自然科学分野の論文を書くときに注意すべき5つのこと

自然科学分野の論文を書くときに注意すべき5つのこと

研究論文の執筆では、自然科学分野をはじめとする学問分野ごとに、独自の慣習があります。言葉を正しく使うことは常に重要ですが、研究者/学術編集者として経験を重ねる中で気づいたことがあります。それは、他分野と比較して、自然科学分野の論文で頻発するミスがあるということです。この記事では、非英語ネイティブの著者が論文執筆時に犯しがちなミスの例を、いくつか紹介したいと思います。


1. 離散値には可算名詞を使う


数量を示す単語の使用に、混乱が見られるケースがあります。離散値であるかどうかが明示されている場合には、可算名詞を使う必要があります。可算名詞とは、数えられるものを指します(apple/apples、mole/moles、atom/atomsなど)。たとえば、反応によってさまざまな「functional groups」(官能基)が生成されることや、反応によって特定の「functional group」が増加することを説明する場合、数えることができる「functional group/functional groups」は、可算名詞です。これを踏まえて、次の例文を見てみましょう:


It was observed that the alcohol produced increased.


この場合、「functional groups」が増加したと説明すると混乱が生じます。増加や減少は量の変化を表す言葉ですが、「alcohol」は量では表せないからです。したがって、適切な語を使って、何が変化したのかを明確に説明しなければなりません。上の例文は、意図する内容によって以下の2通りの表現に書き換えることができます:


A variety of different alcohols–primary and secondary–were produced. (さまざまなアルコール[第一および第二]が生成された。)


または


The number of alcohol groups produced increased. (生成されたアルコール基の数が増加した。)


2. 図について適切な言葉で説明する


スペクトルは、材料やプロセスに関する何らかの事実を把握しやすくする視覚資料で、位置の違いで異なる意味を表します。たとえば、赤外線スペクトルは、所定の範囲のさまざまな吸収周波数を表し、質量スペクトルは、質量対電荷比それぞれの同位体比を表します。しかし、スペクトルはあくまで「図」であり、その他すべての図表がそうであるように、「measure(測定)」できるものではありません。したがって、スペクトルを得る過程について述べる場合は、「obtaining(取得)」、「acquiring(入手)」、「recording(記録)」といった言葉を使わなければなりません。言及すべきスペクトルが複数あって、繰り返し表現を避けたいときは、これらの言葉を代わる代わる使うとともに、さらに受動態・能動態表現を組み合わせれば、表現豊かな文章に仕上がるでしょう。また、スペクトルのピークには値が、バンドには範囲がありますが、ピーク/バンドは「measured(測定された)」ではなく、「observed(観察された)」、「seen(見られた)」といった表現が適切です。なぜなら、分光法は手動で測定するものではなく、機器が自動的に測定するものであり、私たちは表示された結果を使用しているにすぎないからです。


以上の注意点を踏まえて、次の例文を見てみましょう:


誤: The IR spectrum for compound X was measured (Figure 5).


正: The IR spectrum for compound X was acquired (Figure 5). (化合物XのIRスペクトルを得た[図5]。)

誤: A diffraction peak was measured at 2θ = 65.5°.

正: The sample showed a diffraction peak at 2θ = 65.5°. (サンプルは2θ = 65.5°で回析ピークを示した。)


または


正: A diffraction peak was observed at 2θ = 65.5°. (2θ = 65.5°で回析ピークが観察された。)


3. 前置詞/記号を正しく使って 範囲を表す


前置詞は、連続した組み合わせで使うことで、作用/現象を示すことがよくあります。しかしながら、呼応していない前置詞同士を組み合わせると、意図する内容が変わってしまったり、文法的に不正確な構造になってしまったりする可能性があります。


例:  I travelled from New York to San Francisco. (私はニューヨークからサンフランシスコまで移動した。)


この場合は「from」と「to」が対になり、移動したことを示しています。次の例文のように、どちらか一方を別の前置詞に置き換えると、意味の変化や文法的な誤りに繋がります:


I travelled between New York to San Francisco.


ただし、次の文は適切です:


The train travels between New York and San Francisco. (その電車はニューヨークサンフランシスコの間を走っている。)


また、以下の文章は不適切です:


The concentration was varied between 10–25 moldm-3.


「10–25」の「–」は、「to」の省略表現です。範囲を示すときは、以下が適切です:


The concentration was varied from 10 to 25 moldm-3. (濃度は10から25 moldm-3の範囲で変化した。)


または


The concentration was varied between 10 and 25 moldm-3. (濃度は10から25 moldm-3の間で変化した。)


もしくは


The concentration was in the range 10–25 moldm-3. (濃度は10–25 moldm-3の範囲だった。)


4. 修飾語での単数形の使い方


単語を形容詞や複合形容詞の一部として使う際に、複数形にしているケースがよく見られます。たとえば、「The reactant concentrations were monitored(反応物質の濃度をモニターした)」という文の「reactant」は、形容詞として使われています。形容詞は名詞を修飾する言葉で、たとえば、「red rose」の「red」は、「rose」を修飾する形容詞です。


同様に、「nanoparticle-modified electrode(ナノ粒子修飾電極) 」の下線部は、複合形容詞です。複合形容詞とは、それに続く名詞を修飾する、2語以上の形容詞のことです。この例では、複合形容詞で「electrode」を修飾しており、「nanoparticle」によって「modified」されていることを説明しています。したがって、「reactants」や「nanoparticles」が複数であっても、「reactants concentration」や「nanoparticles-modified electrode」という表現は誤りであることが分かります。なぜなら、形容詞は複数形にならないからです(「a five-dollar note」とは言っても、「a five-dollars note」とは言いません)。


おまけ:  略語を最初に用いるとき(括弧で定義するとき)は単数形で表記しなければならないと誤解しているケースをよく見かけますが、これは誤りです。略語であっても、元の単語が単数か複数かを、正しく反映させなければなりません:


誤: Advanced oxidation processes (AOP) are relatively cost-effective options for water purification and wastewater treatment.


正: Advanced oxidation processes (AOPs) are relatively cost-effective options for water purification and wastewater treatment.(促進酸化処理(AOPs)は、浄水や廃水処理において相対的に費用対効果の高い方法である。)


5. 大文字の使い方


定数(Avogadro numberなど)、技術名(Raman spectroscopyなど)、反応名、プロット名(Koutecky–Levich plotなど)が人物にちなんで名付けられている場合、それらは固有名詞なので、語頭を大文字にします。ただし、「faradaic(ファラデー)」(faradaic currentなど)や「coulombic(クーロン)」(coulombic efficiencyなど)、「ohmic(オーム)」(ohmic dropなど)などのように、人物由来の名称であっても大文字にしない場合もあります。これらの用語は、現象を表す一般用語と見なされ、形容詞や副詞として使われるため、大文字を使わないのです。また、特定のプロセスやメソッドが、発見者にちなんで名付けられている場合も同様です(galvanisationなど)。一方、「Haber process(ハーバー法)」の「Haber」は、形容詞や副詞ではなく、名詞としてそのまま使われています。このような場合は、語頭を大文字にしなければなりません。また、「Å」、「W」、「J」、「K」などの単位は大文字で表記しますが、正式名称で表す場合はそれぞれ、「angstrom」、「watt」、「joule」、「kelvin」のように、語頭は小文字にします。


ミスを避けながら明瞭に述べるための重要なチェックポイントを、以下にまとめました:
 

  1. 数量と質を明確に区別する
  2. スペクトル、ピーク、バンドなどに言及する場合は、言葉の選択に注意する
  3. 前置詞を正しく選ぶ
  4. 単数形/複数形を適切に使い分ける
  5. 大文字/小文字を正しく使い分ける


見過ごされがちなディテールに目を向けることで、皆さんのライティングスキルが向上し、明らかなミスを回避できるようになることを願っています。


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