査読に値する論文を用意するための5つのポイント
「査読は無意味」や「科学は衰退している」といった声を聞くことが増えています。新型コロナウイルスのパンデミックは「インフォデミック」という現象も巻き起こし、残念なことに、一流誌でも論文撤回が相次いでいます。そんな中、研究者は次のような疑問を抱いていることでしょう:「欠陥のある論文が査読を通過できるなら、どの情報源を信頼すればいいのか?」、「欠陥のある論文が査読を通過できるのに、なぜ私の論文はなかなかアクセプトされないのか?」。
最初の疑問には、「インパクトファクターの高いジャーナルが信頼できる情報源であることに変わりはない」と答えられます。評価の高いジャーナルの論文ほど、出版後に厳しい目で見られるため、撤回率が高くなる傾向にあります。一流誌に掲載された論文は注目度が高く読者層も幅広いため、厳しい査読の目をすり抜けてしまった欠陥が出版後に見つかる可能性が高いのです。
2つ目の疑問の答えは、「査読は時間が掛かるものだから」です。私たちは、不安と希望と絶望の間を揺れ動きながら、査読という「待合室」で何ヶ月も待たされます。残念ながら、現在の査読システムで時間を短縮することは不可能でしょう。投稿された時点から、論文には、編集長、編集者、査読者など多くの人々が関わります。査読に数ヶ月を費やした後も、編集部では、査読結果を吟味して最終判定を下すための時間が必要です。要するに、出版プロセスの遅延は必ずしも査読者に起因するものばかりではないということです。ワークフロー全体に、実にさまざまな手続きが含まれているのです。
追い込まれた著者は、迅速な査読や「査読なし」など、一見魅力的で実は偽科学に誘っているハゲタカジャーナルの罠にかかってしまうことがあります。まっとうなジャーナルでの査読中にしびれを切らした著者が論文を取り下げ、これらのジャーナルの餌食になっているケースもあります。ハゲタカジャーナルは科学のみならず、あなたのキャリアをも傷付ける存在なのです。
それでは、一流誌の出版プロセスを速めるために、著者に何ができるでしょうか?その答えは、査読を受ける前に専門家による建設的なレビューを受け、重大な欠陥をあらかじめ修正しておくことです。
カクタス・コミュニケーションズが提供する課題解決志向型のプレ査読サービスは、投稿前に論文の質を向上させるお手伝いをします。私は、英文校正の一つであるこのサービスに関わる中で、デスクリジェクトや査読期間の遅延につながる、よくあるミスを避けるためのサポートを行なってきました。このプレ査読では、投稿前のプロセスを簡略化し、査読で指摘を受けそうな問題をあらかじめ解決することが可能です。論文に目を通す人が多いほど、より幅広く多様なフィードバックが得られます。専門家からのフィードバックがあれば、研究の意義や今後の展望という点で、研究の見方や結果の解釈に新たな視点が得られるでしょう。私の経験では、異なる視点を得ることによって、これまでとは違ったアプローチで、より効果的かつ合理的に論文を構成しやすくなるケースが多くありました。私はレビュアーとして、具体的で実行可能な提案をするよう努めています。研究の論理的根拠や重要性を明確化するために説明を加えるべきところについては、分かりやすい例を添えて指摘しています。論文全体については、研究のオリジナリティ、アプローチや方法論の妥当性、データの質、結論の信頼性や意義といった要素を評価します。それに伴って、論文の長所と短所をまとめ、著者が見落とした可能性のある参考文献などを指摘することもあります。
論文投稿数の激増に伴い、デスクリジェクトの数は増え続けています。ある予測データによると、投稿された論文のうちの20%が査読前に、30%が査読後にリジェクトされています。以下のアドバイスを参考にして、あなたの論文が残り50%に入る可能性を高めましょう。
ポイント1:ジャーナル選びは慎重に。関連する学術データベースを調べて投稿先候補のジャーナルをリストアップし、自分の論文がそれらのジャーナルの対象領域にマッチしているかどうかを確認しましょう。ジャーナルのaims and scope(目的と対象領域)をよく確認し、各誌の最新号を読み、ジャーナルが自分の論文のタイプを採用しているかどうかを確認します。自分の論文に合ったジャーナル選びは、デスクリジェクトを防ぐ上で欠かせません。ただし、ハゲタカジャーナルには十分注意して、ジャーナルの信頼性を必ず確かめるようにしましょう。私がエディテージの英文校正サービスに携わる中でも、ジャーナルのミスマッチを指摘し、より適切なジャーナルを紹介したことがあります。
ポイント2:辛抱強くなる。査読を経て最終決定が下されるまでに数ヶ月を要する場合もありますが、科学と査読を信じ続けましょう。苛立った若手研究者に、複数のジャーナルに投稿すべきかどうか相談されることがよくあります。1つのジャーナルにアクセプトされた直後に、別のジャーナルの投稿を取り下げるといった行動を取る著者もいますが、2誌以上のジャーナルに同時に論文を投稿することは、非倫理的な行為です。論文の疑わしい取り下げは調査を受け、相応の措置が講じられる可能性があります。
ポイント3:バッドサイエンスに加担しない。盲検法、ランダム化、対照群、サンプル数、効果量が適切であることを確認しましょう。懸念がある場合は、積極的に統計の専門家の力を借りましょう。データの操作はやめましょう。データや画像の偽造・ねつ造、あるいはp値ハッキングや「HARKing」(結果を見てから仮説を立てること)といったデータの浚渫の誘惑に負けないでください。研究不正が査読で見落とされても、研究不正を暴こうとする個人に見つかるケースが増えています。
ポイント4:タイトルを誇張しない。内容とかけ離れた大げさな論文タイトルは、トラブルの元です。タイトルが誇大であると判断されれば、リジェクトにつながるかもしれません。タイトルは、印象的でありながらも研究内容を適切に表したものでなければなりません。研究結果は、必ずしも画期的である必要はないのです。
ポイント5:投稿パッケージを完璧にそろえる。論文を投稿する際は通常、提出すべき書類がほかにもあります(内容はジャーナルによって異なります)。ジャーナルのガイドラインにしたがって、投稿書類一式を完璧にそろえましょう。ジャーナルの投稿チェックリストと照らし合わせながら、すべての必要書類(ハイライト、補足資料、グラフィカルアブストラクト、各著者の貢献や利益相反に関する書類、ヒトや動物が関わる実験の許可証など)を漏れなく用意してください。カバーレターでは、そのジャーナルに投稿した動機や研究の意義などを分かりやすく説明しましょう。
新型コロナウイルスのパンデミックによる社会の大変動は、学術界にも変動をもたらしました。一部のジャーナルは、査読プロセスをより著者フレンドリーなものに変えようとしています。未来の学術出版は、今よりも著者に寄り添った、協同的なものになっているかもしれません。従来の査読システムは、オープン査読や出版後査読などの新たなモデルに道を譲ることになるかもしれません。とはいえ、どのような形式であれ、査読は科学の門番としての役割を果たし続けるでしょう。研究者は、自分の論文が然るべき読者に届く適切な投稿先を選び、査読までたどり着く可能性と、修正や再投稿を経てアクセプトされる可能性を最大限に高める努力をし続けなければなりません。そして、編集者や査読者に研究の意義を納得させる目的で不誠実な手段を取ることがあってはなりません。
【この記事は、特集記事、専門家によるウェビナー、ベテラン査読者たちの意見をまとめた、カクタスのピアレビュー・ウィーク2020の一部として公開されたものです。】
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