インパクトファクターを追い求めて―その労力に見合った価値はあるか?

インパクトファクターを追い求めて―その労力に見合った価値はあるか?

ジャーナル・インパクトファクター(JIF)の有効性は、議論の続いているテーマです。2016年7月、研究者らと人気ジャーナルの編集者らが「ジャーナル被引用数の分布の発表に関するシンプルな提案」(A simple proposal for the publication of journal citation distributions bioRxiv 2016: 062109)と題した論文を執筆しました。この論文では、JIFが個々の論文のインパクトを測定する役には立たない理由が詳しく述べられています。残念ながら大学は伝統にとらわれているため、学術関係者の間では長きにわたり、JIFと定義された出版のインパクトが主な基準となっています。さらに、ネイチャーサイエンスなどの「インパクトが高い」ジャーナルはJIFが高いため、著者の評価を不相応に高めてしまうこともあるようです。


本記事では、JIFが過大視されている現状をふまえ、JIFの高いジャーナルがそれほど高い評価を得るに値するのか、そしてそれらのジャーナルで出版するための労力には、本当にそれに見合った価値があるのか、という疑問を投げかけてみたいと思います。 


インパクトファクターの高いジャーナルに論文を掲載するには、大きなコストがかかります。ここでいうコストには、研究者が投資する膨大な時間も含まれます。十分な結果を出し、さらに編集者による初回審査を通過するためには、長い時間がかかります。インパクトファクターの高いジャーナルでは、論文1本といっても、個々の膨大な研究結果をつなぎ合わせて「ただ1つ」の主張にまとめられているだけということもあります。これは、インパクトファクターがきわめて高いジャーナルでは、補足情報のセクションが肥大化していることから明らかです。


また、これらのジャーナルの査読プロセスは非常に長期に及ぶのが普通です。査読者は「インパクト」と「重要性」の証として、著者にさらなる追加研究を課すべきと感じており、それによって著者の時間がますますとられることも少なくありません。査読と修正が繰り返されることも多く、出版までの期間が長期化します。インパクトファクターと、投稿から出版までにかかる時間との間には、一定の相関があることが最近の研究で報告されています。
 

wait times by Impact Factor

出典:http://www.nature.com/news/does-it-take-too-long-to-publish-research-1.19320


上図で、インパクトファクターの低いジャーナルでの出版に時間がかかるのは、査読結果をすぐに著者に伝えられるリソースやシステムがないジャーナルが多いことが原因と思われます。インパクトファクターの高いジャーナルの出版までの期間が長いのは、期待されている査読の水準が高いこと、あるいは査読者からの修正要求が多いことによると考えられます。


ところで、著者がインパクトファクターを必死に追い求めるだけの価値はあるのでしょうか。まずは、どのような利点があるのかを見ていきましょう。
 

1. ステータス・認知度という価値:インパクトファクターの高いジャーナルでの出版は、価値あることだと誰もが認めています。サイエンス、ネイチャー、セルなどのジャーナルから出版するためには、研究者は大変な苦労をしなければならないとよく知られていますので、それを達成しただけでも価値があるといえます。ただこの価値は、その論文が最終的にどれだけ引用されるかということとはまったく別のものです。


2. 引用の価値:「影響度の高い」ジャーナルのマーケティング上の利点は、インパクトファクターが高いということです。これは単に、そのようなジャーナルの論文の年間平均被引用数が高いということです。しかしそれは、これらのジャーナルから出版されたすべての論文が引用されるということではありません実際、ラリヴィエールほか(Lariviere, V. et al)による論文では、権威あるジャーナルの被引用パターンは不均一で、ごく一部の論文が多数引用され、他の論文はほとんど引用されていないということが発表されています。例えば、ネイチャーの論文1本あたりの平均被引用数は121です(現在までの全期間)。しかし、被引用数の中央値は24で、40%以上の論文の被引用数は10回にも達していません。* 


3. 宣伝の価値:マーケティング上のもう1つの大きな利点として、新旧さまざまな形態のマスコミが、「影響度の高い」ジャーナルから斬新な新しい科学を発見して興味深い記事を書くということが挙げられます。この中には分野が限定されていないジャーナルもありますが、それはつまり読者層が広いということです。さらに、ほとんどの記事はまっとうな研究者なら誰でも理解できる文体で書かれています。これらのジャーナルには、ニュース(News)や視点(Views)のコーナーが設けられ、科学の最新の流行テーマが取り上げられていることもよくあります。これらは一般読者にも理解しやすく、BBCやCNNなどのマスコミにも取り上げられています。


インパクトファクターの高いジャーナルにコストをかけずにこれらの利点を得るにはどうすればよいか?


インパクトファクターの高いジャーナルからの出版で得られるさまざまな利点をよく理解したところで、1つの重要な洞察を引き出すことができます。それは、「インパクトファクターの高いジャーナルがもたらすどの利点も、論文のマーケティング面に関わる」ということです。ですから、論理的には、別の方法で自分の論文を宣伝する戦略があれば、マーケティング上の利点のためにインパクトファクターの高いジャーナルに頼る必要はなくなるということです。


マーケティング価値の1つに、「ブランド」意識という側面があります。例えばネイチャーサイエンスなどには、インパクトファクターの高いジャーナルという定評に価値があります。自分をブランド化することは容易ではありませんが、最近はソーシャルメディアのおかげでそれも可能です。すでにこのゲームに参加して、ソーシャルメディアで非常に活発に活動している教授もいます。


先ほど確認したその他の利点も、1つの知見、つまり「インパクトファクターの高いジャーナルは、論文をより多くの人目に触れさせることができる」という点に集約されます。先ほどの被引用数の分析からはっきり分かるのは、引用してもらうためには、論文に実質的な価値がなければならないということです。しかし、質の高い論文を書くだけでは、被引用数を伸ばすことはできません。論文が他の人に読まれるようにするには、発見される確率を最大限に高める努力が必要です。幸い、権威あるジャーナルでの出版以外にも、幅広い読者に論文を読んでもらう方法はあります。 


自分の論文を宣伝し、露出度を最大限に高める方法を挙げます。


1. ソーシャルメディア:ツイッターやFacebookやLinkedInを利用して自分の研究を宣伝しましょう。効果的な宣伝ができれば、自分のネットワークの内外で論文が読まれるでしょう。


2. ブログ:科学者でない人にも分りやすいように、論文の一般向けバージョン、いわば自分自身の「ニュースや視点」を個人のブログに掲載し、多くの読者に読んでもらえるようにしましょう。


3. 大学の広報部:所属大学の新聞・雑誌部門に連絡して、自分の研究結果を記事にしてもらいましょう。興味深い研究であれば、大手の新聞にも取り上げられるかもしれません。


4. 同僚にEメールを送る: 分野の仲間に自分の新しい研究についてのメールを送り視点や考えを聞いてみることもできます。そうすれば、自分の論文を読む人の数は確実に増えるでしょう。


それでは最初の質問に戻りましょう。インパクトファクターの高いジャーナルでの出版には、必死に労力をかけるだけの価値があるのでしょうか?私には、そのようなジャーナルからもたらされる価値は、コストのかからない別の方法で代替可能だと思われます。実際、研究の露出度やアクセスのしやすさを自分が直接的に操作すれば、研究者はインパクトファクターの高いジャーナルから出版しようとする苦痛から逃れられるだけでなく、より優れた効果をもたらすこともできます。さらに嬉しいおまけもあります。それは、論文の内容やマーケティング業務の所有権をジャーナルに渡すことなく、研究者自らが保持することができ、自分の財産として残せるということです。より多くの研究者が自分の研究の主導権を握り、より強固な科学のエコシステムを築いていくことを楽しみにしています!


このデータは、トムソン・ロイターのツールWeb of Scienceを利用して著者が作成したものです


注:本記事は、ゲストライターが学術出版に関する各種テーマについての見解や経験について執筆するResearcher Voiceシリーズの1つです。下のコメント欄から、あなたの意見をぜひお寄せください。本記事の初出はon LinkedInです。著者の許可を得て加筆・修正したものを、Editage Insightsに再掲載しました。

学術界でキャリアを積み、出版の旅を歩もうとしている皆様をサポートします!

無制限にアクセスしましょう!登録を行なって、すべてのリソースと活気あふれる研究コミュニティに自由に参加しましょう。

ソーシャルアカウントを使ってワンクリックでサインイン

5万4300人の研究者がここから登録しました。

便利さを実感して頂けましたか?

あなたの周りの研究者にもぜひご紹介ください