ハゲタカジャーナルやハイジャックジャーナルを見抜くためのヒント

ハゲタカジャーナルやハイジャックジャーナルを見抜くためのヒント

オンラインのみのジャーナルやオープンアクセスジャーナルなど、学術出版における新たな枠組みが定着しつつある中で、学術誌の数は年々増え続けています1。学術出版物にアクセスするハードルが下がったことで、とくに低所得国の研究者は分野の最新動向を追いやすくなりました2


出版がかつてなく開放的になる一方で、オープンアクセスは、論文出版に求められる品質チェックやアクセシビリティ(利用しやすさ)を無視して利益のみを得ようとする人々によって悪用されているという現状があります。学術界では、いわゆるハゲタカジャーナルやハイジャックジャーナルの脅威がますます高まっています。注目すべきは、より脆弱な立場にある研究者がその影響をもっとも受けやすいという点です。脆弱な立場にある研究者とは、キャリアの浅い研究者、資金不足に喘ぐ研究者、「出版するか消え去るか」という厳しい学術文化の中で業績を残すためのプレッシャーにさらされている研究者たちです。


この記事では、ハゲタカジャーナルとハイジャックジャーナルの定義を確認した上で、そのようなジャーナルが存在する理由、問題点、および悪徳ジャーナルを見抜くための方法を解説します。


「ハゲタカ」ジャーナルと「ハイジャック」ジャーナルの定義
 

「ハゲタカジャーナルおよびハゲタカ出版社とは、学問を犠牲にして自己利益を優先する組織である。特徴として、虚偽の情報や誤解を招く情報、編集および出版の最善慣行からの逸脱、透明性の欠如、積極的で無差別な勧誘が見られる。 —Grudniewicz et al.3


掲載料を請求しているにもかかわらず品質や妥当性のチェックが不十分な場合は、「略奪的な」ジャーナル、つまりハゲタカジャーナルと見なすことができます。ハゲタカジャーナルは、研究の厳密さや質に関係なく、できるだけ多くの論文を掲載するという利潤動機を持っています。「ハゲタカジャーナル」という呼び方には批判もあります4が、この問題は研究者や健全な出版社に広く認識されるようになりました。場合によっては、ハゲタカジャーナルがPubMedなどの正当なデータベースに登録されていることもあるからです5


「ハイジャック」ジャーナルは、真正のジャーナルを模倣して本物を装うことによって著者を欺きます6。ハイジャックジャーナルを用意したサイバー犯罪者たちは、著者から出版料を徴収すると、姿を消したり、偽のジャーナルウェブサイトに論文を掲載したりします。


ハゲタカジャーナルやハイジャックジャーナルはなぜ存在するのか


ハゲタカジャーナルとハイジャックジャーナルでは手口が異なりますが、動機は同じです。つまり、限られた予算と時間から得られた貴重な研究成果を浪費することの意味を考えず、研究者から搾取するということです。このような行為は、研究者の意欲を削ぐだけでなく、科学の発展を妨げ、オープンアクセスへの信頼を損なうものです。


ハゲタカジャーナルやハイジャックジャーナルは、オープンアクセスだけでなく、研究者のニーズも悪用しています。結果を出そう必死になっているとき7、厳しい締め切りに追われているときに、迅速な出版とスムーズな査読プロセスが約束されれば、惑わされてしまう可能性があるからです。


だまされた人を「愚か」と片付けるのは簡単ですが、出版までたどり着くことは研究者にとって極めて困難な道のりです。悪徳ジャーナルがもたらす脅威について十分な知識を持っていない人は、リスクにさらされていると言えるでしょう8


悪徳ジャーナルは学術界にどのような脅威を与えるか


限られた研究予算を悪徳ジャーナルにだまし取られることは大きな打撃ですが、被害はそれだけにとどまりません。


ハゲタカジャーナルに掲載されることで、研究者の評価に傷が付きます。たとえ無意識だったとしても、論文出版点数を増やしたかったのだろうと疑われるかもしれません。また、奪われたお金は、さらに他の研究者を食い物にするための詐欺行為の資金になってしまいます。


悪徳ジャーナルは、科学文献の弱体化にもつながります9。論文が査読なしで公開されれば、不正確で怪しげな研究結果が拡散し、研究プロセスも貶められ、科学者は自分の利益のために不正確な情報を公開するという印象を与えることになります。


ハゲタカを狩るハゲタカジャーナルを見抜く方法


ハゲタカジャーナルは、一見してそれと分かるとは限りません。それでも、手がかりとなる「ヒント」があります。そこでお勧めしたいのが、Think, Check, Submitリスト10の活用です。このリストは学術出版組織が協力して作成したもので、ハゲタカジャーナルか否かを見きわめる際に役立つ包括的なチェックリストです。

チェック項目の一部をご紹介しましょう。

  • あなたや同僚は、そのジャーナルについて聞いたことがありますか?
  • 査読プロセスについてウェブサイトに明記されていますか?
  • 費用の徴収がある場合、費用について明記されていますか?
  • 定評のあるデータベースに登録されていますか?
  • 出版社は出版倫理委員会(COPE)などの業界団体のメンバーですか?
  • 編集委員は分野で評価されている人々ですか?


上記のすべての項目に「はい」と答えられない場合は、ハゲタカジャーナルである可能性があります。先に進む前に一歩立ち止まって、そのジャーナルについて慎重に確認しましょう。


コントロールを取り戻すハイジャックジャーナルを見抜く方法


ハイジャックジャーナルは、正体を隠すためにあらゆる方法を取ります。技術を駆使して本物そっくりのウェブサイトを作るだけでなく、本物のウェブサイトやドメイン名を乗っ取って、お金の流れを自分たちに向けることさえできます 11。しかし、私たちはこうした行為に対して無力ではありません。以下に挙げるようなちょっとした知識が、偽物を見破るのに役立ちます。

  • 論文投稿を勧める勧誘電話や一方的なメールには注意してください。
  • ドメイン名を確認しましょう。出版社のウェブサイトや、定評あるデータベースのドメインと同じですか?検索エンジンはウェブサイトの重複の発見に役立つ場合がありますが、本物よりも上位に偽物が表示されることもあります。
  • 本物のウェブサイトで論文の DOI を確認した上で、確認中のウェブサイト上の論文が同じURLを示していることをチェックしましょう。
  • リンク切れに注意してください。そのウェブサイトが既存のウェブサイトから複製されたことを示している可能性があります。
  • DOAJリストに追加または削除されたジャーナルを確認しましょう。「出版社による編集上の不正行為の疑い」という添え書き付きで削除されたジャーナルへの投稿は避けましょう。こちらのリンクをご確認ください。  https://blog.doaj.org/2014/05/22/doaj-publishes-lists-of-journals-removed-and-added/
  • Scholarly Open Access hijacked listなどのハゲタカジャーナルおよびハイジャックジャーナルのリストを参照しましょう。


まとめ


ジャーナルの略奪行為や乗っ取りといった問題を認識し、正しい知識を持っておくことで、落とし穴に対する心構えができ、非倫理的なジャーナルの犠牲になる可能性を小さくすることができます。出版倫理、査読、索引付け、保存などの基準12において求められていることをよく理解して、高くつく過ちを確実に回避しましょう。


参考資料

1.           Larsen, P. O. & von Ins, M. The rate of growth in scientific publication and the decline in coverage provided by Science Citation Index. Scientometrics 84, 575–603 (2010).

2.           Nagaraj, A., Shears, E. & de Vaan, M. Improving data access democratizes and diversifies science. Proc. Natl. Acad. Sci. 117, 23490–23498 (2020).

3.           Grudniewicz, A. et al. Predatory journals: no definition, no defence. Nature 576, 210–212 (2019).

4.           Krawczyk, F. & Kulczycki, E. How is open access accused of being predatory? The impact of Beall’s lists of predatory journals on academic publishing. J. Acad. Librariansh. 47, 102271 (2021).

5.           Academics Raise Concerns About Predatory Journals on PubMed. The Scientist Magazine® https://www.the-scientist.com/news-opinion/academics-raise-concerns-about-predatory-journals-on-pubmed--65856.

6.           Butler, D. Sham journals scam authors. Nature 495, 421–422 (2013).

7.           Nielsen, P. & Davison, R. M. Predatory journals: A sign of an unhealthy publish or perish game? Inf. Syst. J. 30, 635–638 (2020).

8.           A predatory journal lures an author with false promises: A case study. Editage Insights https://www.editage.com/insights/a-predatory-journal-lures-an-author-with-false-promises-a-case-study (2016).

9.           AMWA–EMWA–ISMPP joint position statement on predatory publishing. Curr. Med. Res. Opin. 35, 1657–1658 (2019).

10.         Journals • Think. Check. Submit. Think. Check. Submit. https://thinkchecksubmit.org/journals/.

11.         Feature: How to hijack a journal | Science | AAAS. https://www.science.org/content/article/feature-how-hijack-journal.

12.         Danevska, L., Spiroski, M., Donev, D., Pop-Jordanova, N. & Polenakovic, M. How to Recognize and Avoid Potential, Possible, or Probable Predatory Open-Access Publishers, Standalone, and Hijacked Journals. PRILOZI 37, 5–13 (2016).

 

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