「ファージ療法」:慢性疾患に対する新たな治療方針

「ファージ療法」:慢性疾患に対する新たな治療方針

革新的な研究アイデアを生み出すには、一般に、学際的アプローチが有効です。
ここでは文献レビューの一部として展開されたアイデアを例に挙げようと思います。
 

薬物耐性のある細菌感染の治療にファージを使うことの効果が、研究によって確認されています。腸内に病原性細菌種がいるために、肥満糖尿病のような好ましくない結果が生じるおそれがあります。
しかしながら、疑問が1つ残ります。

ファージの宿主特異性の高さを慢性疾患の予防・治療法を確立するために活かすことができるのでしょうか?


人間の体には何兆もの細菌や微生物がいます。微生物は、皮膚の上にも、腸管にも、口にも、他の部分にもいます。解剖学上の部位で見つかる微生物は一般的には、正常細菌叢(normal flora)といい、常在微生物叢(indigenous microbiota)と呼ばれることもあります。フローラ・ゲノミクス(Flora genomics)とは、正常細菌叢について研究する分野です。これらの細菌の多く(特に腸内細菌)は、人間の健康を維持するため重要や役割を担っています。


数年前のことですが、アメリカの科学者がヒトマイクロバイオーム計画(Human Microbiome Project)の一環として、これらの細菌種について調査しました。研究の結果、健康な成人には1万種を超える様々な細菌種が存在していることが明らかになりました。腸内のある種の病原性細菌には、肥満性糖尿病やその他の病気を引き起こす可能性があることを示した研究もあります。そうした細菌の増殖を抑えることにより、健康が改善し、病気が治ることすらあるのです。特定の抗生物質の使用は、細菌を殺す一番簡単な方法です。
けれども、抗生物質の重要なデメリットは、選択性に乏しく、有益な腸内細菌叢を乱してしまうことです。ですから、慢性疾患の治療に適した方法とはいえません。これらの疾患の予防・治療には、細菌に対抗するためのもっと具体的な方法が必要です。


冷戦のせいで、かつてのソ連の患者は、欧米で開発された先進的な抗生物質を手に入れるのが困難でした。この障害を克服するため、かつてのソ連は、細菌感染と戦うのに適したウイルス(バクテリオファージ)治療の開発を進めるグループに多くの資金を注ぎました。ロシア、グルジア、ポーランドでは今でもバクテリオファージ療法が非常にさかんです。ただし、他の国ではこの療法は承認されていません。


抗生物質耐性の驚くべき増加を受け、欧米の科学者と政府は、バクテリオファージ療法が細菌の薬剤耐性に対処する代替治療方針にならないか、熟考し始めています。2014年3月、国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIH、アメリカ) )は、抗生物質耐性に対処する7つの方法の1つとして、バクテリオファージ療法を挙げました。


2014年5月ボストンで開かれたアメリカ微生物学会会議(American Society for Microbiology Conference)にて、スイスにあるローザンヌ大学のグレゴリー・レッシュ(Grégory Resch)教授が Phagoburnプロジェクト(マイクロファージ療法に関する、ヨーロッパで立ち上げられた初めての多施設臨床試験プロジェクト)を紹介しました。EUがイニシアティヴを取っている、この研究プロジェクトの目的は、ファージを用いた、ヒト感染症治療法を開発することです。


ファージ療法の主な利点は、その宿主特異性にあります。ある種のファージは、ある種の細菌種だけに侵入し、宿主を殺します。正常細菌叢内で有害な細菌だけを標的にするには、正確さが必要です。ファージには、宿主となった特定の細菌種だけを感染させるという独特の能力があるため、ファージの利用によって正確な攻撃が可能になるのです。何年もの研究により、ファージと、ファージが宿主にする細菌は比較的容易に特定できることに、科学者たちは気づきました。自然な環境はファージにとって最大の資源であり、相互感染が起こるのは非常に稀です。理論的にいえば、ほとんど一つ一つの細菌種が、それに対応する1個以上のファージに感染することになります。


さらに、遺伝子工学の進歩により、標的とする細菌を特別に感染させることができる人工ファージの作成も可能になりました。先日、合成生物学者のティモシー・ルー(Timothy Lu)氏とマサチューセッツ工科大学の彼の研究チームが、DNAプログラミング技術(CRISPR)を使って人工的に作り出されたファージを作成しましたが、それは薬物耐性細菌だけ特別に感染させ、殺すことができるファージです。

このファージは、RNAの断片とともに、薬剤耐性遺伝子を運ぶ標的細菌に侵入します。その細菌が薬剤耐性遺伝子をI運んでいるとすれば、RNAの断片により、遺伝子の配列をわからなくしてしまうことができるのです。それによりさらに、Cas9酵素が細菌のDNAを切断し、細菌を殺せるようになります。今後、こうした方略を使い、もっと多くの人工ファージが作成されるでしょう。


要するに、自然界のファージ、人工のファージとも宿主特性が効果的に使われ、特定の細菌を攻撃できるのです。腸内細菌叢の調整による適切な予防法の確立、慢性疾患の効果的治療に対し、このファージの特性が役に立つでしょう。この手法の効果と特殊性を実証するには、適切な動物実験を計画しなければなりません。対人臨床試験は、この治療法の長期的安全性が確立された後でのみ、その効果を評価するため行うことが可能です。唯一、この治療法に関するリスクは、腸内細菌叢が乱れ、疾患の予防・治療という目標が失敗するかもしれないということです。

 

 

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