科学論文での略語のミスを避けるには

科学論文での略語のミスを避けるには

単語やフレーズの短縮形である略語は、複雑な専門的文書をシンプルにして読みやすくするのに役立つため、研究論文でよく使われます。しかし、慎重に扱わないと逆に混乱を引き起こし、伝えたい内容を不明瞭してしまう可能性があります。その一例として、以下の文章をご覧ください:


One of the most important skills for proofreading a manuscript is ATD. Poor ATD can result in embarrassing factual errors like not defining abbreviations at first mention.

(ATDは、校正における最重要スキルの1つである。ATDが不十分だと、初めに略語を定義しないなどの困ったミスにつながる可能性がある。)


何の話をしているか分かりましたか?実はここでは、「attention to detail(細部への注意)」という意味で使われているのですが、この例文を読んで皆さんがまず思い浮かべたのは、「advanced technology demonstration(先進技術の実証)」や「achieving the dream(夢の実現)」、あるいはこの文脈では意味の通らない別の言葉だったかもしれません。


次に、以下の例文は、実際の論文のアブストラクトから引用したものです:


We developed a program that included SST for students and CMT for teachers.

(学生のためのSSTおよび、教員のためのCMTを含むプログラムを開発した。)


この文章で使われている2つの略語は、著者の専門分野では周知のものであるか、または著者による造語だと思われます。いずれにせよ、著者には、「自分と同じ専門性を持たない読者は、これらの略語が理解できないかもしれない」という可能性の認識が欠けていると言えます。この文は、以下のように書くべきでした:


We developed a program that included social skills training (SST) for students and classroom-management training (CMT) for teachers.

(学生のためのソーシャル・スキル・トレーニング[SST]および、教員のためのクラスルーム・マネジメント・トレーニング[CMT]を含むプログラムを開発した。)


このように、この記事では、略語の使い方に関するヒントを紹介します。研究論文で略語を使う際は、ベストプラクティスを意識しながら略語を使うよう心掛けましょう。


1. 略語は初出時に定義する:略語は、タイトル、アブストラクト、本文、図表の凡例のそれぞれにおいて、初出時に定義する必要があります。略語は、総単語数を減らすのに役立ちます。しかし、ある略語が特定の専門分野で一般的であるからといって、別の分野でもそうであるとは限りません。


例:We analyzed the results of the computational fluid dynamics (CFD) simulations to determine fluid flow and to detect cavitation in centrifugal pumps.

流体の流れを確認し、遠心ポンプのキャビテーション(空洞減少)を検出するために、計算流体力学[CFD]のシミュレーション結果を分析した。


CFDという用語は、機械や土木工学の分野ではごく一般的ですが、他分野の読者には馴染みがないかもしれません。したがって、このような場合は、原稿が完成したら、ワープロソフトの「検索」などの機能を利用して略語を検索し、それらが定義されているかどうかを確認するのがベストです。


2. 略語を使う際は、必ずターゲットジャーナルのガイドラインを確認する:

  • ジャーナルの対象範囲や読者層にもよりますが、多くのジャーナルが、定義を必要としない略語のリストを用意しています。たとえば、「DNA」や「ANOVA」などは、ほとんどのジャーナルが一般用語として定義を不要としています。「CFD」を定義不要とする機械工学系のジャーナルでも、「FWMHMfull-width-at-half-maximum半値全幅)」は、定義すべきと定めている場合があります。
  • 一部のジャーナルは、本文で3回以上登場する用語のみ、略語を使うよう定めています。
  • 一部のジャーナルは、タイトルやアブストラクトでの略語の使用に否定的です。
  • CFDのようなきわめて一般的かつ明確な用語は、改めて定義する必要はありません。


3. 略語は分野で一般的な表記を使うよう心掛ける:物理学では、元素(例:SiCuCON)や測定単位(例:shminmkgKJ)に略語を使います。これらの省略形は、初出時に定義する必要はありませんが、標準的なフォーマット(正しい綴り、大文字/小文字)で表記しなければなりません。


4. 略語の望ましい表記スタイル:

  • 略語で大文字を使っているからといって、正式名称を表記する場合も大文字を使わなければならないというわけではありません。一般的に、正式名称でも大文字が使われるのは、人名や固有名詞だけです。

例:FFTは、fast Fourier transform(高速フーリエ変換)の略です。「Fourier」は人名なので語頭が大文字になっていますが、それ以外の単語は小文字で構いません。
 

  • 一部の用語は、大文字表記でも小文字表記でも問題ありません。これらの用語は、ほとんどのジャーナルが定義不要な用語としてリスト化しています。また、論文内に同じ文字列で表記される用語がある場合は、よく知られている方の用語に小文字を使い、あまり知られていない方に大文字を使うのが一般的です。(例:デジタルコミュニケーションを「DC」とし、直流電流は「dc」と表記する)。

例:交流電流(ACac)、直流電流(DCdc)、二乗平均平方根(RMSrms)、毎分回転数(RPMrpm
 

  • ジャーナルの多くは、文章の書き出しに略語を使うことを避けるよう推奨しています。このようなケースでは、略語を正式名称で表記するか、語順を変えるかのいずれかの対応が必要です。

例:FigureFig.)、ReferenceRef.)、EquationEq.)、SectionSect.)、ChapterCh.


ただし、一般的に、頭字語は文頭で使っても問題ありません。なぜなら、その状態で言葉として成立している(laserradarなど)か、組織名として使われているからです(NASACERNなど)。また、ジャーナルが特定の省略形の使用を認めている場合は、それらを文頭で使っても構いません(例:IEEEは基本的に、文頭であっても「Figure」は省略形で表記するよう定めています)。


5. 英数字混合の略語の使用には注意が必要:省略形には英数字が混在しているものが多く、通常、これらの組み合わせ方には根拠があります。文字の前後にある数字は、パラメータに関連付けられた情報を示しています。たとえば、ある方式では、独立変数の数でさまざまな自由度を表します(2-DoF6-DoFn-DoF)。また、時の経過にしたがって、数字が名称の一部になることもあります(例:2D3D)。つまり、省略形は、伝えるべき意味に応じて、文字と数字が適切に組み合わされているのです。


1n-DoF(自由度n

この場合、「n」は、システムの独立パラメータの数を示しています。


2PCA1PCA2

これは、主成分得点を簡易的に表したものです。PCAの後の数値は、成分と変数の相関関係の順序または優先順位を示しています。


使用している表記が意味を正確に伝えているかどうかを、必ず確認しましょう。上の例では、文字や数字の位置を入れ替えることはできません。なぜなら、表記が非標準的になってしまうからです。


6. ラテン語の省略形の使用:科学論文では、「e.g.」、「i.e.」、「et al.」といった、ラテン語の省略形がよく使われます。これらはすべて小文字で表記し、ピリオドの使い方は慣例に従う必要があります。ピリオドの書き忘れや位置を間違えると、一種のスペルミスと見なされます。詳しい使用法は以下の通りです:

  • e.g.」、「i.e.」はそれぞれ、「たとえば」、「すなわち」を意味する「exempli gratia」、「id est」の省略形です。アメリカ英語では、これらの略語の後には、必ずカンマを使わなければなりません(イギリス英語では、カンマは不要です)。文の流れの中で使う場合は、省略形を使わないか、カンマで区切るかのいずれかが必要です。ただし、スタイルは必ず統一するようにしましょう。以下は、アメリカ英語の慣例に従って、文の流れの中で使用した場合と、括弧を使った場合の例です。


例:

1. Some studies (e.g., Jenkins & Morgan, 2010) have supported this conclusion. Others—for example, Chang (2004)—disagreed.

一部の研究( Jenkins & Morgan, 2010)は、この結論を支持している。一方、たとえばChang (2004)は、異論を唱えている。


2. Some studies, e.g., Jenkins & Morgan (2010), have supported this conclusion. Others, e.g., Chang (2004), disagreed.

一部の研究、たとえばJenkins & Morgan(2010)は、この結論を支持している。一方、たとえばChang (2004)は、異論を唱えている。


3. Two types of defects (i.e., cracks and bends) were investigated for each alloy. 各合金について、2種類の欠陥(すなわち、ひび割れとたわみ)を調査した。


4. Two types of defects, i.e., cracks and bends, were investigated for each alloy. 各合金について、2種類の欠陥、すなわち、ひび割れとたわみを調査した。
 

  • et al.」は、科学論文で使われる省略形の中で、スペルミスや誤用がもっとも多い用語です。「et al.」は、「~など、~他」を意味する「et alii」の省略形で、文中でほかの研究を引用する際に、複数の著者名などを省略する場合に使います。名前の後に表記する限り、テキストのどこで使っても構いません。この用語の前後の句読点の使用は、各ジャーナルの規定によって異なります。以下の例では、「et al.」の前に名前が表記されており、句読点の使用はAPAの規定に則っています。


例:

1. Bjeg et al. (2016) show that the aspect ratio of the room determines whether the airflow is two- or three-dimensional.

Bjeg他(2016)は、部屋のアスペクト比、空気の流れが次元になるの次元になるのかを決定することを示している。

2. Previous reports (Bjeg et al., 2016) indicate that the aspect ratio of a room determines whether the airflow is two- or three-dimensional.

過去の研究(Bjeg他、2016)は、部屋のアスペクト比、空気の流れが次元になるの次元になるのかを決定することを示している。
 

以上、略語の使用に関する一般的なスタイルや慣例を紹介しました。略語や頭字語を使う際は、とくに、大文字/小文字、一般的慣例、綴り、ピリオドの有無などの正しい用法を必ず確認するようにしましょう。また、ジャーナルによっては、それらの用語について、独自の規定を設けている場合があります。簡潔で正確な質の高い論文を書くためには、細心の注意を払ってこれらの指示を順守する必要があります。

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