博士課程をスタートさせる前に家族に伝えておきたいこと

博士課程をスタートさせる前に家族に伝えておきたいこと

先日、叔母との何気ない会話の中で「今日はのんびりで、やることがあまりなかったわ」と言うと、次のように返されたので衝撃を受けました。「博士課程ってヒマなんでしょう?あなたはいつものんびりしているみたいだし」。

 

叔母は公認会計士として順調にキャリアを築いており、ほかの親族たちも高度な資格が必要な職業に就いています。しかし、高等教育を受けているかどうかに関係なく、科学分野の博士課程の状況について、親族たちはほとんど何も知りません。だからといって、それを責めるわけにはいきません。博士課程を取り巻く人々は皆(学生も指導教授も研究機関も)、家族は博士課程に伴うあらゆる事柄を我慢するはずだと誤解しているからです。

 

博士課程の大変さを家族に伝えることの難しさ

 

時間と労力を要する博士課程の生活は、進学して間もない人ほど厳しいものです。家族はその厳しさを自分事として捉えることが難しいため、学生も家族もフラストレーションを溜め込むことになります。そのような状況は、家族と職場の狭間で科学を探求する学生に、メンタルヘルス面で悪影響を及ぼすこともあります。一方では研究を進めることに邁進し、他方では家族や指導教授に自分の状況を説明しなければならないからです。

 

ほとんどの大学院生は、家族が博士課程の厳しさを認識していないことに、あるときふと気づくようです。これは学生にとって由々しき問題です。では、どのように対処したらよいのでしょうか。

 

考えられる解決策は2つあります。

 

1. 研究機関/大学が、学生の家族に簡単なオリエンテーションを行う。

2. 博士課程の生活で生じると思われる状況について、学生が自分で家族に伝える。

 

毎年毎学期に博士課程に進学してくる学生が無数にいることを考えると、前者は実施が難しいかもしれません。となると、4〜6年間の研究課程が始まる前に家族への説明責任を負うのは、学生自身ということになります。家族が博士課程の大変さを理解しようとしない場合や、サポートにも乗り気でない場合は、指導教授やメンターに協力を仰ぐことも検討してみましょう。そこまでするのはハードルが高く、やりすぎだと感じられるかもしれませんが、私の仲間の一人はまさにこの方法で乗り越えました。指導教授に介入してもらうことで、家庭でのサポートがどれほど大切かを家族に理解してもらうことができたのです。指導教授が一肌脱いでくれれば、このアプローチはうまく機能するでしょう。

 

博士課程についての誤解

 

博士課程についての知識が乏しければ、家族は、成果を出して自分の力を証明するというプレッシャーを理解できません。これは、博士課程に進んだほとんどの学生が経験する状況です。家族から適切なサポートを得るためには、博士号を取得するために必要な汗と努力について理解してもらうことが欠かせないのです。誤解している人も多いかもしれませんが、博士号は「単なる一学位」とは異なります。博士課程の実情は、24時間年中無休で力を尽くす有給職であり、家族のための時間はほとんど取れません。燃え尽き症候群とインポスター症候群も、よく見られます。だからこそ、実情を知っておくべき人には、知っておいてもらう必要があるのです。

 

家族が抱きがちなもう1つの誤解は、博士号取得に必要な作業は主に論文を読み、参考文献を探し、執筆することだというものです。これは、実験や大規模なフィールドワークを伴わない人文科学などの分野では当てはまる場合もあるでしょう。しかし、科学分野の博士課程の場合、理論科学でない限り、80%の時間は実験に費やされ、読むことや書くことに充てられるのは残りの20%です。

 

大学院での活動がどれほど困難に満ち、時間がかかり、労力を必要とするものかを家族が認識していなければ、連鎖的な誤解を招き、驚きや戸惑いや不満、ときには苛立ちを生じさせてしまいます。なぜそんなに長時間働くのか?なぜ帰宅が深夜なのか?なぜ家族と一緒に過ごす時間がないのか?なぜ週末も働いているのか?それでも、家族を責めることはできません。家族は大学院生のスケジュールやライフスタイルについて知らないだけだからです。また、家族がそのような生活を求めたわけではないからです。

 

経験から言って、私が住むインドのような比較的保守的な社会では、女性が博士号を取得することは一層難しいと感じます。多くの場合、結婚と博士号取得の両方を期待され、そのことが心身の健康に悪影響を与えます。場合によっては、「単なる学位を見返りもなしに取得するために多くの時間とエネルギーを費やしている」、「他の職業の人たちは良い稼ぎがあって落ち着いた暮らしをしており、家族も養っている」などと言われることもあるでしょう。

 

博士号が他の学位とは異なること、博士号の取得には特定の能力が必要であることを家族に納得させられないケースは、珍しくありません。このことは、博士課程での結婚を考えている場合、「将来の家族」であるパートナーにも当てはまります。パートナーが博士課程の状況をよく分かっている人なら、必要なサポートと理解を得られ、論文の執筆や口頭試問を乗り切る上でも強い味方になってくれるでしょう。

 

家族に知っておいてほしい博士課程の現実

 

では、(とくに科学分野の)博士課程の生活を家族に理解してもらうためには、どのようなことを伝えればよいのでしょうか。以下に、ぜひとも事前に伝えておきたい項目を挙げました。

 

  • 時間の予測が立たない

日中や平日だけでなく、夜間や週末、祭日や祝日に働くのも、よくある普通のことだと伝えましょう。仕事に情熱を持ち、成果を出そうと必死に取り組んでいることを分かってもらうことが大切です。十分な睡眠が取れ、休息の時間が作れている限り、問題はないと伝えましょう。

 

  • 実験は必ずしもうまくいくとは限らない

科学では、さまざまな実験や数え切れないほどのフィールドワークが必要です。「実験=試み」は、努力の結果を予測することができないという意味です。成功する可能性はありますが、失敗が続く可能性もあります。偉人たちも、実験で数多くの失敗を経験しました。1回で成功するプロトコルの実験など存在しません。月初にある実験を始め、月末にまだそれを繰り返しているという状況は十分にあり得ます。

 

  • 実験の失敗はやる気を奪い自信を失わせる

実験が失敗すると、不満、疑い、悲しみ、怒り、混乱などの感情が生まれますが、困難なときに支えとなる家族がいることで、失われた自信が不思議と回復することがあります。このようなサポートは、インポスター症候群の可能性を減らすためにも重要です。家族や友人からの励ましやアドバイスは創造性を大いに刺激し、難しい課題に取り組む上で非常に役立ちます。

 

  • 博士課程では深い孤独を感じることがある

家族からのタイムリーな励ましとサポートは、メンタルヘルスを安定させ、ネガティブな思考を振り払うために役立ちます。

 

  • 博士課程は、時間、お金、エネルギーなどのリソースが必要という意味で結婚のようなもの

結婚は、相互の信頼、献身、責任によって成り立つ関係であり、双方にリソース、お金、エネルギー、時間を差し出すことを求めます。博士課程におけるメンターとメンティー、または指導教授と学生の関係は、それとよく似ています。博士課程は波乱に満ちており、無事に終えることは容易ではありません。メンターとメンティーの関係性を結婚になぞらえながら博士課程の生活を説明すると、家族はその実態をイメージしやすいかもしれません。

 

 

博士課程の1年目は、ぜひとも自分自身を振り返り、博士課程と同時進行でほかの務めを果たす余力があるかどうかを把握してほしいと思います。ほかの務めとして挙げられるのは、結婚、出産と育児、高齢または病気の家族のケア、住宅購入、別の都市や国への移住などです。

 

複数の務めをやりくりする中では、セルフケアも欠かせません。もし、博士課程の最中にほかの務めを果たすことができそうにないと感じた場合は、それを家族やパートナーに伝えることが大切です。

 

ここまで述べてきた提案は、博士課程に関する基本的な事項について十分な知識を持っている場合にのみ役立つものです。大学院生として、自分が何に携わっているのかをよく理解し、家族の理解を得る努力をすることが必要です。潮の流れに逆らうのではなく、潮の流れに沿って泳げる態勢を整えましょう。

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