研究者たちはなぜ母国に帰りはじめているのか?

研究者たちはなぜ母国に帰りはじめているのか?

西洋の先進諸国は、何十年にもわたって科学技術の発展の中心地であり続けてきました。それゆえ、世界中の人材を魅了してきました。キャリアの向上を目指してより良い機会を求める科学者は、志を実現するための最終目的地として、米国を目指しました。母国を後にする東洋の科学者のほとんどが、西洋を目指していたのです。人材が結集した西洋諸国の経済と技術力はさらなる発展を遂げ、未曾有の成長を記録しました。しかし、近年になって、この傾向は急激な変化を見せています。


グローバルな経済競争力が高まり、科学技術の発展が国家の進歩にとって重要であるとの認識が高まりを見せる中、発展途上国は、母国を去っていった人材を取り戻そうと躍起になっています。さらに、科学研究予算の縮小や、米における政治的混乱により、これらの先進諸国は、外国人研究者を自国に留めておくことが難しくなっています。


研究開発の中心地のシフト


中国やインドをはじめとする発展途上国の科学技術力は、急速に進歩しています。とくに、科学で世界をリードする国としての地位を確立した中国は、米国に熾烈な競争を仕掛けています。若い中国人研究者を母国に引きつけるために、中国政府は、「Thousand Talents Program」という人材雇用プログラムを開始しました。


マサチューセッツ工科大学のポスドク、リンセン・リー(Linsen Li)氏は、母国に帰ることを決断した1人です。米国で教職に就けずにいたリー氏にとって、このプログラムの下で届いたオファーは魅力的なものでした。「イノベーションおよびテクノロジー研究所」(ベルリン)の心理学者で、アジア人研究者のキャリアの進展を研究しているヨハネス・ゲッフェルス(Johannes Geffers)氏は、「中国の大学に戻ることは、今日ではキャリアの後退を意味しません」と述べています。現在の中国が研究開発予算で米国と肩を並べていることや、科学論文出版数で世界をリードしている事実を踏まえれば、ゲッフェルス氏の発言にも納得がいくでしょう。


中国のほかにも、各国が人材を自分の国に呼び戻そうとしています。トルコ政府は2018年末、海外で働くトルコ人研究者に向けてアピールを開始し、エルドアン大統領は「世界各地に散らばるトルコ人科学者たちよ、我が国の科学技術ムーブメントにぜひ参加してほしい」と呼びかけました。


フィリピン政府も、研究室の起ち上げやより良いインフラの提供を確約することで、フィリピン人研究者を呼び戻す取り組みを開始しています。フィリピン政府は、気候変動をはじめとする「国内の差し迫った問題を解決するには、自国の専門家を国に呼び戻す」必要があるとしています。


また、インドは、ここ数年で大量の人材が国外に流出した国の1つです。インド人研究者は何十年もの間、より良い環境を求めて、米国をはじめとする海外に積極的に移住してきました。経済発展に欠かせないこのような人材の流出により、インド政府は、この流れを逆転させる方法を考えなければならない状況に迫られました。その中で生まれた「Visiting Advanced Joint Research Faculty」(VAJRA)などのプログラムは、インド人研究者がインド国内で研究を続ける機会を提供することに成功しています


研究者が母国に戻る理由


研究者たちは、なぜ母国に戻っているのでしょうか?もっとも説得力のある理由の1つは、移住先の国と比べてより良いとは言えなくとも、同等の機会が母国にあることでしょう。世界中の発展途上国が科学予算を拡大している現状において、母国への帰還は、研究者にとって妥当な選択肢の1つになっているのです。政府に求められて帰国した研究者であれば、母国でのキャリア構築や予算の確保が比較的しやすいことも魅力的な要素と言えます。


魅力的な条件とは別に、母国の発展に貢献できるという「やりがい」に魅かれる研究者もいます。膜タンパク質を専門とする構造生物学者のアルン・シュクラ(Arun Shukla)氏は、海外で正規職を選べる立場にいる著名な研究者ですが、母国のインドに戻って自身の研究室を起ち上げることを選んだ1人です。シュクラ氏がこれまで働いてきた国々と比較すると、インドは研究開発予算や技術インフラの面で劣っていましたが、シュクラ氏は、「膜タンパク質生物学という分野で自国の存在感を高める」ことに魅力を感じたと述べています。


文化と言語に関連する要素も、研究者が帰国を決断する重要な要素となっています。より自分のルーツに近い環境にいることを重視する研究者にとって、母国で良い職を得られる機会があることは、帰国の決断を促すきっかけになるでしょう。


研究者の流動性の影響


研究者の流動性が具体的にどのような影響を及ぼしているかは不明ですが、研究者の帰国によってもたらされる新鮮な視点と知識は、明らかな影響と言えるでしょう。帰国した研究者たちの頭脳は、その国の研究情勢を一変させるような重要な役割を果たす可能性があるのです。


活発に共同研究が行われている今日の研究界において、帰国した研究者たちが持つコネクションは、非常に有益なものです。帰国した研究者の多くは、海外の大学での補佐的な職を受け入れたり、国際協力プロジェクトに参加したりすることで、そのネットワークの維持に努めています。


このように、海外から研究者を呼び戻すことで得られるものは多くあります。しかし、頭脳の逆流は、研究者たちが去っていった国には、負の影響を与える可能性があります。数ヶ国の研究者の移住パターンを研究するグローバリゼーション研究の権威であるデイビッド・ヒーナン(David Heenan)氏は、「米国の科学・技術的優位性や経済力は、危険に晒されるだろう」と警告しています。


世界の研究情勢は、ダイナミックな変化や進歩を繰り返しています。これまで西洋の先進諸国には、研究しやすい国としての評判が確立していました。しかし、研究開発の中心地は、今や西洋に限られません。近年、これまでの傾向に変化が見られ、キャリアの構築を目指して母国に帰る発展途上国出身の研究者が増え続けています。経済的発展を遂げた東洋諸国は、研究開発に焦点を当て、自国の科学者に魅力的な環境を提供しはじめています。それによって、母国への帰国を決める研究者が増え続けているのです。


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