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日本の論文は科研費頼みの傾向へ、それでも世界に存在感を示せていない

島田 祥輔(しまだ しょうすけ) | 2015年6月4日 | 11,307 ビュー
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競争的資金の代表である科学研究費補助事業(科研費)に支えられた研究の論文数は増加傾向にあるものの、国際的なシェアの拡大にはつながっていないことが、文部科学省の科学技術・学術政策研究所の分析によって明らかになりました。また、科研費と関わらない研究の論文数の減少も示されました。日本で質の高い研究成果を多く生み出すためには、研究費をどのように分配すべきなのでしょうか。

科学技術・学術政策研究所が4月1日に公開した調査資料(*1)では、自然科学系の雑誌を収録する論文データベース「SCIE(Science Citation Index Expanded)」と、科学研究費助成事業データベース「KAKEN」を連結させ、論文を科研費の関与の有無で分類しました。SCIEの特性上、今回の検証は自然科学の分野に限定したものと言えます。検証期間は、完全な報告書が収録されている2009年度以前としました。

調査資料によると、科研費が関わる論文(以下「科研費論文」)発表数は、2006~2008年(以下「直近3年」)平均で36,529件であり、1996年~1998年平均に比べて約51.8%増加しました。また、トップ10%補正論文数(*2)も直近3年平均で3922件と、1996年~1998年平均に比べて約40.0%増加しました。1996年といえば、第1期科学技術基本計画が実行され始めた時期であり、科研費の増加が論文の量・質の向上に大きく貢献したと言えます。

ところが、論文の国際的なシェアではほとんど変化がないことも明らかになりました。それどころか、2001~2003年平均に比べて直近3年平均では、科研費論文の発表数もトップ10%補正論文数も減少傾向にありました。

また、科研費が関与しない論文(以下「非科研費論文」)は、さらに深刻です。2001~2003年平均に比べて直近3年平均では、非科研費論文の発表数は10.6%減少、トップ10%補正論文数も7.2%減少しました。国際的なシェアにおいては、科研費論文以上のペースで非科研費論文の発表数、トップ10%補正論文数が減少していました。

たしかに、科研費を増やすことで、科研費を得る研究テーマ数は増え、論文数も増えたと言えるでしょう。ところが、国際的なシェアの拡大につながっておらず、世界における日本の存在感を高めるには至っていないのです。また、非科研費論文の量・質が減少していることは、「日本の論文は科研費頼み」の傾向に陥っていると言い換えられるかもしれません。

ところで、調査では上位クラスの大学別でも検証しており、私立大学では非科研費論文数の減少は目立って見られないことも明らかにしています。このことから、非科研費論文数は「運営費交付金と密接な関係があると示唆される」と調査資料では指摘しています。

運営費交付金の減少、代わりに競争的資金である科研費の増加は、しばしば研究費の「選択と集中」と言われます。研究費の選択と集中を推し進めた果てが今回の調査結果だとすれば、この方法は本当に正しかったのでしょうか。制限が強い科研費よりも、自由度が高い他の研究費(寄付金など)の獲得を目指すべきなのでしょうか。質の高い論文を多く産出するための、研究費の分配や獲得のアイデアをお待ちしております。


*1 調査資料「論文データベース(Web of Science)と科学研究費助成事業データベース(KAKEN)の連結による我が国の論文産出構造の分析」
 

*2 被引用回数が各年上位10%に入る論文数。実数で全論文数の10分の1になるように補正している

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