助成金申請書のどこをレビュアーは見ているか

助成金申請書のどこをレビュアーは見ているか

助成金申請書(グラントプロポーザル)を書き上げるのは、大変な作業です。提出にこぎつけるには、膨大な時間、リソース、エネルギーを必要とします。このエネルギーは、申請書の技術的な部分にだけ注がれるわけではありません。ガイドラインに沿って書かれているか、予算とその根拠は適切で妥当なものか、図の見映えと配置に問題はないか、研究員たちの経歴は適切に記述されて申請内容に沿っているか、といったさまざまな側面の確認が必要になります。


しかし、残念ながら、多大な労力を費やして書き上げて提出した申請書の大半は、リジェクトされます。アクセプト率は、たとえば2018年の国立がん研究所(NCI、国立衛生研究所傘下)では

11%と低く、高くてもNational Center for Advancing Translational SciencesNCATS、こちらも国立衛生研究所傘下)の35%(2018年)程度です1。つまり、アクセプト率がもっとも高い場合でも、申請者が10人いれば、6人は助成金を獲得できないということです。とは言え、助成金獲得の可能性を高めるためのヒントがないわけではありません。この記事では、そのヒントをご紹介します。


私は化学の教授を務めているので、助成金に関する知識のほとんどは、物理科学分野における助成金申請書の執筆や審査の経験から得られたものです。これまでに数え切れないほどの助成金申請書をリジェクトされてきましたが、幸いなことにいくつかはアクセプトされました。この記事の情報は、私自身の経験と、インターネットを使った調査や同僚とのやり取りに基づくものです。


1. 構成を考え、図を活用する:規定のページ制限が悩みの種になることが多いようです。あなたはこう思うかもしれません:「優れた研究アイデアをたくさん持っているのに、なぜページ制限なんかに縛られなければならないのか?」。そんなあなたには、ページ内のあらゆる空白が貴重に感じられるでしょう。ページを最大限に有効活用するには、どうすればよいのでしょうか?答えは、多くの単語を詰め込むことではなく、図を戦略的かつ慎重に活用することです。


図は大変重要です。申請内容を充実させられるだけでなく、レビュアーが読む文章量を抑えることもできます。図は、文章だけでは伝えきれない情報を与えられるものでなければなりません。文章で述べたことを言い直すだけなら、ページの無駄遣いにしかなりません。また、図内の単語は、十分に読める大きさにしなければなりません。別の文書で作成した図を縮小してそのまま貼り付けている申請書がよくありますが、縮小すると、単語が読めなくなる可能性があります。したがって、図のサイズが決まったら、そこに書かれている単語が読めるかどうかを必ず確認するようにしましょう。


2. ネイティブスピーカーに校正してもらう:申請書で使用する言語(外国語)を十分に使いこなせる人であっても、ネイティブスピーカーにしか分からない構文やニュアンスの誤りがあるかもしれません。そこで、申請書を校正してくれるネイティブスピーカーを見つけましょう。誰も見つからない場合は、インターネット上の膨大なリソースを活用して、校正ができそうなネイティブスピーカーを探してみましょう。言語のミスでレビュアーの心証を悪くすることは避けたいものです。


3. 具体的な目標を効果的に示す:研究目標を具体的に述べるページは、必ずしも用意されているとは限りませんが、多くの場合、プロポーザルの全体的な目標と、提案する研究についての概要を示すことができる要約/ページ/セクションがあります。レビュアーの中には、プロポーザル全体には目を通さず、具体的な目標が書かれた部分しか読まない人が稀にいます。また、まず目標に目を通し、申請書全体の印象を把握してからほかの部分を読むレビュアーも多いようです。プロポーザルの中でも、目標はきわめて重要な要素なのです。この大事な部分が、簡潔かつ明瞭に伝わるようにしましょう。プロポーザルの重要な点を強調するために、優れたデザインの図を少なくとも1つは用意して、視覚的にアピールすることを強くお勧めします。


4. 簡潔明瞭な言葉・文章を使う:難解すぎる用語を使ったり、長く入り組んだ文を書いたり、むやみに複雑な文章を綴ったりしても、それを評価する人はいないでしょう。分かりやすく明確な言葉を使うことが肝心です。ある一文が長すぎると感じたら、分割してみましょう。一般的な文書よりも、細かく段落分けをしましょう。そして、同じ分野で専門の異なる人に読んでもらい、読みやすかったどうかを聞いてみましょう。レビュアーに注意深く読んでもらえる時間は、そう長くはありません。膨大な仕事量に疲れ切っているかもしれないからです。だからこそ、レビュアーがロポーザルの内容に集中しやすい言葉遣いと言葉選びを心掛けましょう。


5. 具体的に:「私はガンを治します」とは書かないようにしましょう。なぜなら、その可能性は高くないからです。その代わり、実施する実験と、その実験で分野にどのような知見を付与できるかを具体的に述べましょう。では、どの程度具体的に書けばよいのでしょうか?個人の考え方や研究分野にもよるので、この問いに明確に答えるのは難しいです。ただ、研究室のマニュアルほど細かく書く必要はありません(つまり、添加する試薬を列挙したり、反応時間を事細かに書いたりする必要はないということです)。ポイントは、研究計画の遂行に必要なことがきちんと考慮されている、ということがレビュアーに伝わる程度の具体性です。以下に例を挙げましょう:


細かすぎるWe will measure 10 mg of a sample and put it into an NMR tube and then add 1 mL of deuterated solvent.(測定した10mgのサンプルをNMRチューブに投入し、1mLの重水素化溶媒を加える。)


大まかすぎるWe will use NMR spectroscopy.NMR分光法を用いる。)


程よく具体的1We plan to use 1H NMR spectroscopy to measure binding constants, through monitoring signal changes of the guest as a function of concentration of host.(ホストの濃度関数としてゲストの信号変化を観察することで、1H -NMR分光法を用いて結合定数を測定する。)


程よく具体的2We will use 1H NMR spectroscopy to measure binding affinities, following well-established literature precedent.(十分に確立された先行研究の例に従い、1H -NMR分光法を用いて結合親和力を測定する。)


注意:最後の例文は、先行研究が十分に定着している場合のみ有効です。もしも十分に定着したものでない場合、レビュアーはこの部分を理解するために文献を調べなければならいので、レビュアーの仕事を増やすことになってしまいます。


6. 発生し得る問題と代替手法を述べる:これは非常に重要です。経験のある人なら、研究は計画通りに進まないこともあると知っています。実際、ほとんどの場合、何らかの問題は発生するものです。プロポーザルでは、発生し得る問題と、それを解決するための実行可能な代替案を考えていることを示さなければなりません。レビュアーに、「この申請者は計画が上手くいかない可能性を考慮しておらず、代替案も持っていない」と思わせることは避けましょう。


補足:このセクションが難しいのは、挙げる問題が現実的かつ具体的でなくてはならない点です。たとえば、「A potential problem is that everything will fail,(すべてが失敗する可能性がある)」と書いたり、「I will throw everything in the trash and burn down the building.(すべて廃棄し、建物を燃やす)」という解決策を書いたりするわけにはいきません。そうではなく、例えば以下のように書きましょう:


発生し得る問題:Challenges in characterizing the molecules using spectroscopic techniques may arise due to the high flexibility of the molecular structures.(分光技術を用いた分子の特性評価において、分子構造の柔軟性の高さによって問題が生じる可能性がある)


この問題の解決策:We will investigate alternate techniques, including microscopic imaging, to characterize the structures so that we do not rely solely on spectroscopic techniques.(分光学的手法のみに依存しないよう、顕微鏡イメージングなどの代替手法による構造特性評価を検討する)


7. スケジュールを述べる:「発生し得る問題と代替手法」と同様に、スケジュールを述べることで、研究について詳細に考えていることと、その計画が実現可能であることをレビュアーにアピールすることができます。また、スケジュールを述べることによって、研究のもっとも重要な部分、もっとも時間を要する可能性が高い部分、比較的迅速に完了できる部分などを伝えることができます。スケジュールは、文章ではなく表を使って視覚的に示すことをお勧めします。インターネットで調べれば、助成金申請書用の、分かりやすいスケジュール表の例が見つかるはずです。


8. 申請書を印刷する人はいないものと考える:実際に誰が申請書を審査するかは分かりませんが、この時代に文書を印刷してレビューする人は少ないと考え、電子機器を通してレビューされることを想定しましょう。つまり、画面上でもっとも読みやすいフォーマットに整える必要があるということです。画面上での読みやすさを最大化するには、段組みにしない、白い背景に暗色のフォントを使う、図表は一目で全体が把握できるようにする(上下のスクロールが不要)、などが一般的なポイントです。


9. ガイドラインを順守しているかどうかを二重三重にチェックする:アクセプト率がきわめて低いことから、レビュアーは、基本的に申請書をリジェクトする理由を探しています。ガイドラインの規定(マージン、フォントサイズ、参考文献のフォーマットなど)が守られていない申請書は、リジェクトする理由を自ら与えているようなものです。そのような理由を与えないように、ガイドラインをすべて守っているかどうかを厳重にチェックしましょう。チェックが終わったら、もう一度チェックしましょう。そして念のため、さらにもう一度チェックしましょう。


10. カバーレターでレビュアーをリクエストする:多くの場合、審査者の決定に影響を与えられるチャンスがあります。NIHでは、特定の研究部門への割り当てをリクエストすることができます。NIH以外の助成金申請書でも、カバーレターでレビュアーをリクエストすることができます。この機会をぜひ利用しましょう。その場合、申請書を適切に審査できて、分野に最低限の知識を持っていて、利益相反のないレビュアーをリクエストしましょう。ただし、分野の第一人者は多忙である可能性が高いので、指名は避けましょう。また、まったくの新米研究者も候補から外しましょう。実際に審査が依頼される可能性は低いからです。最善策は、親密すぎないもののある程度の交流があって、自分の研究と何らかの関連性がある研究を行なっている、准教授レベルの人をリクエストすることです。


もしも申請書がリジェクトされても、落胆しないでください。ほとんどの申請書はリジェクトされるものなのです。申請の機会はまたあります。また申請すればよいのです。多くの場合、フィードバックにしたがって修正した申請書を、同じ助成機関に再び提出することも可能です。とにかく、諦めずに申請し続けましょう!


参考資料:

1. https://report.nih.gov/success_rates/Success_ByIC.cfm

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