論文出版で成功を収めるための秘伝のレシピ

論文出版で成功を収めるための秘伝のレシピ

Cabells社の国際マーケティング/開発部門ディレクターであるサイモン・リネカー(Simon Linacre)氏は、成長し続ける国際市場に注目し、同社の英国・欧州・アジアでのネットワーク構築に尽力しています。Cabells入社前に15年間勤めたEmerald Publishing社では、ジャーナルの買収、オープンアクセス開発、ビジネス開発を担当していました。リネカー氏は論文出版のサポートにも熱心で、100回以上行なっている講演を通し、出版に関する実践的アドバイスを研究者に提供しています。また、ビブリオメトリクス(計量書誌学)、知識伝達(knowledge transfer)、出版戦略を持つ必要性などをテーマに、幅広く執筆活動も行なっています。リネカー氏は哲学と国際ビジネスの分野で修士号を取得しており、指導経験も豊富です。


このインタビューでは、研究者が政治的要素と戦略的要素の両方を慎重に考慮しながら出版やキャリアの計画を立てることの必要性について伺いました。リネカー氏は、このようなアプローチを取ることで適切なターゲットジャーナルを見つけられるだけでなく、自信を持って研究者としての道を歩むことができるようになると述べています。研究者が複雑な出版プロセスを理解するのに他者の助けは必要なく、代わりにデータを頼ることで、エビデンスベースの意思決定ができるといいます。また、研究者が情報やデータに基づく意思決定をする際にCabellsが担う役割や、Cabellsのブラックリストへの反響についてもお聞きました。インタビューの最後には、研究者が出版プロセスを理解して論文出版で成功を収めるための、リネカー氏独自の「SAUCE」のレシピを伺いました。


研究者が出版計画や出版戦略を持つことの重要性について述べておられます。このことについて詳しくお話し頂けますか?各研究者に合った出版計画を立てる最善の方法とは、どのようなものですか?

論文をどのジャーナルで出版するかを決めるにあたっては、常に政治的かつ戦略的な問いを持たなければなりません。政治的な問いというのは、所属機関がどのレベルのジャーナルでの出版を求めているか、オープンアクセスを義務化しているか、といったもので、所属機関の要求を常に意識する必要があるということです。戦略的な問いというのは、計画を立てるということを意味し、将来のビジョンを持つことです。無策でいるよりも、計画を持つに越したことはありません。研究者がやるべきことは、政治的・戦略的責務を理解し、これらの文脈から導き出された目的を達成するためのベストな道筋を決定し、それに基づいて前進することです。この中には、2つの問いをどれだけ重視するかを決めることも含まれます。キャリアに関するほかの問いに答えることに決めることも可能ですが、2つの根本的な問いを無視することはできず、これらの問いに応じた計画を立てる必要があるのです。


論文出版をサポートする活動(100回を超える講演など)を幅広く行なっておられますが、その経験から、研究者がもっとも助けを必要としているのはどのような要素だと感じていますか?彼らはどのような困難に直面していますか?彼らの弱点はどこにあるとお考えですか?

大学では、出版関連のサポートが圧倒的に足りていません。私がウェビナーやキャンパスで自分の知識を共有しているのも、それが理由です。大学や政府は、論文出版のスキルや知識を身に付けさせることなく、特定のジャーナルで論文を出版することだけを求めています。これは研究者にとってきわめて不公平なシステムであり、当然ながら彼らは苦しんでいます。しかし、研究者たちは、自力でこの苦しみから逃れることも可能なのです。そのために必要なのは、「自分の研究を研究する」というシンプルなことです。つまり、研究者としての自分が持っている素晴らしい研究スキルを活かして、研究をアウトプットする方法を探せばよいのです。引用やオルメトリクス、利用状況に関するデータ、ジャーナル・論文に関するその他の情報などについて理解することで、出版プロセスに関する知識不足が補われ、自分の政治的・戦略的目的を達成するのにふさわしいジャーナルを投稿先として選べるようになるでしょう。


データを利用する重要性は興味深いですね。最近行われたエディテージの著者アンケートで、研究者が直面する主な課題に「ジャーナル選び」があることが分かりました。この結果について議論する中で、データを頼りに適切なジャーナルを選ぶ方法や、Cabellsのようなリソースがこのプロセスでどのような役割を果たせるかについて述べておられました。このことについて詳しくお聞かせください。

研究者が自分の政治的・戦略的目標を把握できたら、その後の意思決定プロセスは、データに基づいて進めることができます。たとえば、コンピューターサイエンスの研究者がインパクトファクター(IF)の高い有名ジャーナルに年末までに論文を出版しようと思ったら、まずは関連するジャーナルのリストを作るところから始めます。次に、Cabellsのデータを利用して、各ジャーナルに関するIFの有無、IFのレベル、ソーシャルメディアでの人気度(オルメトリクスのデータを使用)、査読から出版までに要する期間などの要素を比較します。Cabellsホワイトリストでは、独自のジャーナル評価指標を提供しています。「Cabells Classification IndexCCI)」は、各ジャーナルの分野における影響力をパーセンテージで示したもので、「Difficulty of AcceptanceDA)」は、分野における各ジャーナルの論文出版の難易度をパーセンテージで示したものです。これらのデータと、入手可能なその他すべての関連情報を天秤にかけることで、どのジャーナルで論文を出版すべきかについて、エビデンスベースの意思決定ができるでしょう。IFをはじめとする単一の指標のみを頼りにするよりも、幅広いデータからの意思決定が可能になります。


Cabellsのブラックリストが公開されてから1年半が経ちました。このリストへの反響はどのようなものですか?

非常に大きな反響を頂いています!この製品への反響もさることながら、製品自体の成長も驚くべきもので、期待を上回るものになっています。北米、欧州、アジア全土の研究機関、法人、政府機関がこのブラックリストを頼りにしてくれています。ブラックリストには当初4000誌が掲載されていましたが、2019年初頭には1万誌を優に超えるまでに成長しました。さまざまな機関や研究者から感謝のメッセージが数多く届いており、その反響の大きさにやや圧倒されています。


ブラックリストについてもっとも多く寄せられる質問は、どのようなものですか?

ブラックリストへの掲載基準に関する質問が多く寄せられています。また、「ハゲタカジャーナルの疑いのある〇〇誌は調査したか?」といった問い合わせも多くあります。リストが成長したのは、ジャーナルの調査を求める声がユーザーから多く寄せられたことが大きく、このような声に応えるのが難しい時期もあったほどです。驚くことに、リストに掲載したジャーナルからの問い合わせは10回もなく、非常に少ないです。


研究者の弱点をサポートするために、Cabellsは業界の利害関係者とどのように協働していますか?

我々は、個人レベルと組織レベルの両方で活動しています。研究者がどのような困難に直面しているか、Cabellsがどのようにサポートできるかを把握するために、組織として、利害関係者たちと定期的にコンタクトをとっています。個人ユーザーから寄せられるさまざまな質問にまとめて回答することを目的として開発されたBrightTALK channelは、このような取り組みの一環です。


Cabellsとエディテージのパートナーシップについて詳しく教えて頂けますか? 

エディテージとは、私が「検証ギャップ(validation gap)」と呼ぶところのものについて研究者をサポートするために協力関係を築いています。研究者は、出版プロセスを進む中で、自分の論文の研究の質、文章の質、言語、ジャーナルの選択などについて、さまざまな面から検証しなければならない段階にたどり着きます。先述したように、大学は、この段階にたどり着くまでと、論文が出版されて任期が確定してからは、研究者を支援する傾向があります。しかし、ここにたどり着くまでに、越えるべき大きな溝があるのです。これは若手研究者だけでなく、経験のある研究者も通らなければならない道であり、Cabellsは、エディテージと共にこの溝を越える手助けをしたいと考えています。


研究者に向けた出版に関するアドバイスはありますか?

私は頭文字を使って物事を記憶するのが好きなので、ここでも、出版プロセスを理解して論文出版で成功を収めるための秘伝の「SAUCE」をお伝えしましょう:

  • S:論文は売って(Sell)も、自分は売らないこと。露出を最大化するには、出版前、出版時、そして何より出版後にソーシャルメディアやネットワークを活用しましょう。
  • A論文を就職のための申請書(Application)だと考えましょう。履歴書に誤字は許されますか?許されませんね。論文も履歴書と同じく、研究者人生が終わるまで残っていくものです。
  • U:編集者が求めることを理解(Understand)しましょう。どれほど長文で退屈なものであっても、投稿規定は熟読し、ジャーナルと編集者について理解しましょう。
  • C:別の研究も蓄えて(Cache)おきましょう。成功を収める研究者は、定期的なアウトプットのために、異なる段階の論文を常に複数用意しています。つまり、研究と論文は順次ではなく、並走させて行いましょう。
  • E:エンド(End)ユーザーは誰かを考えましょう。どの層が研究に興味を持ってくれるかを明確にし、その層をレーザーのように狙い撃ちしましょう。


研究者がキャリアを前進させるには何が必要ですか?学術誌で論文を出版する以外にできることはありますか?

政治的要素が非常に重要なのは、まさにキャリアの前進を念頭に置いて意思決定をする必要があるためです。さらに、国内の状況によっては、今いる国ではなく、5年後や10年後にいるかもしれない国に近いジャーナルでの論文出版を考える必要があるかもしれません。ここで、私が学会で出会った博士課程9年目の学生の悲しい物語を紹介したいと思います。彼は間もなく博士号を取得できると話していましたが、国がIFジャーナルでの論文出版を要件に定めていたことは、学生で居続ける方が楽だということを意味していました。なぜなら、卒業するとIFジャーナルでの出版なしには研究者になれないからです。さらに悲しいことに、彼に出会ったのは質的研究に関する学会であったにも関わらず、彼の専門分野は、量的研究を扱うジャーナルによるIFに支配されていました。彼は、自分の置かれている状況や、論文を適切なジャーナルで出版できない理由を理解していませんでした。自分の研究の政治的・戦略的な問題にもっと目を向けていれば、キャリアをさらに前進させることができていたはずです。


貴重なお話と秘伝の「SAUCE」のレシピを共有して頂き、ありがとうございました!これらは、読者にとって有益なアドバイスとなるでしょう。


情報開示:エディテージは、Cabellsと共同で著者向けに幅広く質の高い出版支援サービスを提供しています。本インタビューは、エディテージ・インサイトが独自に行なったものであり、読者にとって十分な有益性があるものと考えています。

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