることもありますし、査読を断った人に提案してもらった査読者候補を利用することもあります。全員が依頼を受け入れてくれた場合を想定して、一度に依頼を進めるのは4人までと決めています。1つの論文に多くの査読者がいても無駄になってしまいます。それでも、さらに追加で査読者候補を探さなければないこともよくあります。この作業がおそらくもっとも手ごわいといえます。より知恵を絞って査読者候補を探さなければならないからです。たくさんの査読者候補に依頼を断られると、落胆せざるを得ません。最悪なのは、論文が非常に専門的なもので、査読候補者に選ばれて当然という人にはすでに声をかけている場合です。特に、断られた候補者に他の査読者候補を挙げてもらっても、すでに断られた査読者の名前しかあがってこない場合です。この段階で、編集者は、その論文を評価するのにふさわしい専門家を必要数見つけることは不可能ではないか?と感じることもあります。しかし、あきらめずに粘り強く作業を進めれば、必要な人数の査読者は揃うものです。


査読者に査読を引き受けてもらう

十分な数の査読者(通常3、4人)に依頼が受け入れられ、報告書の提出期限にも合意が得られたら、このプロセスの第一段階は終了です。ゆったりと一息ついて、査読報告書の到着を待ちます。

次回は、査読報告書が送られた後、論文に対する最終決定がどのように下されるのかについてお話ししたいと思います。


本記事は、Association for Computing Machinery, Special Interest Group On Management of Dataのウェブサイトに発表された記事、What does an Associate Editor actually do?の修正版です。本記事は著者の許可を得て、修正を加えて再掲載されたシリーズ記事の第2回です。続きもどうぞお楽しみに。

 

 

 

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