パテントトロールとは?―イノベーションへの影響を探る

パテントトロールとは?―イノベーションへの影響を探る

"トロールは北欧神話に登場する小さくて邪悪な生き物で、たいていは橋の下に住んでおり、旅人が川の向こう岸に渡り切れないよう困らせるものです。パテントトロールもそれと同じで、取り消し不可能な投資をした企業に突然襲い掛かってくるものとしてと非難されています"

アレイン・ストロウェル(Alain Strowel)

「欧米におけるパテントトロールのリスク:果てしなき物語の行方」(The risk of patent trolls in the U.S. and in Europe: a sequel to a never ending story)より


悪質なパテントトロール(特許トロール)の問題が科学のイノベーションに悪影響を及ぼし始めてから、何十年という時間が経過していますが、知的所有権分野の学者51名が米国議会に提出した、「The Rewards From Effective Reform Could Be Great(効果的な改革による見返りは大きいであろう)」と題された手紙は、悪質なパテントトロールが増加しており、その防止が必要であることを如実に表しています。以前はPAE(patent assertion entities、特許搾取者)あるいはNPE(non-practicing entities、特許不実施主体)とも呼ばれていたパテントトロールは、通常、商品開発の意図を持つことなく、幅広く特許を所有あるいは獲得する個人や企業を指します。パテントトロールについて定まった定義はありませんが、その主な目的は、NPEが所有する特許をある企業が侵害していると理由づけ、多額のライセンス料を支払わなければ訴訟を起こすと脅し、特許訴訟によって金銭的利益を得るというものであると認識されています。

興味深いことに、商品開発をしようとして出だしでつまづき、そこからパテントトロールになるケースもあるということです。失敗した場合、パテントトロールになり、特許権と引き換えにライセンス料として大企業に金銭を要求するほうが儲かるからです。他にも、倒産しそうな企業から特許を獲得し、大企業に特許権が侵害されたと申し立てて法的に脅すケースもあります。多くの大企業を同時に標的にし、特許侵害の例を多数引用し、弁護が困難で高い訴訟費用を払わなければならないと相手に思わせるようにするのが、通常のやり口です。このため、大企業は特許侵害で訴えられることを避け、法廷の外で和解したほうが得策だと考えることもあります。NPEが大企業に恐れられるのは、NPE側には通常、大きな資産がないため、たとえ訴訟で負けてもリスクが低いという点です。

パテントトロールは世界中で起きている現象で、法的・経済的に甚大な影響があります。最近発表された論文によると、NPEは2014年の米国の特許侵害訴訟の63%を占め、企業は推定122億ドルを訴訟や和解、裁判に費やしているとのことです。企業は、法廷闘争に巻き込まれることで商品の発売が遅れたり、株価が下落することもあり、訴訟費用以外の経済的損失を被ることもあります。


世界で増加するパテントトロール

パテントトロールは世界中で増加しています。パテントトロールが増加している主な原因の1つに、世界中で特許付与件数が増加していることが挙げられます。世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization, WIPO)の報告によると、2012年の特許申請数は世界で9.2%増加しており、過去18年間で最高の伸び率を示しています。特に米国などの先進国では、特許申請件数の伸び率が急激に高まっています。評論家の中には、これはイノベーションの急増というより、特許付与機関の水準が低いことを示している、と主張する人もいます。特許庁が承認する特許の多くは、対象範囲が広すぎて一般的過ぎるというのがその理由です。その結果トロールが、さまざまな理由をつけて、多くの企業を特許侵害の標的にできるようになってしまうのです。企業側としては、自分たちが知的所有権を侵害しているのかどうかを確認することが難しいため、トロールの餌食となってしまいます。


大学は果たしてNPEか?

自らの発明で特許を取得するものの、通常は商品化をしないことから、大学もNPEであると主張する学者が存在し、大学もまた、論争の俎上に上げられてきました。大学は、商業目的で特許を利用したい企業に対して、金銭の支払いを求めます。一方、大学における発明は学術目的であり、社会に対する善行を目指すものであって、パテントトロールのように企業からお金を巻き上げようと目論んでいるわけではないため、両者を同様に論じるべきではないとする意見もあります。ライセンス料で利益を上げようとしてトロールとみなされた企業と契約を結んだために、批判を受けている大学もあります。トロールに対処するための法律は大学にも適用されるため、大学は特許改革のただ中に置かれています。このため、パテントトロールを防止する政策や法案を作成するにあたっては、大学の保護も検討する必要があります。


パテントトロールにより複雑な問題に取り組む

立法府がパテントトロールを減らすような特許改革案を考えることは、大変難しいということが分かっています。パテントトロールが原告としてうわべだけの訴訟を起こそうとするのを防ぎ、なおかつ本来の特許権者や大学を保護できるように完璧なバランスをとることは、ほとんど不可能と言ってもよいでしょう。米国のオバマ政権は、トロールに対する取り組みを最優先事項の1つと考えており、2013年に下院で‘Innovation Act(革新法)’を提案する法案を通過させましたが、特許改革方針の作成は複雑なため、同法案は結局取り下げられました。

専門家の多くは、トロールの抑制には、特許付与のルールを抜本的に改革することが重要だと考えています。2015年6月2日、上院司法委員会が革新法(Innovation Act)に代わる特許法(Patent Act)について討議する予定であり、その結果、「米国特許商標庁の特許審判部(PTAB)の運営方法に重要な改革がもたらされる」と報じられました。詳細な検討を経て特許が付与されるようにすることで、対象範囲が広すぎる一般的な特許だという批判の根を摘み取ることはできるかもしれません。


パテントトロールはイノベーションに貢献しているのか?

さらに、パテントトロールの全面的な阻止を試みる法律が制定されることによって、バランスが崩れる可能性もあります。というのも、パテントトロールによって科学的進歩が阻害され、経済的な負担が強いられているという批判は確かである一方、NPEが実はイノベーションに貢献していると考える専門家もいるからです。スタンフォード大学の政治学教授であるステファン・ハーバー(Stephen Harber)氏は、PAEは個人発明家と大規模製造業者の間で、仲介者として有効な役割を担っていると考えています。米国政府がまとめた報告書も、以下のような文言でこの考えを支持しています。「特許を保持していながら商品を製造しない企業は、米国のイノベーションという生態系の中で重要な役割を果たしている。そのような企業は、製造業者と発明家を結び付けるなどして、発明家が得意なことに集中できるようにしている」

特許システムは、国の経済的・科学的な発展にとって重要なものです。特許の誤った使い方を防ぐためには、特許の規模を精査し、特許が科学の成長と進歩を阻むことがないよう、新たな仕組みについて慎重に考えていく必要があります。

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