「教授になるまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした」

「教授になるまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした」

smartsciencecareer」をご存知ですか?これは、研究生活で直面するさまざまな困難に立ち向かい、研究者として適切なキャリア選択を行うスキルを養うためのアドバイスを提供するコミュニティです。このインタビューでは、smartsciencecareerの創設者で、ハッセルト大学医学・生命科学部(ベルギー)の学部長兼神経解剖学教授を務めるスヴェン・ヘンドリクス(Dr. Sven Hendrix)博士にお話を伺います。ヘンドリクス博士は、自分の知識をほかの研究者たちと共有し、「若手研究者がキャリアの分岐点に差し掛かったときに持つさまざまな疑問」への答えが得られる手段として、smartsciencecareerを起ち上げました。このプラットフォームでは、適切な職探しや、リーダーシップスキルの身につけ方などについて、役立つアドバイスを提供しています。また、研究者向けのオンラインコースや、若手研究者をサポートするためのイベントなども開催しています。


ヘンドリクス博士は、ベルリンで医学を学ぶ中で科学への情熱に目覚めました。2002年に博士号(医学)を取得後、専門家として研究チームの主任、解剖学者、プロジェクトリーダーといったさまざまな役割をこなしてきました。2007年に神経免疫学でHabilitation(訳注:ドイツにおける研究と教育を行うための資格)を取得した後は、教授となり、ハッセルト大学解剖学科学科長、生物医学研究所(BIOMED)副所長、オランダ解剖学会会長など、さまざまな職務を担いました。


今回のインタビューでは、smartsciencecareerを起ち上げた動機や、このプラットフォームが科学コミュニティにどのように貢献しているかについて伺いました。また、キャリアに関するアドバイスのほか、研究者や科学者として倫理的問題や内部告発にどう向き合うべきかについてもお話し頂きました。


smartsciencecareer起ち上げの経緯を教えてください。

いつの時代も、博士課程の学生やポスドクは、以下のような疑問を抱えています:

  • 「研究するには海外に出た方がよいのか?」
  • ScienceNatureなどの一流誌に論文が掲載されないと研究者としてやっていけないのか?」
  • 「学術界でのキャリアと企業への就職、どちらを選ぶべきか?」


数多くの博士課程学生やポスドクを指導してきた中で、このような疑問を、数え切れないほど耳にしてきました。私は医学部の学部長として、若手研究者100人以上のキャリア開発に責任を負っていますが、彼らが抱えている疑問は、決まって上記のようなものでした。そのような経緯で、生命科学分野の博士課程学生やポスドクが正しいアドバイスを得られるように、上記のような疑問への答えを自分のブログ「smartsciencecareer」に載せることにしたのです。


smartsciencecareerで扱うテーマはどのように決めているのですか?

初めは、自分が科学者としてのキャリアをスタートさせたときに知っていればよかったと思う事柄をすべて扱っていました。私自身、多くの過ちを犯しましたし、ひどいアドバイスもたくさん受けました。私の思いとしては、若い科学者たちにより良いスタートを切ってほしいという一心です。


私たちは、博士課程学生やポスドク向けのコースやシンポジウム、サマースクールなどを、大学や国家レベルで何百回も開催してきました。若手研究者は、自分たちが必要とするものを明確に伝えてくれるので、ブログで扱うテーマには、これらのニーズに応えたものも含まれています。


コミュニティに参加した研究者からは、どのようなフィードバックがありますか?

感謝を伝えるメールや、新たな質問が数多く寄せられています。とくに、博士課程のネットワークが確立されていない欧州圏外からのものが多いです。


Smartsciencecareerウェブサイトで、「私が学術界でたどって来た道は長く険しいものだった」と述べられていますが、どのような困難があったのでしょうか。

教授になるまでの道は、決して平坦ではありませんでした。公募があれば応募するということを2年以上繰り返しました。その間、教授を目指すほかの若手研究者たちと何度も顔を合わせました。これらの公募のほとんどは上級職(教授職)の募集で、若い志願者にとってはきわめて狭き門だったのです。これは、私たちにとって非常にフラストレーションの溜まる状況でした。結局、国外の公募を受けることにしたところ、すぐに英国の著名な大学や、規模は劣るもののデンマークとベルギーの大学から誘いを受けました。契約の交渉には骨を折りましたが、非常にエキサイティングな経験でした。最終的には、もっとも良いオファーをくれたベルギーの大学に行くことにしました。


博士は、ベルギー以外にもさまざまな国での生活・留学・就職経験をお持ちです。これは、学術界で研究を続けてキャリアを構築していくために多くの研究者が見習うべきことですが、外国に行くことを困難に感じている人も多くいます。研究者が国外に出るためのアドバイスはありますか?

私の経験については、「Nine reasons not to go abroad – and how to handle them!(国外に出ることの9のデメリットとその解消法)」という記事をお読み頂ければと思います。国外に出ることのもっとも難しくもっともおもしろい側面は、言うまでもなく、その国の文化に溶け込むということです。差別や孤独、文化の違いによる過ちなど、多くのマイナス面の経験もすることになる一方で、非常に強くなれる、自信がつく、成熟できる、文化の違いを受け入れる術が身に付く、科学的リーダーシップの考え方の違いを知るといった、プラスの作用もあるでしょう。


研究者のキャリア選択においてよくある間違いとはどのようなものですか?彼らにどのようなアドバイスを送りたいですか?

欧州でもっともよく目にする間違いは、若手研究者の90%以上が学術界でのキャリア構築を志す中で、実際に学術界に残るのは10%程度であり、教授になれるのはそのさらに半数しかいないということです。とは言え、失業率が非常に低いので、博士号取得者のほとんどは何かしらの職に就けます。若手研究者は、博士課程のごく早い段階から、企業や病院、政府機関などで働く人々と話をして、キャリアオプションについて学んでおくべきでしょう。


もう1つのよくある間違いは、優れた出版業績が将来のキャリアのために本当に重要なのかどうかをよく検討することもなく、インパクトファクターを盲信することです。


博士が共著者として名を連ねている論文Both Whistleblowers and the Scientists They Accuse Are Vulnerable and Deserve Protection(内部告発者と告発された科学者はいずれも保護を必要とする弱者である)」を見つけたのですが、これについての解説をお願いします。

私の指導教官だった2人の研究者は、不当に科学不正の告発をされたことがあります。これは、彼らだけでなく、(私も含めた)共著者全員にとって悲惨な経験でした。私たちは悪いことは何もしていないと確信していましたが、この告発によって自分たちのキャリアが終わってしまうのではないかと脅えることになりました。さらに悲惨だったのは、いわゆるインターネットの「荒らし」のような自称「告発者」に脅されていたことです。公式な調査で「告発は不当である」という結論が出るまでに数年を要しました。


残念ながら、西欧の研究機関のほとんどは、告発された科学者を放置し、自機関の評判ばかりに目を向けます。また、内部告発者は保護されなければなりません。ほとんどの場合、内部告発は非常に勇気のいる行動だからです。内部告発をすることで、同僚や友人、職を失う可能性がありますし、精神的な負担がかかるかもしれません。同じことが、告発された科学者にも言えるのです。


これに関連したインタビューで、「科学コミュニティは虚偽(あるいは真実)の告発を受けた側の感情的・社会的影響について無関心」と述べられています。科学コミュニティがこれらの影響を理解するためにはどうすればよいとお考えですか?

研究機関に、内部告発者だけでなく告発された側に対する自分たちの責任を知ってもらうことが、私たちの使命だと考えています。研究公正を扱うコミュニティでは、この側面への関心が高まっているので、この問題を解決するための信頼できるプロセスが生み出されると信じています。告発された研究者は、そのプロセスおよび不正疑惑を調査する委員会を信頼できてはじめて、調査に協力するでしょう。信頼できなければ、誠実な研究者でさえ、身構えてしまうはずです。


不正行為の事例に遭遇して、情報を公にすることあるいは関連機関に注意の目を向けさせることを考えている研究者にアドバイスをお願いします。

まずは、その状況にどう対処すべきかを助言してもらえる、信頼できる人物を探すことが肝心です。1人で行動してはなりません。インターネットの情報で戦略を練るようなことはしないでください。ネット上には、的外れで紛らわしいアドバイスが蔓延しています。所属大学のオンブズマンや、その件にまったく関わっていない政治的経験の豊富な先輩など、信頼できる人を探しましょう。


研究者が不当な告発を受けた場合、どうすればよいですか?

(それが真実か否かに関わらず)研究不正の告発を受けたときは、私のブログ記事「What to do when you are falsely accused of scientific fraud?(不当な研究不正の告発を受けたらどうすればいい?)」を読んでください。そのような状況への実践的な対処方法を、順を追って説明しています。


博士は、博士号だけでなく医師の資格もお持ちで、複数の学術的・専門的職務を担っています。そのような多忙な状況の中で、「現在の環境でも、良好なワークライフバランスを保っている」と述べておられます。良好なワークライフバランスを保つ秘訣は何ですか?

実際、たいていは良好なワークライフバランスを保てています。同僚たちから集めた役立つアドバイスを、「12 strategies to combine a successful career in science with a healthy family life(科学者としての成功と健全な家庭生活を両立するための12の戦略)」というブログ記事にまとめています。この記事に書かれていることはすべて真実ですが、残念ながら、必ずしもここに書かれている通りに上手くいくわけではありません。大きなフラストレーションが溜まる時期は私自身にもありましたし、それを乗り越えるのには長い時間を要しました。幸運だったのは、家族や友人のサポートに恵まれていたということです。若手研究者にとって、ワークライフバランスを意識することは重要なことだと思います。なぜなら、燃え尽きそうになっている人は、ほとんどの場合、それを隠し通そうとするからです。このような辛い経験をもとに、燃え尽きることなく頑張るにはどうすればいいかをテーマとした、低価格のオンラインコースを起ち上げました。このコースで、若い研究者たちが燃え尽きることなく、野心を持って科学に情熱を燃やせるようになればと願っています。


ヘンドリクス博士、素晴らしいアドバイスをありがとうございました!

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