図書館を基盤とする出版グループの新たな連携

図書館を基盤とする出版グループの新たな連携

若手司書のサラ・リッピンコット(Sarah Lippincott)氏は、非営利組織Educopia InstituteLibrary Publishing Coalition (LPC)で、企画と運営管理を担当しています。LPCは、独立系の地域主導型会員制団体で、進化し続ける広範な図書館による出版活動を支援し、大学内の出版活動に関する図書館の利益を促進することを目的としています。

リッピンコット氏は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で図書館学の修士号を、ウェズリアン大学(Wesleyan University)で文学・仏語学の学士号を取得しました。Educopiaに参加する前は、ARL、SPARC、OA学術誌eLifeのコミュニケーション・コンサルタントとして働いていました。本インタビューでは、学術出版における図書館の役割や、出版プロセスに関わる利害関係者としてどのような方向性を考えているのかについてお聞きしました。

図書館による出版活動とは何でしょうか。学術コミュニティにおけるその役割は、どのようなものでしょうか。

図書館連合(LPC)は、図書館による出版活動について、「各大学図書館によって行われる学術的・創造的活動あるいは教育的な出版物の創造・普及・企画を支援する活動」と定義しています。実際には、電子ジャーナルや小論、学会紀要、データベース搭載型のウェブサイト、データセットなど、様々な内容のものを出版する行為が含まれます。図書館による出版活動には、既存の機関リポジトリ・サービスの延長線上にあるものが多くあります。

図書館による出版活動が、図書館が主導するその他の活動(例えばデジタル・コレクションの企画など)と異なるのは、次の点です。すなわち、まだ未出版の独自コンテンツを扱うこと、そのコンテンツを制作プロセスに乗せること、そしてそのコンテンツに一定の水準を認めること(図書館の所属機関のブランドによる査読プロセスを通す)などです。

図書館による出版活動は、従来の学術出版にはない補足的サービスを提供することで、学術コミュニティに貢献しています。多くの図書館では、所属する大学関係の学術的文書を中心として、学会紀要、データ、専門的報告書など、従来の出版経路では見落とされがちなコンテンツのデータベースを提供しています。図書館は、その活動によって収益を上げることを目的としていないので、品質は高いけれども商業的価値は低いという出版物を扱うことが可能です。また、通常の出版社よりも柔軟な対応ができることも多いです。著者が権利を保持できるようにしたり、新しいメディアでの実験を試みたり、OA出版をすることなどが可能です。

学術界の枠組みが変化していく中、図書館を基盤とする出版グループにとっての課題や進歩はどのようなものですか?

図書館による出版活動も、他の多くのデジタル学術出版社と同じ課題に直面しています。出版活動の継続は、多くの図書館が懸念している問題であり、山積する様々な課題の根源といえます。図書館による出版プログラムは、ほぼすべて図書館運営予算で賄われています。これらのプログラムは、通常利益を出すことがなく、コストを回収することもないので、その活動は、継続的に資金が提供されるかどうかに依存しています。このようなモデルであるからこそ、図書館が思い切った取り組みに着手してこられたわけですが、将来も持続可能な状態で前進できるかどうかはわかりません。この問題に対処するために、ここ数年間で、新しい研究モデルや実験的な資金調達モデルが出てきています。

Educopia Instituteとその関連機関の1つであるLPCの概要について、またLPCでのリッピンコット氏の役割について教えてください。

Educopia Instituteは、文化資源の空白にネットワークとコミュニティを形成することを目的とした非営利団体です。Educopiaは、LPCのような新しいコミュニティが成長するために必要な法的・技術的・事務的枠組みを提供しています。LPCは、2013年1月に2年間の初期投入資金(シード・マネー、シード・ファンディング)を得て、60の大学図書館が参加して発足しました。この2年間でその役割や目的について吟味し、試験的なサービスを開始し、出版活動に関わる司書のための実践コミュニティの構築という作業を開始しました。

エディテージの読者のために、LPCのプログラムで優先されていることを教えてください。

LPCは、地域レベルおよび図書館レベルでの図書館による出版活動を促進するために設立されました。地域レベルでは、大学内での図書館サービス向上のために必要なスキル、専門的アドバイス、研究、ネットワークを、大学図書館に提供しようとしています。図書館レベルでは、図書館による出版活動への注目度を高め、図書館が、デジタル出版やOA(オープンアクセス)、そして学術コミュニケーションの将来について、他の学術出版社と話ができるようにしたいと思っています。これらの目的を達成するため、次のようなことを行なっています。すなわち、図書館コミュニティがオンラインで(ウェブサイト、リストサーブ・メーリングリスト、ウェビナーを通して)交流するための技術的インフラの提供、年次大会でのコミュニティ招集、ニーズのある分野の特定、我々の利害関係者の活動に役立つリソースの開発などです。

LPCの会員制度について教えてください。会員になる動機は何でしょうか。また、会員特典はありますか?

LPCの会員数は63館で、全て米国とカナダの大学図書館です。あえて北米の図書館に限定しています。長期的な運営ができるように、まずはきちんとした管理が可能な範囲でLPCを育てていきたかったのです。今年の7月から、世界中の大学や研究所の図書館に対し、会員になることを勧める正式な招待を開始しました。会員の規模や活動内容は様々です。大規模な研究機関、教養大学(リベラル・アーツ・カレッジ)の他、10年以上に及ぶ図書館出版プログラムを持っている総合大学から、図書館出版プログラムはまだ計画中という総合大学が含まれています。

会員になった一番の理由は、実践的なコミュニティにアクセスするためだという声をよく聞きます。最適な実践を行い、質問をしたり回答したりし、問題を解決し、協力関係を結ぶ上で、我々が提供する、仲間や同僚と交流を深めるためのインフラや機会に価値を見出してくれているようです。その他、年次料金割引、書式(契約書やチェックリスト)のひな形へのアクセスなど、多くの会員特典があります。また、会員になると、図書館による出版活動について、国内外での議論への参加資格が確保できます。LPCは、図書館と出版の世界で、拡大しつつある他機関とのネットワークを通じて活動し、コミュニケーションを図っています。このネットワークの中で、LPCは、図書館における出版コミュニティを代表する重要な位置を占めつつあります。

先ほどおっしゃったように、LPCの会員はこれまで北米の図書館に限定されていました。グローバルな展開について、もう少しお聞かせください。

7月1日から、世界中のどこからでも会員を受け入れるようになりました。それ以前から、特に図書館による出版が活発だった地域とはグローバルなつながりを築いてきました。LPCの理事長であるケビン・ホーキンス(Kevin Hawkins)(ノース・テキサス大学図書館)氏と共に、昨冬、キャンベラ(オーストラリア)の大学出版再構築に関する会議(Reinventing University Publishing Conference)で講演する機会がありました。デジタル出版関連では、大学図書館や大学出版局が行なってきた優れた活動がたくさんあります。オーストラリアと北米の大学には、この分野で共通するものが多く、互いに学び合うことが多くあります。また、ブラジル、スウェーデン、英国の図書館や図書館出版関連団体とのつながりも持っています。これらの関係をさらに発展させ、大学出版の将来に関するグローバルな対話によって会員たちがつながっていくことが楽しみです。

このようなコミュニティ主導型のプログラムに興味を持つエディテージのグローバルな読者のために、北米以外での同様の取り組みについて教えて頂けますか?

欧州にはこのような活動を行なっている団体が多くありますが、図書館による出版を主軸に据えているところはあいにく知りません。OA(オープンアクセス)分野では、SPARC EuropeOASPA (Open Access Scholarly Publishing Association)が素晴らしい活動をしています。大学出版の再構築に関する会議を最近開催したThe Council of Australian University Librarians (CAUL)は、この分野の活動を増やしていく計画です。

2015年3月に、LPCの第2回年次図書館出版フォーラム(ポートランド州立大学)が開催されました。このフォーラムの詳細と、ここで特に伝えたかった点について教えて頂けますか?

LPCの第2回図書館出版フォーラムは大成功でした。160名強の参加者が集まり、国内外の図書館、マスコミ、サービスプロバイダから素晴らしい講演者が集まりました。今回の推奨テーマである「継続性」が大いに話題になり、新たな経済モデル、新たな協力関係、そして刺激的な技術的発展などについての話題も聞かれました。目玉のセッションとしては、カリフォルニア電子図書館とカリフォルニア大学出版局による「OAモノグラフの未来に関するエキサイティングな協力関係」、「ミシガン大学における新しいコスト回収モデル実験」、「ストックホルム大学における出版イニシアチブの立ち上げ」、ブリティッシュ・コロンビア大学とUBC Pressによる「デジタル処理書籍シリーズの開発」などがありました。これらのセッションの録画映像を、フォーラムのウェブサイトからご覧頂けます。

 

サラ・リッピンコットさん、ありがとうございました。

このインタビューはAlagi Patelが行いました。

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