プランSの最新状況と今後の見通し

プランSの最新状況と今後の見通し

世界各国の資金提供者と慈善団体のコンソーシアム(「cOAlitionS」)が2018年に開始したプランSは、学術論文に即時かつ無料でオンラインアクセスできるシステムへの移行を迅速に進めることを目的とした取り組みです2。実施ガイドラインでは、公的助成金を得た研究をオープンなリポジトリやジャーナルで公開することを2021年までに実現することを目指していました。プランSの10の原則は次のように要約できます。1) 学術出版物は出版後すぐにOAで公開しなければならない(ペイウォールやエンバーゴは課さない)。2)クリエイティブコモンズライセンスはCC-BYを推奨し、著者もしくはその所属先が著作権を保持する。3) 購読型ジャーナルとハイブリッドジャーナルは完全OAへの転換を約束しなければならない。


プランSのこれまでの展開


ここで、プランSの構想から施行までの流れを見ておきましょう。

 

2018

  • 9月:プランSが始動。2020年1月に施行を予定。
  • 11月:実施ガイダンスがリリースされ、コンプライアンスの方法として次の3通りが示された:1) OAのジャーナルまたはプラットフォームで公開する。2) エンバーゴを課さずにOAリポジトリに公開原稿(VoR)または著者承認原稿(AAM)を寄託する。3) 転換契約を条件としてハイブリッドジャーナルで出版する。

 

2019

  • 6月:実施ガイダンスの改訂版がリリースされ、施行予定が2021年1月1日に延期された。

 

2020

  • 7月:研究者の知的所有権を保護するための権利保持戦略(RRS)を作成。
  • 11月:シュプリンガー・ネイチャーがプランSの転換ジャーナルの枠組みを採用。
  • 11月:プランSに準拠しているプラットフォームを確認できるツール、Journal Checker Tool (JCT)が公開された。

 

2021~

  • 1月:サイエンス誌を発行するAAASがプランSのグリーンOAルールに沿ったOAポリシーの支持を発表。また、エルゼビアのジャーナル160誌がプランSに沿った転換ジャーナルとなった。
  • 2月:エルゼビア、Wiley、シュプリンガー・ネイチャーをはじめとする数十の出版社がRRSへの反対を表明。
  • 5月:ジャーナルの価格とサービスの可視性を高めるための無料サービス、Journal Comparison Service(JCS)がリリースされた。
  • 2022年7月までに、プランSの価格協定を満たす出版社のみがOAのための資金を得られるようになる予定。

 

これまでに出版社約15社とジャーナル2,240誌が転換ジャーナルの枠組みに参加しています3

 


研究者にとってのプランS

 

・制約が厳しすぎる?

cOAlition Sメンバーから資金提供を受けた研究の論文は、ゴールドOA、OAセルフアーカイビング(グリーン)、または転換契約を結んだハイブリッド/購読型ジャーナルのいずれかで公開しなければなりません。そのため、論文を出版するジャーナルを選ぶ際の自由度が下がるという主張もあります。

 

プランSを承認する国際機関は、研究資金を提供する際に、研究者の活動地域にかかわらずコンプライアンスを義務付ける場合があります。資金提供者のOAポリシーと準拠ジャーナルは、データベースSherpa Julietで確認できます。プランSへの準拠状況は、Sherpa RomeoとJCTで確認できます。後者は、ジャーナルを選ぶ際に資金提供者のOA義務をどうすれば満たせるかを確認するのに便利です。

 

・「権利の保持」に関する論争

権利保持戦略(RRS)に関わる対立を回避するためには、論文を投稿する際に、cOAlition Sの資金提供者のポリシーに従って著者承認原稿(AAM)にCC-BYライセンスが適用されることをジャーナルに通知することが必要です。この点を確認しておかないと、後で問題が生じる可能性があります。つまり、(AAMにエンバーゴを設定することで)資金提供者の助成条件に違反するか、(AAMにエンバーゴを設定しないことで)出版契約に違反する恐れがあるということです。前者の場合は将来の資金調達に影響を与える可能性があり、後者は出版社による法的措置に発展する恐れがあります。

 

・分野別の問題

プランSの大きな問題は、論文掲載料(APC)への助成が社会科学や人文科学では一般的でないことです。この点がSTEM分野とは異なるところです。STEM分野では、物理学の研究は何十年にもわたってプレプリントとして公開されており、化学は学会誌、とくにAmerican Chemical Society(ACS)誌が支配的です。ちなみにACSは最近、ハイブリッドジャーナル一式をプランSに沿った転換ジャーナルにすることを宣言しました4

 

プランSは、多様な分野の課題と出版慣行を検討する必要があるでしょう。

 


ジャーナルと学会誌にとってのプランS

 

・展開を追う

出版社は、規模の大小を問わず、プランSのガイダンスと施行の展開を追っていく必要があります。完全なオープンアクセスジャーナルでも、いくつかの微妙な要件を満たす必要があります。どのジャーナルも、プランSの施行に関するテクニカルガイダンスの最新版を念頭に置いておかなければなりません。

 

・持続可能性の問題

学会誌を含む小規模の独立出版社はジャーナルの購読料に依存しているため、OAへの完全な移行は困難です。同様に、ニッチな分野を扱うジャーナルも維持に苦労することが予想され、廃刊か商業出版社との合意形成かの選択を迫られる可能性があります5。そのため、小規模出版社の移行を支援するためのコラボレーションと調整が必要です。総じて出版社はOAに賛成しているものの、主に金銭的側面に関する意見の不一致から、プランSへの準拠には躊躇が見られます。



プランSの地域別の展開
 

・欧州

欧州が主導するプランSは、世界中の学術出版慣行に影響を与えるため、幅広い関心を呼んでいます。cOAlition Sのメンバーは世界中の研究者に資金を提供していますが、メンバーには主に欧州18か国の資金提供組織が名を連ねています。欧州内では意見の相違が見られ、ドイツは国内大手商業出版社との「Read & Publish 契約」にサインしていません6

 

・ラテンアメリカ

ラテンアメリカでは非営利のOAエコシステムが以前から整備されており、公的資金によるイニシアチブ(LatindexSciELORedalycなど)によってAPCなしでのOAが可能になっています。プランSが構想されていた頃にはすでにAmeliCA(ラテンアメリカおよび南北問題におけるオープンナレッジ)が具体化していました。PlanSとAmeliCAは同じ原則に基づいているので、ラテンアメリカの国々はプランSに参加する必要性を感じていません。

 

・アジア

OAモデルへの移行に関心を示している中国は、プランSに明確に言及しています。インドは当初こそ関心を示したものの、その後は元のスタンスに戻りました。これは、プランSの有料公開モデルが実現可能でない懸念があるためです。OA自体は支持しているインドは、目標を持続的に達成していける独自の手段を模索しており、インドの全国民が論文にアクセスできるようにする"one nation, one subscription"のジャーナルアクセス計画が検討されています7

 

・米国

米国は、希望するジャーナルで出版する自由が侵害されることを主な理由として、プランSへの参加に抵抗を示しています。ただ、ウェルカム・トラストの米国拠点やビル&メリンダ・ゲイツ財団は、cOAlition Sのメンバーとして米国をはじめとする世界中の研究者に資金を提供しています。また、大学は出版社と交渉することが可能です。たとえば、カリフォルニア大学とエルゼビアは4年間の転換契約を交わしました。この契約により、大学の研究者はOA論文を出版でき、エルゼビア誌のコンテンツを閲覧することができます。

 

・アフリカ

アフリカ科学アカデミーと南アフリカ医学研究評議会は、一部の研究者が批判を表明してはいるものの、cOAlitionSのメンバーになっています8。取引の交渉で不利な立場にある低所得の国や機関にとって、Read & Publish 契約に達することは難しく、そのため、資源の乏しい国と資源に恵まれた国の間の隔たりが深まっています。論文を多く出版している国々の中には、システムの公平性は評価するものの、支援には慎重な態度を示しているところもあります。

 


プランSの今後

 

出版物やデータへの自由なアクセスに向けた出版プロセスの調整は、「ニューノーマル」として歓迎されています。プランSは、大規模商業出版社にビジネスモデルの再構築を促しました。プランSの施行には、APCの使い道の透明性を高め、著者とジャーナルの可視性と影響力を高めることが期待されています。

 

プランSは、OAとオープンサイエンスを活性化しました。その包括的な目的にはほとんどの利害関係者が賛同しています。今後は、プランSの実施についてグローバルな公式協議を行い、若手研究者や発展途上国への経済的影響を評価する必要があるでしょう。プランSの影響と成功は、研究資金提供者の大多数が参加するか否かにかかっていると言えそうです。

 

参考資料

  1. Piwowar, H., et al. The state of OA: a large-scale analysis of the prevalence and impact of Open Access articles. PeerJ 6: e4375 (2018)
  2. Kulkarni, S. Plan S: The nuts and bolts. Editage Insights (2019) https://www.editage.com/insights/plan-s-the-nuts-and-bolts
  3. The sOApbox. Transformative Journals: an initial assessment. The sOApbox (2021) https://www.coalition-s.org/blog/transformative-journals-an-initial-assessment/
  4. The sOApbox. ACS Publications commits its entire hybrid journal portfolio to become Plan S-aligned Transformative Journals The sOApbox (2022) https://www.coalition-s.org/acs-publications-commits-its-entire-hybrid-journal-portfolio-to-become-plan-s-aligned-transformative-journals/
  5. Ekanyaka, S. Plan S and scholarly publishing: Some lessons learned. Scholarly Kitchen (2022). https://scholarlykitchen.sspnet.org/2022/03/08/guest-post-plan-s-and-scholarly-publishing-some-lessons-learned/
  6. Projekt DEAL. https://www.projekt-deal.de/about-deal/
  7. Mallapaty, S. India pushes bold ‘one nation, one subscription’ journal-access plan. Nature 586, 181–182 (2020)
  8. International Science Council. Plan S is a grand plan, but the devil is in the detail: Robin Crewe on Open Access in South Africa. International Science Council (2019) https://council.science/current/blog/plan-s-is-a-grand-plan-but-the-devil-is-in-the-detail-robin-crewe-on-open-access-in-south-africa/

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