AIが科学や研究に果たす役割とは?

AIが科学や研究に果たす役割とは?

人工知能(AI)は、今や私たちの日常の中に入り込んでいます。ソーシャルメディアのプラットフォームにポップアップ表示されるおすすめ商品の情報や、チャットボットとの会話など、私たちのほとんどがAIに触れた経験を持っているはずです。簡単に定義すると、AIとは、人間が同じ行動をとった場合に、「smart(賢い)」または「intelligent(知的)」と見なされる行動をとる機械のことを指します。


AIは、手間や時間のかかる作業を大幅に簡略化してくれるだけでなく、人間の知性から導き出される結果を真似ることができるため、さまざまな産業での導入が検討されています。科学的発見の過程をも変えてしまう可能性を秘めたAIは、研究者にとって非常に興味深い研究対象です。研究におけるAIの応用はまだ初期段階ですが、AIが研究者にもたらすかもしれない選択肢や可能性は無限大です。以下に、その具体例をいくつか紹介します。


データ分析


さまざまな研究分野で膨大な量のデータが氾濫しているように、研究者がデータを生成・保管できる能力は、年を追うごとに向上し続けています。ただ、大量のデータは、研究者がその中から傾向をつかんだり本質を見抜いたりすることを困難にすることがあります。AIが実現するディープラーニング技術なら、データ分析に関する研究者の作業の簡略化に重要な役割を果たすことができるでしょう。インテル社AI製品部門を率いるガディ・シンガー(Gadi Singer)副社長は、「ディープラーニング・システムに十分な事例を学習させれば、そのモデルにおける結果予測に優れた能力を発揮するでしょう。これにより、今まで数時間または数日かかっていたものが秒単位で終わるなど、仕事の効率化が実現します」と述べています。


新たな発見


人間の知性と、それを模倣する学習アプローチをとるAIのディープラーニング技術を組み合わせることで、既存の知見の活用に役立てることができます。シンガー氏は、新たな機械学習メソッドについて、「人間のDNAで起こり得るあらゆる突然変異のように、その対象物の範囲はほぼ無限大」であると述べています。つまり、科学の自動化によって、大規模な実験を適切に実行することができるようになるということです。また、「学術論文などの文書から情報を抽出して、検証すべき新たな仮説を見つけることを目的として」、AIが製薬会社にも導入されているのは興味深いことです。ここから、より新しく、より効果的な医薬品や治療法などの発見につながるかもしれません。AIはこのように、研究者たちがこれまで困難と見なしていた分野の発展に貢献し得る可能性を秘めているのです。


出版プロセス


学術出版は、研究を実施する上で重要な要素です。多くのジャーナル編集者や査読者が抱いている懸念の1つは、自分たちが扱う論文内のデータ、統計、参考文献、画像などの不備をすべて見つけることができているか、ということです。また、剽窃の検出も、論文審査の重要なプロセスです。これらのタスクにAIを組み込めば、不備の特定を効率良く正確にサポートしてくれるはずです。


研究や出版の一部領域では、AIはすでにアイデアから応用の段階へと移行しています。それらを具体的に見ていきましょう。


文献レビューの実施


データはあらゆる研究の基礎であり、研究テーマに関する先行研究のレビューは、研究プロセスの重要なステップです。しかし、出版論文の数が指数関数的に増加している昨今では、文献レビューに膨大な時間がかかることも珍しくありません。AIベースの文献検索ツールは、この作業を素早く効率的に終わらせるのに役立っています。たとえば、コンピューター科学者のクリスティアン・ベルガー(Christian Berger)氏は、自動運転アルゴリズムに関する研究を始めようとしたときに、文献レビューの一環として1万本以上の論文に目を通さなければなりませんでした。通常なら数ヶ月は要するであろうこの作業も、AI搭載ツールのIris.aiが何千本もの関連論文を解読し、テーマごとに分類してくれたことで、短時間で終わらせることができました。


出版プロセスの補助


大量の投稿論文を処理しなければならない学術誌は、AIを導入するのにもっともふさわしい立場だと言えるでしょう。ジャーナル編集者のきわめて困難なタスクとして挙げられるのは、論文の信頼性を判定することと、適切な査読者を選定することです。編集者は、適切な査読者探しや投稿論文の管理だけでなく、論文のアクセプト/リジェクトの決定を補助してくれるAIツールを求めています。実際、これらのタスクにAI搭載ツールを活用している編集者もいます。査読プラットフォームのScholarOneは先日、「編集者向けの意思決定支援サービスの提供や、査読時間を大幅に削減する可能性を秘めた論文スクリーニング性能の向上」を目的として、AIソフトウェア開発企業のUNSILOと提携したことを発表しました。AIはこのように、編集者が現在直面している困難の緩和と、学術出版の一層の迅速化と効率化のために、重要な役割を担っているのです。


AIに限界はあるか?


AIは科学や研究における希望と見なされがちですが、AIに限界はあるのでしょうか?研究が自動化される未来を思い描いている研究者がいる中で、ベルガー氏は、「研究エンジンを盲目的に使用したとしても、すべての疑問が自動的に解決されるわけではありません」と警告しています。AIはあくまでも科学的発見を補助するものであり、現状では、AIが生成する結果や分析を、人間がブラッシュアップする必要があります。また、AI搭載のツールやソフトウェアは高額であるため、これらを利用できる研究者は限られています。


研究の自動化によって導き出される結果や推論は、公平かつ正確で信頼性が高いとみなされる傾向がありますが、AIの活用に注意すべき学術出版プロセスもあります。査読プロセスにAIを導入することについて、ライター/エディターのダグラス・ヘブン(Douglas Heaven)氏は、「先行論文を基に学習した機械学習ツールは、既存の査読におけるバイアスを強化する可能性がある」と指摘しています。したがって、AIの信頼性が向上したとしても、人間の介入と意思決定は今後も重要な役割を担うでしょう。


さまざまな課題が残されているAIですが、科学を新たな高みに導き、その発展と進歩の希望となることが期待されています。


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