「うんち化石に魅せられて」 泉賢太郎さん(東京大学大学院理学系研究科)

「うんち化石に魅せられて」 泉賢太郎さん(東京大学大学院理学系研究科)

東京大学大学院理学系研究科/地球惑星科学専攻の博士課程にて、”生物のうんち化石”の研究をなさっている泉賢太郎さんにお話を聞きました。

 

ご経歴を教えてください。

東京大学に入学し、3年次から理学部の地球惑星環境学科に進学しました。この学科に入ったのは化石の研究がしたかったからです。本格的に研究を始めたのは、大学院に入ってからになります。化石の研究をしようと思ったきっかけは、小さな頃、色々な図鑑を見るのが好きで、その中でも地球の歴史図鑑というのが自分の中に一番響きました。そこには地球誕生の歴史が書かれおり、現在では生きている姿を見ることができない生き物が存在していたという発見があり、それから興味を持つようになり、今に至ります。

 

今の研究について教えてください。

化石といっても色々なタイプの化石があります。私が研究している化石はどちらかというとマニアックで、のけ者にされている動物の排泄物の化石です。ズバリ、うんちの化石です。最初は恐竜の化石などの研究をしたかったのですが、担当の指導教官に相談したところ、一蹴されまして(笑)。日本ではあまり化石が取れないというのが理由なのですが…。

化石を使って、昔の生き物がどう生きていたかというほうに迫るよりも、昔の地層にある化石を使って、どういう環境だったかなど、地球の歴史を紐解くようなテーマを研究することにしました。

恐竜の化石は研究しくつされているので、新たな研究テーマを探すために論文などを読んでいく中で、海の中に生き物のうんちの化石が保存されているということに気付きました。またその当時“フラクタル”という幾何学の概念に関する本を読んでいました。フラクタルは自己相似性といって、どんなに拡大しても、縮小しても同じように見える現象のことです。

スケールを問わず、自己相似性がどんどん続くのですが、このフラクタル論という数学的な概念を化石に応用できると直感しました。当時読んでいた本と、なんの化石を研究したらいいのだろうというあやふやだったおかげで、結果的にニッチなニーズの研究に入り込んでいきました。

 

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海や陸で化石の採集をするのですか?

化石の採集は基本的に陸上でアクセスできるところで行います。海底の堆積物を掘削しても化石が採取できることがあります。しかし、それには高価な機械がないと掘ることができません。私は基本的に、大型のプロジェクトに参画しているわけではなく、個人ベースで研究を進めていくスタイルなので、現在は陸上の地層で採集をしています。

 

どこの化石を見たいですか? 

日本の中だと、千葉県の太東岬と神奈川県の城ヶ島ですね。そこにたくさん私のターゲットのうんち化石があります。

 

どのくらい前の地層を研究しているのですか?その地層はどのようにして見つけるのですか?

私のターゲットは、約3億年前より新しい時代の地層です。地層の全部が対象では膨大ですので、先人たちの研究成果である地層に含まれる化石のデータを参考にして、場所を決めています。長すぎて想像がつきませんが、地球に生命が誕生してから39億年くらいたつそうなのです。誕生当時は肉眼で見えない生物が多く、5億年前くらいになってやっと目に見える大きさの生命が生まれ始めたらしいです。時間はだいぶ下って、3億年前より新しい地層になると、私の研究ターゲットであるうんちの化石が産出し始めます。

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研究活動で面白いと感じる瞬間は?

1つには、論文を書いて、自分の研究が明らかにした成果を外に伝えること。そしてもう1つは、うんち化石をのぞいて、何を食べていたのかがわかる瞬間ですね。例えば人間のうんちだと、とうもうろこしみたいなものを食べたっていうのがわかったりしますよね。そんな感じで、食べたものがたまに残っていることがあるのです。分解されてしまうものも多いと思いますが…。生物によって、草しか食べない生物もいるし、肉を食べてもどの肉かなどがわかります。色々な情報が隠されているなっていうのがわかり、そこが面白いと感じるところです。

 

最古の生物ってどんなものなのですか?

顕微鏡でしか見えないレベルのサイズの微生物です。その痕跡は、グリーンランドのイスア地域に産出する、約38億年前の岩石中から見つかって います。ですので、38億年よりも前に既に地球上に生命が誕生していた、ということになります。

 

南米やヨーロッパなど海外でも研究をしに行っていらっしゃいますね。

はい。南米とヨーロッパがメインです。まだ行けてないのですが、インド洋の底からも化石がでてきていますので採集をしに行きたいと思っています。アジアやアフリカなどにも化石はあると思うのですが、あまり記録がありません。そのような場所でもいつかリサーチに行きたいと思っています。

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研究室の仲間と休憩中
 

海外出張で印象的だったことはありますか?

海外に行く場合、二通りありまして、あらかじめ現地の研究者が採集して、化石標本というものを博物館に収蔵している場合と、これから自分自身で収集する場合があります。やっぱり面白いのは自分で採りにいくほうですね。印象的だったのは、アルゼンチン最南端のフエゴ島ウシュアイアに行って、うんちの化石を取りにいったことですね。南極に近いので、熱帯にはいない特殊な生物がたくさんいますので化石専門の研究者だけではなく、色々な研究者がいました。

 

研究者になられるご予定でしょうか?

今後も研究を続けていく予定です。研究の一番の醍醐味は、自分でやったことを論文に書いて、自分なりの形で表現できることです。芸術家や音楽家と並んで、まさに自分を表現できる仕事だと思っていますし、やりがいを感じています。将来もこのまま研究を続けて、どんどん面白いことを発見して発表していきたいと思っています。

 

賢太郎さんのプロフィール:現在、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程に在籍。顕生代を通じた地球表層環境の変遷に対して海洋生物たちがどのように応答してきたのかに興味を持って研究に従事。特に過去の生物の“行動の痕跡”が地層中に保存された「生痕化石」に注目し、古生態の詳細を明らかにしていくため、日本国内、ヨーロッパ、南米を拠点に研究を行っている。日本堆積学会2012年札幌大会にて最優秀ポスター賞、日本古生物学会2012年年会にて優秀ポスター賞を受賞、2014年「日本地球惑星科学連合大会・学生優秀発表賞」。

 

 

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