学会発表を聞いて感銘を受け、発表者本人と直接話がしてみたいと思ったけれど、自分の口下手のせいで叶わなかったという経験はありませんか?心配は無用です。それは、あなただけではないからです。若手研究者をはじめ、多くの研究者が同じような経験をしています。私たちの多くは、人脈作りのソーシャルスキルを活かすことに慣れていないため、それが緊張や自信のなさとして現れてしまうのです。でも、「エレベーターピッチ( elevator pitch)」を用意しておけば、自信を持ってほかの研究者と交流ができるようになります。
「エレベーターピッチ」とは? エレベーターピッチとは、自分の業績や強みを際立たせる、簡潔な自己紹介のようなものです。二言三言で自分を売り込むためのものなので、コンパクトにまとめる必要があります。魅力ある映画の予告編のように、相手を吸い寄せ、もっと続きを見たい、聞きたいと思わせなければなりません。要領を得ないエレベーターピッチでは、相手アナウンサー はそれ以上話を聞こうとは思わないでしょう。大勢の人と話す機会のある交流イベントのような場では、とくにそうです。エレベーターピッチとは、その名の通り、エレベーターに乗っている 1 分程度のわずかな時間で、伝えたいことを明確に伝えることです。エレベーターピッチは、就職説明会、学会、交流イベントだけでなく、 LinkedIn のプロフィール、カバーレター、履歴書にも活かすことができます。
研究者は、手の込んだスライドや専門用語だらけのポスターによる研究発表には慣れていますが、ちょっとしたときに研究についてその場で簡潔におもしろく話すことには不慣れです。私がこのことに気付いたのは、一般の観客に向かって自分の研究を 3 分以内で紹介する「 3-minute thesis competition 」というサイエンスコミュニケーションの大会に参加したときでした。最初は、専門知識を持たない相手に、研究をたった 3 分で伝えるのは容易なことではないと感じました。そこで、研究を違う角度から見てみることにしました。研究の要点を抽出し、分野の専門知識を持たない人に説明しました。友人に聞き役になってもらい、なるべく分かりやすく、興味を引くように話す練習もしました。友人からのフィードバックは、文章を練る上で大いに役立ち、結果的に、 People’s Choice Award を手にすることができました。このときの経験が、エレベーターピッチに関するこの記事を書くきっかけになったのです。
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以下は、完璧なエレベーターピッチに練り上げるためのヒントです:
自己紹介をする: 挨拶をし、自分がしていることを簡単に述べる。新卒者なら、簡単に学歴(学位、専攻、副専攻、課程など)を述べる。 例: 「 Hello, my name is Nashrah, and I have a PhD in biological sciences from Kent State University.(こんにちは、ナシュラーと申します。ケント州立大学で生物科学の博士号を取得しました。)」 目的を述べる: エレベーターピッチの目的を決める(就職、共同研究者探し、フリーランスの求職、自分の売り込み)。自分が関心を持っている分野を簡潔明瞭に説明する。 例:「 I am interested in a position as a scientific writer in the medical writing industry.(メディカルライティング業界のサイエンスライターの仕事に興味があります。)」 過去の業績について述べる: もっとも有意義な実務経験(職歴、インターンシップ、ボランティアなど)を伝える。 例:「 I have been involved in translational research in arthritis during my graduate studies, and I have also had an internship as a guest writer at XYZ company, where I discovered that I really enjoy medical writing.(大学院では、関節炎に関する橋渡し研究を行いました。インターンシップで XYZ社のゲストライターとして働いていたときに、メディカルライティングの楽しさに目覚めました。)」 自分ならではの能力や強みを強調する: 自分が提供できる価値をアピールする。目的に関連する自分の技術、知識、個性を伝える。自分の最大の強みを説明し、目的のポジションに自分がもっともふさわしい人材であることを示す。 行動のきっかけを与える言葉で締めくくる: 質問や、相手に何かしらの行動を促す言葉で終えるようにする。相手に何を求めているのかをはっきりと伝える。 例 1:「 Would you mind if I set up a chat with you later?(改めてお話しをする時間を頂いても構いませんか?)」 例 2:「 Can I get in touch with you to tell you more about a possible research collaboration opportunity for us?(共同研究の可能性について改めて相談したいので、連絡先を教えて頂いてもよろしいですか?)」 エレベーターピッチがまとまったら、必ず練習しましょう。鏡の前で声に出して読むか、読んでいる自分の姿を撮影してみましょう。その際、時間を計って 30~ 90秒程度に収まるように調整することもお忘れなく。また、その話を「誰」にするのかも意識しましょう。たとえば、学術界での研究職を目指すか、企業への就職を目指すかで、話の調子は変わってくるはずです。後者なら汎用性のあるスキルを強調した方がいいですし、前者なら、研究や指導能力に焦点を当てた方がいいでしょう。
エレベーターピッチは、雇用者や共同研究者になるかもしれない人との数分間を、最大限に活かすためのものです。完璧なエレベーターピッチを書き上げ、徹底的に練習したら、いざ、ネットワーク構築の機会をつかみに行きましょう!
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