掲載後の査読と法的対立: 研究者は、公で批評することには慎重になるべきか?

掲載後の査読と法的対立: 研究者は、公で批評することには慎重になるべきか?

匿名の掲載後査読を行うオンラインフォーラム、パブピア(PubPeerが名誉毀損により提訴された 最近の事例により、カガクコミュニティで大きな話題になっています。

訴訟を起こしたのは、ミシガン州デトロイトにあるウェイン州立大学の癌研究者、Fazlul Sarkar氏でした。

氏は500を超える論文を発表し、アメリカ国立衛生研究所から122万7千ドルをこえる助成金を現在も受けている、一流の研究者です。

訴訟の理由は、サイトに匿名で投稿された、彼の研究に対する中傷コメントのせいで職を失うことになった、というものでした。Sarker氏は、投稿者の氏名などを明らかにし、彼らに訴訟費用を負わせることを要求しています。この事件は、 掲載後査読 について研究者たちが長いこと抱いてきたいくつかの疑問を表面化させるものでした:

  • 科学者は法的行為を恐れ、論文の誤りについて意見を述べることに慎重になるのではないか?
     
  • 法律はどの程度、科学に干渉すべきか?
     
  • 内部告発者は法による保護を受けるべきではないか?

掲載前の査読は秘密情報です; つまり、査読した結果はけして一般には公開されませんし、論文の不採択につながりかねない非常に批判的な見解であっても、著者から名誉毀損で告訴されることがないのは、そのためです

さらに、論文の著者は、ジャーナルによる意思決定プロセスを尊重しなければならず、そのため査読者からのコメントも受け入れる傾向が強いのです。ところが、掲載後の査読の場合、論文に対するコメントや反応は、誰でも読むことができます。また、論文の著者は、悪意のあるコメントが自分の評判に悪い影響をもたらしかねないことから、それらに対し用心深くなっています。悪意のあるコメントは、論文著者の積極的な反応(たとえば、法的手段に訴えるなど)を引き起こす可能性があります。

論文の誤りについて意見を述べるのは、専門家の基本的な権利・義務であるにもかかわらず、パブピアの例を考えると、研究者は誰かの研究を批判することの結果を熟慮するかもしれません。パブピアの管理人はサイト上で、「この訴訟では、こんにちの掲載後査読において、おそらくもっとも論争になっている法的問題を解決しなければならないだろう。仮に、発表されたデータの特徴が不正行為を疑わせるものであれば、そうした特徴に注意を向けることは中傷なのだろうか?」と 見解を述べました 。 


パブピア問題は、サイエンス・フラウド(Science Fraud)のサイト閉鎖を引き起こした、非常によく似た事件を思い出させます。この匿名による告発サイトは ロチェスター大学のPaul Brookes教授によって運営されていました。 300本を超える論文から、500点を超える疑わしい画像を記録し、流用された研究資金は1千万ドルに達していました。 これらの告発が、多くの研究論文が撤回、修正につながりました。しかしながら、法的脅威に巻き込まれサイトは幕引きを余儀なくされました。そのため、多くの研究者が、たとえ匿名であっても掲載された研究へ意見を述べることに慎重になっています。

サイト閉鎖後のインタビューでPaul Brookes氏は、「根本的な考えは、こうしたことを公の場で議論することで結果が生まれるというものです。こういうことは、秘密にしておくと、ほとんど対策が講じられないように思われます。データに異議を唱えることを恐れる理由なんてありません」と述べました。

これら2つの例は極めて重要な問題を指摘しています。

名誉毀損法はどの程度科学に干渉すべきか?という問題です。本物の告発者を不当な法的脅威から守るには、政府が決定的な役割を果たしています。科学者たちは長いこと、告発者側に有利になるよう 名誉を守る法の改正に努めて きました。その成功例の一つが、イギリスのDefamation Billの見直しです。

イギリスには、名誉を毀損されたという主張に有利となる法律がありましたが、 告発者が、法的脅威を恐れ科学的批判を無理に抑制させられることがないように、改正されました。同じように、アメリカでも匿名で自由に言論を行う権利が守られています。Sarkar氏が起こした訴訟に異議を唱えているパブピアの問題も、言論の自由と匿名性に対する法的保護にかかっています。

ニューヨークにあるアメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union)は今回の訴訟に関しパブピアを支援していますが、協会のAlex Abdo氏は、正当な科学的問題は法廷ではなく、より多くの議論によって解決されるべきであると述べています。

掲載後の査読は、極論を引き出しています: 論文に掲載された研究はその分野のあらゆる専門家の審査に開かれているという理由で、掲載後の査読を、科学的完全性を維持するために不可欠な手順としてとらえる人がいる一方で、研究者に個人的な攻撃をするため匿名の誰かが武器として使うかのうせいがあるという理由から、掲載後の査読を嫌う人が多くいるのです。効果的かつ生産的に意見を述べるためには、掲載後査読を行うサイトでは、悪意のあるコメントはすべて削除すべきでしょう。

さらに、投稿者が誰かということは、サイトの管理人にわかるようにしておいたほうがよいです。掲載後の査読を、完璧なものにすることは難しいですが、研究者には疑わしい科学の指摘を奨励すべきでしょう。

ノッティンガム大学物理学教授のPhilip Moriarty氏も次のように正論を述べています。「公的資金を受け、研究を公開しても、訴訟に立ち向かわずにその研究を批評することができないとしたら、私には著しく壊れたシステムだと思われる」

 

 

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