ジャーナル編集者からのアドバイス:努力し、学び続け、ビジョンを持つこと

ジャーナル編集者からのアドバイス:努力し、学び続け、ビジョンを持つこと

アナ・マルシッチ(Ana Marušić)教授は、研究者・著者・ジャーナル編集者・科学コミュニケーションの専門家としての活動で、学術出版界で広く知られた存在です。8回査読および生物医学出版に関する国際会議(シカゴ、2017年)に際して教授が行なったプレゼンテーションは、学術界の喫緊の課題をテーマとしたもので、エネルギーと情熱に満ち溢れていました。エディテージの読者の皆さんにも、教授の視点をぜひ紹介したいと思います。今回のインタビューでは、マルシッチ教授がジャーナル編集者になった経緯などを伺いました。また、ジャーナル編集者が直面している困難や、科学の公正性や出版倫理に関する問題について伺ったほか、世界中の研究者に向けたアドバイスを頂きました。


マルシッチ教授は、多彩な業績・経歴を持っています。ザグレブ大学(クロアチア)で修士号と博士号を取得し、研究の方法論や科学コミュニケーションを大学生に教えています。現在はスプリット大学医学部(クロアチア)で生物医学・保健学研究科の教授を務めながら、多くの役職に就いています【エジンバラ大学(英)名誉教授;Journal of Global Health誌共同編集長;欧州科学編集者協会会長(20152018年);世界医学雑誌編集者協会研究委員会委員長;コクラン科学委員会共同委員長;コクラン・クロアチア創設者兼研究コーディネーター;スプリット大学医学部クロアチア・グローバルヘルスセンター創設者;EQUATOREnhancing the QUality And Transparency Of Health Research)ネットワーク運営委員】。これまでに200本以上の査読付き論文を出版し、優れた業績を挙げた編集者に贈られる科学編集者委員会賞(2016年)を含むさまざまな賞を受賞しています。専門は、人体における免疫系と骨の相互作用に関する研究で、そのほか、科学コミュニケーションや査読、研究倫理にも関心を持っています。マルシッチ教授の、公的登録としての臨床試験登録の義務化に関する取り組みは、世界中の臨床試験規制にプラスの影響を与えました。


ひょんなことから編集者になった」経緯を教えてください。

ジャーナル編集者になった経緯は、多くの研究仲間たちがたどった道と同じです。研究者として一流誌で論文を出版した経験が評価され、小規模な学術誌に編集者にならないかと誘われたのです。私のケースで特殊だったのは、国内情勢が良好とは言えない時期に新たなジャーナルの創刊に携わったことです。Croatian Medical Journalを創刊した1991年は、ちょうどクロアチアで戦争が始まった年でした。そのような切迫した状況の中でジャーナルを創刊するのは楽ではありませんでした。しかし、医学の社会的側面、とくに戦争や人為的災害および自然災害の医療面に関する研究論文に特化することで、困難を強みに変えることができました。

Journal of Global Health 誌の創刊者および共同編集長として、ジャーナルを創刊するために必要なことは何だとお考えですか?創刊の経験からどのようなことを学びましたか?

私は、2誌のジャーナルをそれぞれまったく異なる状況と目的のもとで創刊しました。Croatian Medical Journalは、小規模な科学コミュニティの研究の質を高めることを目指しており、クロアチアの質の高い研究を世界に発信する窓口として、またクロアチアの研究者がグローバルな研究コミュニティに参加するための玄関口として役立っています。国際レベルの医学誌として認められることを目標にしており、実際、その分野では相応の評価を確立できたと自負しています。一方、Journal of Global Healthは、グローバルヘルスへの客観的かつ学術的なアプローチを提供し、グローバルヘルスに大きなインパクトを与えるような論文を出版することを目的としています。こちらも、被引用数の多い重要な論文を出版できています。


先ほど述べたように、この2誌での経験は、基本的な目的、直面した困難、利用可能なインフラという面でまったく異なるものでしたが、国際的な編集者コミュニティの一員でいることはきわめて大切だということを学びました。ジャーナル編集者は、もともと研究者や学術関係者であった場合がほとんどで、すでに論文を出版した経験も持っているため、ジャーナル編集についてこれ以上学ぶことはないと考えがちです。しかし、研究職とジャーナル編集業はまったく異なる仕事で、覚えるべきことがたくさんあり、学び続ける必要があります。個人的には、このような専門的組織の一員になったことが何よりの学びの機会となりました。

世界中の編集者と交流をしてきた中で感じた、現代のジャーナル編集者が直面している課題を3つ挙げて頂けますか?

1つ目は、査読です。ジャーナルとしての方針を決め、ジャーナルやコミュニティにとって最適な形で実行していかなければなりません。


2つ目は、出版プロセスにおける透明性の確保です。論文投稿の前提条件として、人体が関わる臨床研究に関する臨床試験登録の義務化を含めた透明性を確保することは、とくに重要です。


3つ目は、デジタル時代におけるジャーナル出版の枠組みを確保することです。簡単なように思えますが、小規模な学術コミュニティにデジタル出版を導入することは、実際は非常に難しいことです。

ジャーナル編集者として、研究者に査読教育を受けさせることについてどのようにお考えですか?教育によって、査読のクオリティを向上させることや、ジャーナル編集者が査読者を選ぶ際の選択肢を増やすことができると思いますか?

私たちは、悲惨な戦争が始まった時代にジャーナルを起ち上げました。当時は医師として、戦争の医療面を示そうと奮闘していた同僚のサポートを行なっていました。その経験を通して、彼らが、特筆すべき結果を持っているにも関わらず、それを論文としてアウトプットするスキルを欠いていることに気が付きました。私たちは、ライティングのワークショップを開いて著者11人をサポートしました。その取り組みは最終的に、医学を学ぶ学部生・大学院生に、研究の方法論やエビデンスベースの医学を教える必修コースに発展しました。これらのコースには、研究プロセスに不可欠である査読教育を必ず含めるようにしていました。


この取り組みは私たちのジャーナルでは非常にうまく機能していましたが、査読教育の効果を証明することはできないので、何が正解なのか確かなことは分かりません。

現代の研究界を悩ませている倫理的問題の中で、もっとも深刻なものは何だとお考えですか?

問題は多いですが、すべては、「出版するか消え去るか(Publish or perish)」という学術界の文化に起因していると思います。学術コミュニティでは、キャリアを発展させるためには論文出版が欠かせません。一方、ジャーナル編集者にとっては、剽窃、オーサーシップ、利益相反などのオーサーシップに関するものが喫緊の課題と言えるでしょう。これらの重要な問題についての透明性や開示性を確保するために、編集者は方針やプロセスを明確に定める必要があるでしょう。

責任感を持って研究を遂行する意識を、教育によって育むことは可能ですか?ジャーナル編集者、学術機関、学会などの学術関係者のうち、研究倫理の教師として最適なのは誰だと思いますか?

可能だと思います。すでに、適切な教育を行うための枠組みや材料を揃える取り組みは進んでいますし、実験的に導入されているケースもあります。欧州の枠組みでは、研究倫理は、社会のために責任を持って科学に取り組む「responsible research and innovation(責任ある研究・イノベーション、RRI」という、より広範なテーマの一部に組み込まれています。私の研究チームも、このテーマに関するプロジェクトの1つ(Higher Education Institutions and Responsible Research Innovation [高等教育機関と責任ある研究イノベーション、HEIRRI])に参加しており、高等教育のあらゆる段階にRRI教育を組み込む活動を行なっています。RRI教育は、研究の現場で行われなければなりません。

若手研究者時代にはどのような困難があり、その困難とどのように向き合いましたか?現代の若手研究者も同様の困難に直面していると思いますか?

当時はまだ知らないことも多く、自分の誤りに気付いていなかった分、楽だったのかもしれません。現代の若手研究者は、研究プロセスに求められる透明性や、責任ある研究を遂行するために必要な仕組みとプロセスを、研究の中に取り入れなければなりません。当然、これには多大な労力を要しますが、社会に対して責任を持ちながらより良い研究行うための助けになると言えるでしょう。

論文を出版して学術出版界に足跡を残し、学術界で確かなキャリアを築こうと奮闘している研究者たちに向けて、アドバイスをお願いします。

学び続け、研究を楽しみましょう。努力やひたむきさは、質の高い論文、新たな共同研究、正当な評価という形として、必ず実を結びます。一流誌で論文を発表することを考えるよりも、アイデアを練ること、ビジョンを持つことが重要です。そして、研究の方法論に関する訓練を受けてください。方法論を身に付ければ、質の高い研究を行えるようになり、一流誌での論文出版につながるでしょう。ジャーナル編集者は、論文の言語レベルは重要視していません。なぜなら、言語は簡単に修正できるからです。一流誌が求めているのは、確かな方法論に基づいた、新規性のある研究なのです。


マルシッチ教授、お時間と貴重なアドバイスをありがとうございました!

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