著者かジャーナルエディターか: 学術出版システムでプレッシャーが大きいのは誰?

著者かジャーナルエディターか: 学術出版システムでプレッシャーが大きいのは誰?

ジャーナルエディターは学術出版において形成的な役割を果たしています。著者と査読者の間のつながりという役割以外にも、論文を査読に回すかどうかという判断から、論文の掲載まで出版プロセスに不可分な一部を形成しているのです。そのため、学者を出世させることも、キャリアを断つこともできることから、エディターは時として「実力者(キングメーカー)」と呼ばれることがあります。 

ジャーナルエディターに与えられた重要な責任と、その決定が学術コミュニティに与える影響を考えると、彼らの役割の根幹をなしているのはプロ意識です。
しかしながら、Society for Research into Higher Educationに掲載された調査報告 「学術雑誌エディターのプロ意識: 力、技能、個人的利益の追求に対する認識」では、ジャーナルエディターからの扱われ方についてイギリスの研究者から上がっている懸念の声に焦点が当てられています。

大規模調査を行った筆頭著者で、リーズ大学教育学部教授(リーダーシップとプロフェッショナル・ラーニング)のリンダ・エヴァンス(Linda Evans)は、7つの代表的な領域のジャーナルエディターと学術論文の著者がどのような認識を持っているか把握しようとしました。インターネット上の質問紙でデータを収集したところ、著者から800を超える回答が得られました。その後、エディター20名、著者15名にインタビューも行いました。

報告によりますと、調査の主な目的は「ジャーナルエディターは、学術コミュニティ内で権力を振るっていると、どのくらい思われているか。また、そうした権力の性質と程度、著者としての学者がジャーナルエディターの権力に影響を受ける可能性が一番高い人(著者である研究者)に与える結果」を知ることでした。

研究者の約60% が、論文を採択することができない、もしくは査読者報告の中に明らかな問題点があっても気づかないジャーナルエディター、少なくとも一人にあたったことがあることがわかりました。同じく回答の60%が、学術雑誌のエディターの質は「とても変わりやすい」と思っていました。さらに、学術雑誌のエディターは、彼らの領域/分野の研究コミュニティにおいて相当の力をふるっている、と感じている回答者は64% を超えていました。その他にも、論文を掲載してもらう際に遭遇した特別な問題がいくつか著者から報告されています。

  • 倫理的問題
    ジャーナルのインパクトファクターを上げるため、そのジャーナルの最近掲載された論文を引用文献として付加するようエディターに求められ、付加しなかったら論文が不採択にされた、と著者たちから訴えがありました。他にも、エディター(たち)の研究を引用文献に入れるよう共生された、という報告もありました。
     
  • 所要時間
    回答からは、著者からの質問に対しエディターが回答をしたり、決定を伝えたりするまでの所要時間に対して、また出版プロセスのスピードアップをエディターが怠っていることに対して、不満があることがわかりました。若手の研究者は特に、所要時間が自分のキャリアに影響すると感じていました。回答者の一人によれば、論文を投稿したジャーナルは、最終的に不採択であると連絡するまでに、5年かかり、エディターも3人になっていたということです。
     
  • プロ意識のなさ
    エディターが査読者の質問や提案をうまく処理していないことに不満を持つ回答者もいました。それらによれば、査読者のコメントが「科学的に誤っている」にもかかわらずそれを採択したり、何ら助言を与えることもなく全く対照的な査読コメントに返答するよう著者に求めたり、論文の関する査読者のコメントをうまく審査できなかったエディターがいたそうです。 
     
  • 理不尽な意思決定
    何ら説明なく、あるいは十分な説明をせず、論文を不採択にするエディターいたそうです。さらに回答者は、査読結果が肯定的であったにもかかわらず論文が不採択になった例も挙げていました。


ジャーナルエディターに関しこうした否定的な経験が圧倒的なのにもかかわらず、調査に参加した研究者は、ジャーナルエディターに対して一般化された認識を作るのには注意したほうがいいと言っています。それによれば、研究者たちはエディターを「あまりにも影響力がある門番」として描ける根拠はほとんどなく、プロ意識に反する事例は「まれであり、ほとんどの場合特殊な出来事」だと思っていました。エディターへのインタビューからは、責任を果たそうとするときに彼らが直面する問題や、自分たちの役割についての見解が明らかにされました。

  • エディターは、著者や学術出版に対して行使している力について自分たちはわかっている、と強調していました。「投稿論文を掲載可能な質に育てる」ため、若手研究者を指導しようとしている、と答えるエディターも多かったです。 
     
  • エディターの一人が、ジャーナルエディターは「研究者ではなく」「プロのエディター」であることで報酬をもらっているのだと述べていました。ですから、ジャーナルエディターは「ジャーナルによる収入を最大にし、インパクトファクターを最大にする」ために、「物事を違った目で見なければ」ならないのです。
     
  • 自分のジャーナルに確保したい出版物を書いた、特定分野の著名な研究者に働きかけるという問題 を明らかにしたエディターもいました。インパクトファクターが低いジャーナルのエディターは、通常は経験の少ない研究者から投稿されていること、そのためそれらを出版物として価値の高いものにするため大幅な編集を行う、と打ち明けました。
     
  • エディターによれば、自分たちは主に利他的な動機で動いている、ということでした。仕事に対する報酬や制度的な認知はほとんど受けておらず、自分たちの職業を「喜びの源というよりは」、報いのない「義務」だととらえていました。

調査は、エディターがプロ意識に違反する例も見られるけれども、めったにない、まれなケースだと述べて締めくくられていました。調査を行った著者たちは、「学術雑誌のエディターを、学界への入場と学界内での進歩を用心深く守り統制する、あまりにも力強い門番として、位置づけ描くことには、ほとんど裏づけがなく、正当とする理由もない」とまとめています。

全体的に見て、「エディターは一般的に、効果的に仕事を行い、誠実で公正、かつ技能に優れ、彼らが働いているシステムはその目的にかなっているというのが、おおまかなコンセンサスです。

 

 

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