所属先のサポート体制に満足していますか?―研究者14人の体験談

所属先のサポート体制に満足していますか?―研究者14人の体験談

[注:この記事には、学術界のメンタルヘルスに関するグローバル調査からの回答が含まれています。デリケートでプライベート性の高いトピックですが、少数の回答者から、匿名を条件に体験談を紹介することへの同意が得られました。]


調査のさまざまなトピックの1つに、「研究者たちは職場でどのようなサポートを受けているか、またはどのようなサポートが不足しているか」というものがあります。私たちは、現在のサポート状況に研究者たちが満足しているのか、そして協力的な上司/メンターの存在が仕事の充実につながっているのかどうかという点について、具体的に知りたいと考えたのです。

このトピックについて、参加者から寄せられた体験談の一部を紹介します。ポジティブで心温まるものもある一方で、胸が痛くなるような、現在の研究環境の良くない部分を反映しているものもありました。

He never gave me the holiday and threatened to not give me my experience letter and salary

「私は、ゴア(インド)の研究機関で1年間研究者として働きましたが、そのときの上司はひどい人でした。おそらくもともとは礼儀正しい人だったのでしょうが、次第に自分の立場に胡坐をかくようになっていったのだと思います。休暇を取りたいと願い出たことがあるのですが、そのときの上司の態度にはとても傷つきました。彼は、つかつかと私の目の前に歩いてきて、挑発的な言葉を放ったのです。震える思いでしたが、覚悟を決めて休暇を求め続けましたが、最後まで許可が下りることはありませんでした。それどころか、雇用証明書を出さないと脅してきたり、残りの給与の支払いを拒否したりしてきたのです。あの場を去れてほっとしていますが、彼はいまだに、私たちの共同作業の結果である論文を保留状態にしています。この期に及んで出版できるとは思っていませんし、今となってはどうでもいいことです。とは言え、助成団体は、研究機関における指導教官の採用プロセスの必須項目として、心理テストを組み込むべきだと思います」匿名希望

I have always felt supported in my working environment, especially with regards to requesting time off for personal issues

「職場のサポート体制には満足しています。とくに、心身の不調といった個人的な問題が発生したときに休暇を得られたことをありがたく思っています。一方、同じ職場で、ほかの博士課程の学生が、性差別やパワハラを受けている現場も見たことがあります」アナスタシア・ドロニナ(Anastasia Doronina)、シェフィールド大学土木工学科博士課程在籍中

The lab manager is a bit of a bully to me which makes me hesitant to ask for help

「私は所属機関のサポート体制に不満です。学生を支えるためにいるはずのPI、指導教官、運営スタッフの誰からも、十分なサポートを受けられていません。研究室の同僚たちは、メンタルヘルスの問題を深刻な健康問題として捉えていないと感じます。指導教官は私に対する当たりが強いため、「そんなことも知らないのか」と怒られることが恐くて、質問するのもためらってしまいます。すでに不安感などの症状が出ており、このような扱いを受ける中で自信が持てなくなってしまったようです。そのため、今は午後や夜間に仕事をするようにしています。なぜなら、ほかのメンバーと一緒に研究室にいることが、余計なストレスになってしまうからです。それに、日中だと多くの人が使っていてなかなか使えない機器が、午後以降だと利用しやすいこともあり、この意味でも遅い時間に活動することは合理的でした。しかし指導教官は、私が日中に活動しないことを、怠けていてやる気がないからだと考えています。一度、私が実験で使っている細胞の保管場所を彼に尋ねなかったことで、叱られたことがあります。彼自身はその細胞をいつも無断で使っているにも関わらず。故意ではないのかもしれませんが、嫌がらせを受けているような気持ちになりますし、研究室のシニアスタッフが学生の立場の弱さに無関心であるという、より大きな問題があるように思います」匿名希望

No matter how much I was right, no one was willing to support a researcher who is also a mother

「ポスドクだった頃、事故に遭った息子を病院に連れて行かなければならないことがありました。看病のため、翌日の予定もキャンセルしました。研究室に戻ると、私より年長で子どものいない博士課程の学生が、すごい剣幕で怒鳴ってきました。彼女は、子どもを理由に仕事の予定をキャンセルするなど言語道断だという考えの持ち主でした。研究グループのリーダーで指導教官でもあった別の女性は、子を持つ母親だったのですが、その一連の出来事について、その場では口を開かずに傍観していました。怒鳴っていた学生が部屋を出た後で、“あなたの判断は間違っていない。だからといって自分ができることは何もない”と言われましたが、その言葉を聞いてがっかりしました。したことが正しくても、母親としての役割がある研究者を助けてくれる人は誰もいないのです。同じ母親である人さえ手を差し伸べてくれないことを知りました。その一件で、私は研究者をやめたくなりました」匿名希望

I appreciate from a supervisor the ability to put research first and try their best to  support and provide all the help needed

「もっともありがたいと感じる指導教官は、自分とその研究を信頼してくれる人です。信頼感は、ポジティブで協力的な空気を作り、一人一人を大切にします。次に重要なのは、学生に気に入られようとしたり、嫉妬心をむき出しにしたりせず(実際にこのような指導教官に当たったことがあります)、研究を最優先にして、あらゆるサポートを与えるためにベストを尽くしてくれることだと思います」ダイナ・ロメオ(Daina Romeo)、博士課程在籍中

After a long wait and countless referrals... the therapy is going well and my work is not suffering

「何度も紹介状を出してもらい、長らく待った結果、ようやく週2回の精神分析的心理療法を2年間受けられることになりました。唯一の問題は、そのセッションが平日の日中に行われることでした。最初は、研究室で活動する科学者という立場では、その時間に職場を抜けるのは不可能だと思いました。しかし上司に相談すると、実験を別の時間に割り当てれば問題ないという結論に達し、治療を受けることを後押ししてくれたのです。週2回、(移動を含めて)23時間も職場を離れることなど認められるはずがないと思っていたので、とくに交渉の必要もなく同意してくれたことに本当に驚きました。実際、このやり方はうまくいっています。治療は順調に進み、仕事にも支障はありません。治療の機会を与えてくれたNHS(英国の国民保険サービス)だけでなく、私の気持ちに柔軟に応えてくれた職場に、とても感謝しています」匿名希望

During my Phd I had a supervisor who I thought was great

「博士課程の指導教官は素晴らしい人でした。メンタルや気持ちの問題について話す機会はありませんでしたが、もしあれば、親身に相談に乗ってくれていたと思います。とくにありがたいと感じていたのは、週に1度、11でミーティングをする時間を作ってくれたことです。それは、サポートされていること、私の研究に興味を持ってくれていることを実感できる時間でした。要求は高いものでしたが、高圧的ではありませんでした。細かく管理するタイプではなかったので、常に監視されている気持ちになることもなく、信頼されているという実感のもと、自分の裁量で活動することができました。研究プロジェクトの方向性を最終的に定めるのは指導教官でしたが、私なりのやり方でプロジェクトを進め、実験計画を立てる自由を与えてくれたことで、自立心と自信が育まれました。また、もう1つ非常にありがたいと感じたのは、私が平日の夜遅くや週末にも活動していることを知ると、(ポスドク時代の指導教官のように)それを喜ぶような素振りは見せず、良好なワークライフバランスを保つためには、そのような働き方を習慣にしてはならないと助言してくれたことです。残念ながら、このようなスタンスを持つ指導教官はきわめてまれです!さらに、博士課程の最終年になると、週1回のミーティングで私の将来の目標に焦点を当てて、どの方向に進むのか、そのために自分がどのような協力ができるかなど、親身になって相談に乗ってくれました」匿名希望

At that point I realized that motherhood is not something that is taken into consideration in this career

「大学院で研究を続けようと決めたのですが、学位論文を書き上げる前に妊娠が分かりました。その時点で、学術界は、母であるということがまったく考慮されない世界であることを知りました。キャリアのどの段階にいようと、研究者は研究に人生を捧げることを求められているので、30代前半(女性の出産能力が衰え始める時期)の妊娠などということは、ある種の無責任と見なされてしまうのです。結局、私が産んだのはそのときの子どもだけです。同僚の女性研究者の多くは、キャリアを続行するために子を持たないという“責任ある”決断をしたと言います。進化論の観点から言えば、将来世代のためにもっとも賢い女性を積極的に選ぶことはしないと言っているようなものです。辻褄が合っていませんよね?」匿名希望

I was terrified, because I knew that if I openly complained about her, it would probably just make my position more difficult

「サポートなど何もありません!私がいたチェコの学術界には、何のサポート体制もありませんでした。博士課程を終えようとしていた頃の私と指導教官の関係は、非常に難しいものになっていました。思い返すと、彼女がやったことの一部は、(心理的)虐待に相当するものだと思います。でも、そのことを相談する相手もいませんでした。知り合いや指導教官の同僚に話しても、皆、口を揃えて“彼女が気難しい人間なのは知っているし、その行動も褒められたものではない”とは言うものの、内々の会話にとどまり、問題の解決に向けた話ができる相手はどこにもいなかったのです。この件を公にしても自分の立場を悪化させるだけ(博士号取得の可能性を狭めるだけ)だと悟り、恐怖を感じました。話を聞いて手を差し伸べてくれたのは、セラピストだけでした。結局、博士論文を書き上げて大学を去ってからは、指導教官には一切連絡していません。ほかの研究者に同じことが起きないよう、少なくともこのような問題があることに気づいてもらいたいのですが、誰に伝えればいいのか、今も分かりません。大学には正式なサポート制度がなく、“安全な場所”がないのです」匿名希望

Six months prior to the birth of my first child, I spoke to my PI about taking parental leave and he told me that he knew I was lazy and using this as an excuse to get out of work

「第一子の誕生を半年後に控えていた博士課程在籍中、父親として育児休暇を取得することについてPIと話をしました。PIは私を、研究から離れるための言い訳として育児休暇を取ろうとしている怠け者と見なしつつ、“気前よく”7日間の有給休暇を与えてくれましたが、8日目には必ず戻るように言われました。当時の私は、代わりなどどこにでもいるような使い捨ての存在だったので、その条件を飲むしかありませんでした」匿名希望

I badgered one of my first professors who did this with, ‘what sort of experiments do you want?’

「積極的なサポートは受けたことがないと言っても過言ではありませんが、すべての人と敵対関係にあったわけでもありません。本来手を差し伸べるべき立場の人々(上司、教授、同僚)に、教育、指導、先導などの意識がまったくなかったというだけで、彼らもまた、自分が抱えるストレスや問題に手一杯だったのです。私が気に入っている悪い例を紹介しましょう。新しい大学院生を迎えた教授が論文の束を手渡し、“これを読んで実験をしておくように”と言いました。これを指導と呼べますか?私は最初に当たった教授にこのような対応をされたため、「どのような実験をすればいいのですか?」と聞いて彼を困らせました。大学を出てから数年後、ある会議でその指導教官と再会しました。彼は私の質問をきっかけに、新入生が研究室に馴染めるような基礎実験を組み立てたそうです」ヘレン・ミラー(Helen Miller)、元研究者

I talked about the issue with some work colleagues, and I was surprised by how everyone was understanding and supportive

「去年の秋、私はさまざまな要因から、私生活でも仕事でも苦しい時期を過ごしていました。当時は、英国に住み始めてからまだ4ヶ月ほどで、知り合いもあまりいない状況でした。状況を改善するには精神的なサポートが必要でしたが、英国の保健制度について何も知らなかったので、どうすればサポートを受けられるのか分かりませんでした。そこで同僚に相談すると、とても理解があって協力的だったので、驚きました。また、この国のメンタルヘルスの問題への姿勢にも感心させられました。イタリアではまったく異なるアプローチをとっており、私はそれに慣れていたからです。イタリアには、“メンタル的なもの”は見て見ないふりをし、深刻な健康問題として顧みない傾向があります。また、英国の研究グループに入って数ヶ月しか経っていないのに、彼らが家族のような身近な存在に感じられました。悩み事を打ち明け、貴重なアドバイスやサポートを受けることもできました。今でもそのような関係が続いていますマルタ・マンジャルーロ(Marta Mangiarulo@Marta_Mang)、レスター大学神経科学・心理学・行動科学科

He was quite bullish by nature and encouraged me to take the same attitude

「博士課程時代の指導教官はメンターと呼べる存在で、数年前に彼が引退するまで共に活動していました。その時間がポジティブな経験だったと言えるかどうかは、今も分かりません。彼は本質的に上昇志向が非常に強く、私にも同様の姿勢を持つよう促しました。キャリアを開始したばかりの私は、このことで不満が高まり、本来ならしなかったはずの選択をしました。その結果、以後のキャリアやメンタルヘルスにネガティブな影響を及ぼしたと感じています」匿名希望

The supervisors I had for my PhD and postdoc were highly helpful, as they gave me a lot of autonomy





 

「博士課程とポスドク時代の指導教官はとても協力的で、その2人からは自主性を学びました。研究プロジェクトを自分のものとして進め、(彼らの指導の下で)重要な判断を自分で下し、責任感をもって研究に臨むことができました。一方、ポスドク時代の別の指導教官とは良い関係が築けず、研究環境も先述したものとは真逆でした。自分の裁量でできることがなく、意思決定も1人ではできませんでした。指導教官の意向に従うだけで、アイデアも出せない状況だったので、最終的にはその指導教官から離れる決断をしました」ローラ・ワイス(Laura Weiss@LauraAnneWeiss

以上の体験談からは、適切なサポートを提供している機関や指導者がいる一方で、非協力的な機関や指導者も存在していることが分かります。協力的な環境に身を置くことができる恵まれた研究者がいる一方で、サポートを受けられないネガティブで劣悪な職場環境に置かれている研究者が数多くいることも事実です。ポジティブな職場環境に身を置けるかどうかは、運に委ねられるべきものではないはずです。私たちが力を合わせれば、この問題に関心のない人々も巻き込んで、学術界を、より成長できる包摂的な場にするための変化を起こせるでしょう。

共感できる体験談はありましたか?学術界での体験をシェアしても構わないという方は、ぜひお話をお聞かせください。体験談を紹介頂ける場合は、insights@editage.comまでご連絡ください。


Cactus Foundationによる「学術界のメンタルヘルスに関するアンケート調査」は、現在も実施中ですが、近日中に締め切られる予定です。まだ回答していない方は、あなたの声を届ける最後のチャンスをお見逃しなく。アンケート調査には、こちらのウェブサイトからご参加頂けます。

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