科学探究の土台となるリサーチクエスチョン

科学探究の土台となるリサーチクエスチョン

すべての科学研究に共通するのは、「何かを知る手がかり」を得ようとしている点です。特殊性の高い研究でも(例 化学反応の温度が生成物に与える影響)、比較的一般的な研究でも(例 海洋プラごみの処理方法)、あらゆる研究にはパーパス(目的、意義、指針)が必要です。それを表すのがリサーチクエスチョンです。この記事では、リサーチクエスチョンのまとめ方に関するヒントを紹介します。

 

リサーチクエスチョンとは何か


リサーチクエスチョンは科学研究の土台となるものです。狙いを定めて研究の方向性を決め、境界を定め、限界を設ける役割を果たします。全体の枠組みとなるリサーチクエスチョンがなければ、目的から逸れ、時間とリソースが浪費され、研究の堅牢性が低くなってしまいます。

 

リサーチクエスチョンとは、研究によってその答えを求めようとしている「問い」であるとも言えます。通常は、対処する必要のある課題や問題に関係するものがリサーチクエスチョンとして設定されます。論文では通常、冒頭でリサーチクエスチョンに言及した後、締めくくりの考察または結論のセクションで再び言及します1

 

リサーチクエスチョンをどのように書き表すかは、非常に重要です。読み手はリサーチクエスチョンで研究の質を瞬時に判断し、論文を読み続けるかどうかを決めます。また、リサーチクエスチョンによって研究助成金の獲得が左右されることもあります。

 

リサーチクエスチョンは仮説とどう違うのか

 

一般的に、リサーチクエスチョンは問いであり、仮説は主張(ステートメント)です。リサーチクエスチョンは指針となる骨組みであり、仮説はリサーチクエスチョンを定量化したもの、つまり証明または反証しようとしている事柄を具体的に述べたものです。

 

リサーチクエスチョンはどのようなときに必要になるのか

 

リサーチクエスチョンは、定量的研究と定性的研究だけでなく、その両方を組み合わせた混合研究でも、工学やコンピューターサイエンスから人類学や教育学まで、あらゆる分野で用いられます。すべての研究は、当然ながら、何かを学ぶ目的で設計されます。リサーチクエスチョンは、研究者が何を学ぼうとしているのかを反映するものなのです。

 

リサーチクエスチョンは、実施しようとしている研究の種類によって決まると同時に、研究の方向性を決めるものでもあります。研究デザインは、主に定量的・定性的の2種類に分けられますが、それらをミックスさせた研究も可能です。問いの立て方は、デザインの種類によって以下のように異なります。

 

定量的研究は、測定値と変数に基づくものです。このタイプの研究では通常、統計を使ってグループ間の比較を行なったり、関連する要因を特定したりします。たとえば、天候はCOVID-19の蔓延にどのように影響するかといったことを調べます。

 

定性的研究は、数値よりも文言や意味内容に重点が置かれます。このタイプの研究での目的は、探求し、理解し、発見することです。たとえば、主要都市のホームレスに影響を与える要因などについて調べます。

 

リサーチクエスチョンはどのタイミングで設定するのか

 

リサーチクエスチョンは研究の指針となるものなので、研究デザインを作成する前に設定する必要があります。研究の方法とデザインは、リサーチクエスチョンから導かれるものです。調査研究やレポートの執筆に着手するきにまず必要なのは、目的が何なのかをはっきりさせることです。目的を明確にしておくことで、その後のプロセスで時間と労力を浪費する事態を避けることができます。

 

リサーチクエスチョンの立て方

 

リサーチクエスチョンの作成は1つのプロセスです。リサーチクエスチョンは、研究目的の焦点が絞られていくにつれ、変化し、洗練されていきます。その意味で、動的であるとも言えるでしょう1。一定の手順に従うことで、プロセスがスムーズになり、リサーチクエスチョンを立てやすくなります。以下に紹介する手順はごく一般的なものなので、状況に応じて使い分けてください。

 

手順:

 

1. おおまかにトピックを決める–研究では膨大な時間を費やすことになるので、関心の高い領域を選択しましょう。調査するに値する、有意義なトピックを選ぶことをお勧めします。

例:持続可能な建材

 

2.トピックに関する文献レビューを行う–これには2つの目的があります。まず、選んだ領域で現在どのような研究が行われているのかを知ることができます。また、研究の方向性を左右するかもしれない潜在的なギャップを知ることができます。

 

3. 焦点を絞っていく–リサーチクエスチョンの候補を絞り込みましょう。ステップ2で気づいたギャップに注目してもいいですし、過去の研究結果の発展や反証を試みることも可能です。

例:コンクリートブロックに代わる建材としてリサイクルペットボトルを使用することの構造的および熱的影響は何か?

 

4. リサーチクエスチョン候補を評価する–これは、適切な問いかどうか、さらに修正が必要かどうかを判断するために行います。評価の一般的な方法として、以下のようなFINER基準があります2

 

F – Feasible(実行可能):問いが自分の調査能力の範囲内にある。データを収集して調査を完了するためのスキルとリソースがある。

 

I – Interesting(興味深い):自分だけでなく、他の研究者や周囲のコミュニティにとっても興味深い研究である。

 

N – Novel(新規性がある):新たな見方を提案する、過去の研究を裏付けるなど、対象分野に新たな知見をもたらす研究である。

 

E – Ethical(倫理的である):審査委員会などの関連当局の承認を得られるリサーチクエスチョンまたは研究である。

 

R – Relevant(有意義):分野にとって有意義なリサーチクエスチョンである。また、公益に資するものであればなお望ましい。

 

これらの基準を、建材としてリサイクルペットボトルを使用するという、先ほどのリサーチクエスチョンの例に当てはめてみましょう。研究を実施するためのリソースがあると仮定すれば、これらの点はすべて満たされています。

 

5. リサーチクエスチョンを適切にまとめる–説得力のある効果的なリサーチクエスチョンは、すっきりと明快にまとめられています。定量的研究でよく使われる「PICO」のフレームワーク3は、問いのあらゆる重要な側面を検討することで、堅牢なリサーチクエスチョンの作成を助けます。リサイクルペットボトルを建材として使用する先ほどの例も用いながら、PICOを見て行きましょう。

 

P –母集団、課題、プロセス:工学で該当するのは、課題またはプロセスです。先ほどの例では、建物の建設がプロセスに当たります。

I –介入、改善、調査:可能な解決策は何かを検討します。(再生プラスチックを使用することで、建物の持続可能性の向上を目指す。)

C –比較:異なるグループ、被験者、方法(例 現在の慣行と新しい手法)を比較します。(構造的および熱的特性を、現在の慣行と新しい手法で比較する。)

O –結果:効果があったかどうかを測定します。(研究結果から、再生プラスチックがコンクリートと同様に機能したかどうかを知ることができる。)

 

リサーチクエスチョンを作成するときのよくある間違い

 

リサーチクエスチョンを立てるときは、以下の点に注意しましょう。

 

  • 表現が曖昧または不明瞭で、読み手が研究の目的を理解できない。
  • 問いが複雑すぎて、1つの研究では対処できない。
  • 問いが単純すぎる、または「はい」か「いいえ」で答えることができる。
  • リサーチクエスチョンに、すでに答えが暗示されている、または意見が反映されている。
  • 問いが凡庸で意義がない(誰も答えを気にしない)。

 

参考資料:

1. Research.com. How to write a research question: types, steps, and examples. https://research.com/research/how-to-write-a-research-question [Accessed 12 May 2022].

2. Indeed Career Guide. How To write a research question: a guide with examples. https://www.indeed.com/career-advice/career-development/how-to-write-research-questions [Accessed 12 May 2022].

3. Fandino, W. Formulating a good research question: Pearls and pitfalls. Indian Journal of Anaesthesia. 63 (2019). doi: 10.4103/ija.IJA_198_19.

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