増加する大量共著者と断片的貢献者:料理人が多すぎてスープがまずくなる?

増加する大量共著者と断片的貢献者:料理人が多すぎてスープがまずくなる?

たった1人で研究成果を論文の形にまとめて出版するという研究者の典型的なイメージは、とうの昔に過去のものとなりました。今や共同研究が主流で、複数の分野にまたがることも多くなっています。このような変化が論文出版のパターンに影響を与えているのも、当然と言えるでしょう。多くの科学分野で、論文の著者リストはどんどん長くなっています。複数名のオーサーシップは今や「ハイパー・オーサーシップ」あるいは「マス・オーサーシップ」と呼ばれ、何千人もが著者として名を連ねる論文も出てきました。例えば、ヒッグス粒子の質量を正確に測定した論文では、CERNの研究者5000名以上が1つの物理学論文の著者となり、一論文当たりの貢献者数の記録を更新しました。また、ショウジョウバエの遺伝子構造に関する論文の著者は1014名でした。著者が1000名を超える「キロ・オーサーシップ」(‘kilo-authorship’)とも呼ばれる論文の出版は、学術界におけるオーサーシップの意味に関して、議論を巻き起こしています。また、膨大な数の関係者にオーサーシップを与えることよって、著者の貢献に対する信頼や責任に疑問が呈される結果を招いているのではないかとも言われています。

高エネルギー物理学や生物医学などの分野では、大規模チームでの共同研究が普通であり、ハイパー・オーサーシップも一般的です。しかし、同じような傾向が心理学や医療政策などの分野でも見られるようになってきました。アンドリュー・プルーム(Andrew Plume)博士とダフネ・ヴァン・ウェイジェン(Daphne van Weijen)博士の研究によると、一著者あたりのオーサーシップ数(2013年は2.31)は過去10年間で増加したものの、単著論文数(2013年は0.56)は減少しています。また、一論文当たりのオーサーシップ数は、2003年から2013年の間に3.5から4.15に増えました。この研究で明らかにされたように、一論文に対する著者数が増加する一方で、単独著者数は減少しており、1つの論文に対して多くの著者が自分の貢献を主張する「断片的オーサーシップ」(fractional authorship)という事態が生まれています。

断片的オーサーシップやマス・オーサーシップへの移行が見られる出版界の動向により、出版論文数が異常に多い著者が生まれることになりました。なかには10日おきに論文を出版する研究者も出てきました。膨大な人数の著者リストは、自分の論文の被引用記録を良くするためのあくどい方法だと考える人もいます。シティ大学ロンドンの図書館学部講師を務めるエルネスト・プリエゴ(Ernesto Priego)氏はハイパー・オーサーシップについて、「非現実的であるだけでなく、…『学術的成果に対して報酬を与える』というシステム全体への脅威である」と述べています。研究者の昇進は主に論文の出版点数や被引用回数の実績に基づいているので、大学や資金助成機関は、検討対象の研究者が著者として名を連ねている論文で具体的にどのような貢献をしたのかに注意すべきでしょう。

なぜこのようなハイパー・オーサーシップが増加したのでしょうか。その背景には、「出版しなければ消え去るのみ」という苛烈な競争や国際共同研究があると考えられます。また、上席研究者が若手研究者にギフト・オーサーシップを依頼する習慣も、この現象に拍車をかけています。ゼン・フォークス(Zen Faulkes)氏は、「昔は論文の最後に謝辞として掲載されるだけだった貢献を、今では『ねえちょっと、私の名前をこの論文に著者として載せてくれないか』と言っているような状況です」と明言しています。

研究の進め方が変化していくなかで、「著者」の定義を考え直すことは避けられません。広く受け入れられているオーサーシップの基準は、ICMJEで定義されている

ように、「著者は、研究および論文の執筆に実質的な貢献をしていなければならない。また、すべての共著者およびその貢献を特定することができなければならない」というものです。1000名を超える著者がいる論文では、データ分析に貢献した学生も著者として掲載されていました。このためフォークス氏は、「オーサーシップ」という言葉ではなく、「クレジット」によって個々の貢献を明らかにすることを提案しています。

共同研究は、科学の進歩においてきわめて重要です。しかし、研究機関や助成機関は、大規模な共同研究が断片的オーサーシップとして拡散してしまうことを防ぐべきです。倫理委員会などは、著者や貢献者の役割を明確にしてオーサーシップの定義をはっきりさせ、研究の整合性を保つために重要な役目を果たす必要があるでしょう。

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