妊娠と研究の両立:女性研究者が向き合う困難

妊娠と研究の両立:女性研究者が向き合う困難

妊娠中は、女性の人生においてもっとも喜ばしくも、困難を伴う期間でしょう。妊娠中は、身体の変化に対応しなければならないだけでなく、ライフスタイルも調整する必要があります。妊娠期間を安全で健康的に過ごすには、健全な状態を確保しなければなりません。その方法は人によって異なりますが、一般的には、特定の肉体労働をしないようにする、長時間労働を回避する、といったことが必要になるでしょう。となると、子どもを持とうとする女性研究者が抱える主な懸念の1つは、子を持つことによって仕事を続けられるかどうかということです。この記事では、妊娠中または子どもを持つつもりの女性研究者が抱える課題や考慮すべき点について詳しく紹介します。


キャリアへの影響


一般的に、女性研究者が妊娠・出産を考える時期は、キャリアの構築に必死になっている時期と重なります。したがって、多くの女性は、妊娠・出産を計画するに当たり、難しい決断を迫られることになります。

仕事への影響を最小限に抑えられるように、妊娠の時期を調整する女性もいます。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で人類学の研究を行うケイト・クランシー(Kate Clancy)准教授は、「私は、第一子の妊娠時期が、学位論文を書く時期と重なるように調整しました。第二子を産むまでに、次の段階に移っていたいと考えていました」と、自身の経験を述べています。しかし、このようなやり方は、すべての人ができるものではありません。博士課程在籍中に結婚と2度の出産を経験した分子生物学研究者のビッキー・ハウ(Vicky Howe)氏は、「はじめは、出産は博士号を取得してからと思っていたのですが、博士課程2年目の途中で考えが変わり始めました」と述べています

妊娠・出産をためらうもう1つの要因は、出産・育児休暇を取得する必要性と、それがキャリアに与える影響です。英国南極観測局の主任研究員、エリック・ウォルフ(Eric Wolff)氏は、「長期の出産・育児休暇によって、国際コミュニティにおける存在感が低下する」と指摘し、「所属機関が女性をサポートし、休暇中も研究コミュニティの一員であると感じられるようにすべき」と主張しています。


妊婦への先入観


毒物学者で、職場での化学物質の安全性について英国政府のアドバイザーを務めるポール・イリング(Paul Illing)氏は、「妊婦に対する先入観が広がっている(後略)」と指摘しています。妊娠した女性研究者は、自分が戦力と見なされなくなってしまうことを避けるために、指導教官やチームに妊娠を告げることをためらってしまうのです。

エリザベス・ペイン(Elizabeth Pain)氏は、Science誌で発表した論文で、「重要な会議への出席や、海外留学、助成金の獲得、異動・昇進などの機会を逃すのではないかという恐怖から、指導教官に妊娠を告げる時期が遅れることは珍しくない」と主張しています。

タタ基礎研究所(ムンバイ)のシューバ・トール(Shubha Tole)主任教授は、「妊娠によって女性研究者のキャリアが乱されるべきではない」と述べており、指導教官が妊婦への理解を深めてサポートするべきだと考えています。実際、トール氏は、妊娠中の3人のポスドクがプロジェクトを進められるようサポートしています。


支援制度の不足


実験室での作業は、有害な病原菌や化学物質にさらされる可能性があるため、妊婦や胎児にとって危険な場所となり得ます。制度上の規制があれば、妊娠中の女性の安全を確保することができるでしょう。第一子妊娠中にニューヨーク州立大学ストーニーブルック校でポスドクをしていたジリアン・ニッセン(Jillian Nissen)氏は、「実験室で扱っていた化学物質の中には、きわめて慎重にならざるを得ないものがありました」と述べています。残念ながら、妊婦に対する化学物質や病原菌の影響についての情報を持っている研究室は少ないため、自分で対応するしかないことが多いのです。

いくつかの国では、妊婦の職場での安全を確保するための方針や法律が定められています。たとえば欧州は、1992年の欧州指令(European Directiveで、女性従業員から妊娠を告げられたら、監督者がリスク評価を行うよう求めています。一方、米国では、女性が実験室で安全に作業を行うための適切なガイドラインを用意している学術機関は限られています。そのような場合は、監督者がイニシアティブをとって、妊娠中のチームメンバーの安全を確保することになるでしょう。

妊娠すると、不安感や、つわりや、睡眠パターンの乱れなど、日常生活に影響を及ぼす問題に直面する場合があります。それでも、指導教官やチームメンバーの理解があれば、妊娠中も安心して研究を続けることができるでしょう。科学・研究界において、女性は重要な戦力となっています。女性が安心してキャリアを継続させられるようにすることは、助成団体や研究機関の優先事項であるべきでしょう。クランシー氏は、「コンプライアンスや頭数ばかりを気にするのではなく、実際に女性が科学界の一員となれるような方針が必要です」と述べています。


妊娠とキャリアの両立


妊娠中も仕事を続ける決意と勇気を示す女性には、頭が下がります。南アフリカ大学の博士課程に在籍中のアデホーク・バヨワ(Adejoke Bayowa)氏は、妊娠中に博士号取得を目指して奮闘していた当時の心境を、次のように述べています:「ゆっくりとでも着実に、博士号取得の道を突き進んでいくことに決めました。私たちの辞書に、“あきらめる”という言葉はありません。我が子も私も、新生活を楽しみにしています」。

これから母になろうとしているすべての女性の幸せを願っています!


参考資料:


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